滲んだ満月
日に日に私の気持ちが滲み出て、色水みたいに濃くなっていく。だけどその気持ちはいつまでもどこにも着地しない。赤かと思ったら青、緑、その次は黄色、それも消えていく、色水。
聴きたくないあの人の曲、イリチルの曲。でも聴いてしまった。虚しい。大好きな大好きな歌声。大好きな大好きな人。唯一無二なのに。あなたの代わりなんていないのに。どうしてこれだけのものを私たちにくれて、そんな道を選べたの?どうしてこんなに音楽が大好きなのに、すべて失う選択ができるの?それともすべて私たちの勘違いだったの?そうだとしても許せないよ。ありえないよ。最低だよ。大嫌いだよ。
1人の人間として、許せない。最悪だって思う。でも今だって聴けば大好きな歌声を、嫌いになるのは辛い。嫌いだけど、嫌いだって思うのが辛い。大好きだから。声はその人の性格や感じ方をよく表すと思う。そうだった。あの人の性格や感じ方が好きだった。
大好きだったって、過去になるのが辛い。私よりもずっと辛い人がいる。なのに辛い私がいることが辛い。こうやって嫌いとも好きとも言えずに過去を眺めるだけの私の存在が、被害者の方を苦しめることになるのではないかと怖い。
多分、ずっと、わけがわからないままだと思う。大嫌いだし、好き。嫌いだと言っても好きだと言っても本当だし嘘だと思う。私はずっと、あの瞳をあの歌を、本当だったと信じることしかできない。
テイルさんは、私にとってお月さまみたいに、この世にひとつしかないあたたかい光だったの。大好きな歌を歌う、大好きな人だったの。いくらあなたでも夜を朝には変えられなかったけど、あなたのおかげで暗闇は優しく明るかったよ。その真実だけは揺るがない。
そんな風にあなたのことを想う人が、満月の月明かりの下、切なさとやるせなさで頬を濡らす人が、ここにひとりいることが海を渡って届きますように。
本当に大好きだったよ。
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