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Vシネクスト「仮面ライダーセイバー・深罪の三重奏」感想(ネタバレ前提)
濃密すぎる72分間の物語
この作品を最初に観たとき、72分というコンパクトな上映時間の中によくこれだけのものを詰め込んできたなという感慨を覚えた。
異世界ワンダーワールドやタッセル、マスターロゴスといったケレン味の強いキャラクター達が存在したセイバー世界とは別の世界線であるかのような、落ち着いた色調で描かれる、8年後の飛羽真達の日常風景。
その中にいくつもの違和感を感じさせる事象や不穏な描写があり、それらがフックとなって物語に引き込まれていく。
飛羽真・倫太郎・賢人のそれぞれに起きる物語が並行して語られ、アメイジングセイレーンワンダーライドブックと無銘剣虚無の存在がそれぞれの物語を繋いでいく。
飛羽真と陸の物語は丁寧に描かれている印象だが、倫太郎と彼の父親を名乗る男真二郎との物語、賢人と婚約者の結菜との物語は必要最小限の描写に留められているように思えた。
それでもあまり尺の短さに物足りなさを感じないのは、彼らが一年間演じてきたキャラクターへの想いが、厚み・深みとなって感じられたからこその説得力だろうか。
また、3人と絡んでくるゲストとの関係性も印象的に描かれ、3か所に分かれて展開する物語を一気にまとめ上げてくる疾走感が凄い。そしてTVシリーズのセイバーとは異なるテイストの重さ・暗さを抱えた悲劇的な物語なのに、最後はセイバーにふさわしい優しい物語にまとめ上げる手管が見事すぎた。
わかりにくい部分はあるが、それは制作側があえて仕掛けたものであり、繰り返し鑑賞する楽しみに繋げてみせる。
見事に上堀内監督の手のひらで踊らされた気分である。素晴らしい。
剣士たちの罪と罰
子供が見るTV番組としての規制から解き放たれたこの作品では何かと血が流れるシーンが多い。流血は殺傷するための武器としての剣の役割を印象付ける。
そしてこの映画で登場する聖剣には「諸刃の剣」という言葉が意味するように、守るための力と傷つける力という相反する意味合いがあるように感じられる。
生々しい傷や流れる血は世界を守るために戦ってきた剣士達が負ってしまった罪=犠牲の象徴だろうか。
しかし彼らはその痛みを受け止めながら、剣を取る。
飛羽真は心を閉ざした陸を前に進ませるために、倫太郎は大切な人達を、世界を守るために、賢人はセイレーンのブックの力に飲まれようとしている結菜を救うために。その想いの強さが彼らのすべてを背負って戦う覚悟となり、変身へと至る流れが素晴らしかった。
TVシリーズでの剣士達は想いを剣に乗せて戦い、剣を通しての対話の末に飛羽真と剣士達が心を通じ合わせる過程が描かれた。剣に想いを乗せて戦う、という描かれ方は、今回の映画の剣戟アクションではより強く感じられた。
バトルシーンは決して長くはなかったが、短いがインパクトのある演出で彩られた戦いには「仮面ライダー」であり「剣士」である彼らの想いが焼き付いていたように感じられた。一見仮面ライダーらしくない、と思われるこの作品だが、最後にはやはり仮面ライダーの物語として納得できるものであったと思う。
神山飛羽真という存在
「絶対に助ける」「約束だ」
TVシリーズの神山飛羽真は世界の危機に向き合いながらも、臆することなく一人の少女を救おうとする男だった。叶えられるか定かではない約束を守ろうとする、あまりにも真っすぐなヒーロー像は、人によっては薄っぺらく感じられたかもしれない。(個人的には飛羽真を演じた内藤秀一郎さんの演技に惹きつけられて素直に受け入れられていたのだが)
