不死サミットに行ってきた
9月8日にサンフランシスコで開催された不老不死がテーマのイベントに行ってきたので、その様子と感じたことをレポートしたいと思います。
イベント概要
イベントの名称は「Don’t Die( =不死)Summit」。まずその直球ネーミングにぎょっとするが、仕掛け人はシリアルアントレプレナーのBrian Johnson。これまでに立ち上げたいくつかのテック・スタートアップで巨万の富を築いた人物で、ここ数年は自分の不老不死への取り組みをSNSなどで公開していることで話題になっている。このイベントのウェブサイトでもトレパン一丁でエクササイズする本人の濃いビデオなどががたっぷりフィーチャーされているので、興味のある方は以下のリンクからご覧いただきたい。
イベント当日はなんと朝7時からのRaveでスタート。RaveとはいわゆるDJ付きのダンスで、案内には、このRaveで朝から気分をめちゃくちゃ盛り上げようぜ、とある。ヒッピーやバーニングマンのノリを予想したので、これはスキップ。
9:30amぐらいに元倉庫を改造したイベント会場に入ると健康関連のベンダーのブースが10ほど並んでいて、お肌のコンディションを測れる美容系マシーンや体の健康年齢がわかるアプリの前には、長蛇の列が。て
そのにぎやかしの展示スペースの奥がトークセッション会場となっており、ざっと500名ぐらいのキャパだったと思うが、立ち見も出る状況となっており、これからどんなセッションが始まるか、会場の雰囲気が高揚感で満ちていた。
まずテック業界の有名人をちゃかして笑いをとるので人気の出たユーチューバーが前座を務める。彼らがオーディエンスに挙手を促して年齢層や職業などの簡単なサーベイを実施したのだが、それが私が来場前に想像していた人物像(=ヒッピー含めエキセントリックな人々 + 不老不死の野望に取り憑かれた超富裕層)から以下の通り大きくかけ離れていた。
年齢層:半分以上がが20~30代 続いて40~50代、ごく少数に10代、70代以上
職業:普通のプロフェッショナルがほとんど(テック系流石に多い、学生もかなり来場していた模様)
実際会場を見渡してみても、若くてとても健康的な普通の人々がほとんどで、いかにも普段からワークアウトしている風も多い。
そしてキーノートに待望のBrian Johnsonが登場。自分がこのプロジェクトで何を目指しているのかを理路騒然と説明した後、会場とのQ&Aでのディスカッションが1時間程度続いたのだが、このセッションが異様な熱気に包まれたのだった。不老不死を促進するテクノロジーの可能性から、倫理的・宗教的な懸念事項まで、概念的・哲学的なやりとりが延々と続く。
このイベントの参加者は先進的なものを積極的に取り入れようとするアーリーアダプターであるものの、そのやりとりからは、不老不死というまだくっきりと見えていないものに対して若干の恐れが感じられたのだが、それと同時に、AIなどの最新テクノロジーによって切り拓かれる不老不死のフロンティアに対しての大きな期待感と高揚感があった。
以下のビデオは、不老不死についての自分の考えを熱く語る21歳の学生。
熱いディスカッションで盛り上がったキーノートのあとは、一転して効果的な睡眠方法や目的に合わせたエクササイズメニューの紹介など、体や心の健康を維持するための実践的なセッションが午後まで続く。そこでもセッションごとに会場からスピーカーに対して矢継ぎ早の質問が続き、ウェルビーイングへの関心の高さがみてとれた(それに関心が高いからこのイベントに来たわけであるが)。
Longevity = 長寿テックの盛り上がり
欧米のバイオ関連の研究者やスタートアップの間では、長寿テックはコロナの前から盛り上がってきている。最初にこの分野が注目されたのが、老化の研究のパイオニアであるCynthia Kenyonが線虫の遺伝子をひとつ変異させると寿命が2倍になることを発見した1993年と言われている。筆者も6年ほど前にLongevityのリサーチプロジェクトを行ったのだが、荒削りなものも含めて、その時すでに相当先進的なアプローチが幅広い分野にわたって試みられていた。
それ以降確実にLongevity=長寿テックは進化してきており、今回初めて一般客を対象とした大々的なイベント開催となったわけであるが、前述した通り、いわゆる普通の(若い)人々がより健康なライフスタイルを実践するための情報収集を主な目的として来場していた。いきなり不老不死と聞くとキワモノ感がぬぐいきれないものの、少なくともサンフランシスコではLongevity がウェルビーイング実践の一つの指標としてもっと身近にあるものなのだと実感したイベントだった。
所感
不老不死自体にはまだまだ技術的・倫理的に課題が残るものの、健康寿命を維持することに、これだけ若くて健康な層が興味をもっているのかと驚いた(若い時に不健康なものに興味をもつことも少なくないので。特にZ世代は健康志向である)。
今回のイベントで、サンフランシスコならではと感じたのが、やはりキーノートセッションでの、来場者とBrian Johnsonとのオープンディスカッション。明らかにまだ存在していないものへの恐怖感や期待感などが織り交ぜになっているなか、それぞれの参加者が手探りで自分なりの不老不死への思いや考えを言語化し、ディスカッションを通じて少しづつその在り方を腹落ちさせ、方向性を見出す過程に遭遇することができた。
ディスラプティブなものが生まれて広まる時、こういうプロセスが欠かせないのだと思うし、そのやりとりを生で目撃して、Longivityの市場はこれからますます大きくなっていくことは間違いないと体感したサンフランシスコ2024年9月の1日でした。