満月
2024年8月28日18時53分。SMTOWN(SMエンターテインメント)のXから1枚の声明が発表された。「――テイルが性犯罪関連の刑事事件に訴えられた事実を――。」「――チーム脱退を決めました。」
私が推しに出会ったのは、2021年の夏のことだった。その頃NCT 127は3rdアルバム「Sticker」の活動中だった。Twitterのトレンドに頻繁に浮上する「イリチル」の文字が気になっていた私は、ついに「イリチル」とは一体何なのか、検索をかけることにした。Safari の検索欄にカタカナ4文字を打ち込み検索をかけると、正式名称がNCT 127であること、韓国語読みでイリチルとなっていることが分かった。NCT、NCT 127という名前はそれ以前にも聞いたことがあり、知識が紐づいてスッキリした。その澄んだ気持ちで今度はMVを見てみた。なあんか、顔かわいい人いるな。Twitterで調べると、その人の名前はジョンウだということが分かった。背が高くて色が白くて目が輝いてて、まっすぐで一生懸命でかわいい。もっと知りたくなった。K-POPとグループの沼というのは非常に丁寧に間口が広く作られている。Twitterで調べればライブや出勤、出国の写真からライブ映像、コンテンツの旨いところ切り抜きなどがごまんと出てくる。まんまとハマった。「イリチル」に。
そうやっていろんな情報を摂取しているうちに、気がついたらYouTubeの視聴履歴があるメンバーの動画で埋まっていた。イリチルの長男でありNCTの長男であるテイルだ。ぼーっとしていてちょっとアホで、無邪気で、口数が少なくて、顔が可愛くて、何より歌が上手い。テイルペンだと自覚したころには、好きなところを長々と羅列できるようになっていた。
それから3年間は長いようで短かった。407倍の倍率をくぐりぬけて大学に合格したこと。事務所に何回もスカウトされて入社を決めたこと。氷や肉の骨で喉を詰まらせそうになったこと。音楽のターニングポイントはまだ来てないと言ったこと。「後悔をしているか」と問われて「絶対に後悔しません」と言ったこと。動物が好きなこと。コーラとサワークリームオニオン味のポテチが好きなこと。音楽と歌への情熱。静かで確かな人への気遣い。感情の起伏を見せないようにしていること。言葉数は少ないけれど自分の言葉で話してくれること。何も考えてないような顔をして、いつもバランスをとって空気を明るくしてくれること。いろんなことを知った。そのすべてが大好きだった。
コロナで出演できなかったドームツアーの名古屋公演、VCRでテイルさんの顔が流れた瞬間、私は泣いたよ。その後何もなかったように戻ってきたのを見て、やっぱりこの人が好きだと思った。オーラスで涙ぐんでるのを見て、イリチルを、テイルさんを応援してきてよかったと思った。こんなにちゃんとファンのことを見てくれる、気持ちを受け取れる人達を好きでよかったと思った。なにより歌声ひとつで会場を一つにする、テイルさんのその姿が、矜持が、かっこよかった。この先もずっと聴き続けたい、この人が歩みたいと思う道を微々たる光でもいいから照らしていたいと思った。
トラックに追突されて大怪我したと知ったとき、正直テイルさんなら大丈夫だと思った。どっしり構えてるから。でも日に日に心配になった。準備してきたことたくさんあったから。初のNCT全体のライブであるNCT NATIONに向けてどれだけ準備していたのか。どんな気持ちだったんだろう。ファンとしても今まで見たことのないテイルさんの姿を見られるのをとても楽しみにしていたから残念だった。でもまた、NCTがある限り、いつになるか分からないけど復帰したら、見られるかもしれないって希望があることが救いだった。
でも、辛いことはその先もずっと続いた。テイルさんがいないことが普通になっていった。それでもいつまでだって待てるよ。そう思っていた。ソロで曲が出るたび本当にうれしかった。彼がまだ歌いたいって、歌への情熱を失っていないって確認できたことが。だからずっといつまでだって待てるって思えた。たまに来るbubble、たまに上げてくれる歌、言葉は少なくてもよくわかった。待てる。
そう思っていた。
2024年8月28日18時53分。SMTOWN(SMエンターテインメント)のXから1枚の声明が発表された。「――テイルが性犯罪関連の刑事事件に訴えられた事実を――。」「――チーム脱退を決めました。」
頭が真っ白になった。とても信じられなかった。信じたくもなかった。理由も、結果も、なにひとつ理解できなかった。文章に一文字もないアルファベット、大好きなNCTという文字。
トレンドに並ぶ「テイルさん」という名前。私が大好きだった、ファンがみんな愛しく微笑ましく口に出す名前。少しでも情報が欲しくて、必死にスクロールした。混乱している人。怒っている人。悲しんでいる人。私が求めている情報はどこにもなかった。
寝られなかった。仕事をしていてもずっと、なんで、本当なの、嘘でしょ、何か言ってよ、そんな言葉が脳をグルグルした。
全然送ってくれなかった愛おしいbubbleも、翌日には終了した。見返したらいっぱいあった。一番知りたいことは何も言ってくれなかったのに。
考えれば考えるほど分からなくなる。あの時くれたあの言葉や、あの瞳や、あの歌は、嘘だったの?私は嘘だとは思えない。いつもその結論に辿り着く。テイルさんがなんていうかは分からない。でも、私は、彼が何と言おうとずっと本当だったと思い続けるだろう。だから、彼に聞く必要はない。本当だった。ありがとう。私を照らしてくれて。
考えれば考えるほど分からなくなる。今、何と言うべきなのか。好きな人にはずっと笑っていてほしい。傷ついた人が救われてほしい。すべての人が月の光のような柔らかな光に包まれていてほしい。そう、言っていいのだろうか。分からない。
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