ばれいしょ
その男爵イモは世界のホクホクを一手に担っているかのような出で立ちであった。
その男爵イモは、男爵イモというよりむしろ、イモ男爵であった。
その男爵イモは、あのハンバーグよりも目立っていた。だからイモ男爵であった。
そのイモ男爵はあのハンバーグのための濃厚デミグラスソースを我が物顔でその体に纏わせていた。やはりイモ男爵であった。
あのハンバーグには選べるライスかパンが付いていた。
あのハンバーグは間違いなく鉄板という舞台の主役を張っていた。
あのハンバーグは肉汁溢れるタイプではなく噛めば肉のうまみがじんわりと口腔内に広がる硬派なあいつであった。
クレソンもインゲンもあのハンバーグにひれ伏していたというのに。
イモ男爵 ああイモ男爵 イモ男爵
存在感が付け合わせのそれではないのである。
そして誤解のないように断っておくけれどイモ男爵様は美味しい。
選べるライスやパンという炭水化物枠の重役が別皿で遠巻きにこちらをうかがっているのにも関わらず、テニスボール大の男爵様が鉄板に収まるためには相応の実力を有している必要がある。当然といえば当然である。
実は男爵様と対峙するのは今日が初めてではない僕は、その圧倒的存在感に委縮しないように、念のためにスープのないコースを選択しておいた。
にもかかわらず、である。
腹の中に納まった男爵様は別で摂取した水と結託してさらに膨らむという荒業を繰り出す。
こちらも少しでも胃袋の空間に空きを作るために左右に背中をよじってみるが焼け石に水である。まだ男爵様は鉄板の上に4分の3ほどおわせられるのだ。
とはいえハンバーグのうまみ、そもそも男爵様の味のポテンシャル、デミグラスソースの奥深い味わいに助けられ、何とか僕に軍配が上がった。はずであった。
妻「ごめんなさい、私の分も食べてもらえる?」
こうして、我が家の春休みが終わっていくのであった。