しかし物語の終盤で飛羽真が全知全能の書によって選ばれた英雄であることが発覚することによって、飛羽真のヒーローとしての在り方はより強い説得性を持つようになった。
そして今回の作品で描かれた8年後の飛羽真は、メギドによる脅威が存在しなくなった世界で、心を閉ざしたままの陸に真摯に向き合おうする父親である。その飛羽真からは、以前のような力強く鼓舞するような言葉は聞くことができない。
それどころか炎と剣を恐れる陸に、彼が心を閉ざしているのは自分のせいかもしれない、陸には自分がそばにいない方がいいのではないかと弱音まで吐く始末である。
すべては陸を案じてのこと…戦う力は持っているのに、飛羽真は聖剣を封印してそれでも陸を守ろうとする。そんな飛羽真の姿は彼の贖罪のようにも見える。ファルシオンの襲撃を受けても、火炎剣烈火を手にしようとはせず、傷を負った身で陸が唯一心を許せる友であるラッキーを探そうとする。
間宮に「陸にはおまえが必要なんだ」と叱咤され、彼の言葉に力づけられた飛羽真は、ようやくすべてを受け入れて陸を守り抜く覚悟を決める。彼の想いに呼応するかのように火炎剣烈火が現れ、ブレイブドラゴンへと変身するシーンはあまりに凄まじく、美しかった。
喪失の記憶に囚われ前に進めずにいた陸と、父親を奪った存在を憎み長い復讐の日々を送ってきた間宮。元々一人であった二人を救ったのは、どちらも飛羽真の存在だった。共に過ごしてきた8年間で確かなものになっていった絆が彼らを救うことになった。
間宮と陸は過去の記憶に跳び、無銘剣虚無を手にしたことで始まった8年間の歴史は新たなものへと変えられた。
人の想いが物語を作り、世界を動かす力をも持つ。陸=間宮は飛羽真に教えられた通りに想いの力で世界を変えることができたのではないだろうか。
すべてが終わり、陸と間宮も消えた後、おそらく飛羽真だけが8年間の記憶を失わずにいるのだろう。
陸との思い出の高台の公園で空を見上げる飛羽真には、TVシリーズ最終章で一人ワンダーワールドで消えた人々の物語を書き続けた飛羽真が重なって見えた。飛羽真はこれからも人々の想いを大切に守り続け、物語を紡ぎ、世界を守っていくのだろう。
やはり神山飛羽真は英雄だった。
考察めいたもの(というか妄想)
陸の親が剣士の戦いに巻き込まれて亡くなったと飛羽真のセリフにあったが、その情報はどこから出てきたものなのだろう。陸がいた施設の人情報?炎と剣を怖がるところからの推測?真二郎・結菜の過去に関しては間宮がセイレーンの力で記憶を改竄した可能性もないとはいえないが(個人的にはセイレーンの力で悪意を増幅されてはいたが記憶の改竄はないと思う)、陸については本当に剣士の戦いに巻き込まれて親を失ったのかと。
で、ここからは自分の妄想なのだが、ラッキーは陸の本当の父親の記憶を宿していたりするんじゃないかと。辛い記憶に縛られている陸に前に進んで欲しくて、飛羽真を新しい父親として受け入れさせようという目的で、陸を飛羽真との思い出の場所に導いていたとか…陸が飛羽真を父親と認めたことで、ラッキーは飛羽真に陸を託して、安心して命を終えたのかなと。
ラストについては、整合性を取ろうとすると頭が痛くなるのだが、自分の希望としては、陸は間宮に統合されて、もう飛羽真の子供にはなれないからせめて飛羽真の友として生きたいという間宮の想いの力で、飛羽真と同じ年頃の姿で今(8年後?)もどこかに存在しているのかなと。エンディングでは、間宮が物語を通じていつか飛羽真と巡り合って友情を育む可能性が示唆されているのかな。最後の幼い陸が遊ぶ姿は、飛羽真がセイレーンの力で最後に陸に辛い記憶を上書きするような暖かな記憶を与えたのかな…とか。プリミティブドラゴンを救った時のように。