1 坂道食堂
まだ太陽が昇りきっていない朝早く。
都内のとある場所のとあるキッチンから心地いい音が聞こえていた。
音とともに香ってくる美味しそうな匂い。
その匂いにつられてか、一人の少女がまだ眠そうな表情のまま姿を表した。
遥香「〇〇おはよー」
賀喜遥香はキッチンで一人朝ご飯の準備をしている喜多川〇〇の姿を見ると嬉しそうに微笑みながら挨拶を投げかける。
〇〇「あ、遥香さん、おはよう」
手にしていた包丁を叩く手を止めて、遥香に挨拶を返す。
遥香は満足そうにキッチンのカウンターテーブルに腰掛けた。
〇〇「遥香、今日早いね」
遥香「うん、雑誌の撮影シーンの関係で早くいかないと行けなくてね〜」
〇〇「大変だね、頑張ってね。今日はどうする?」
遥香「そうだな〜、お魚のいい香りがするから和食で!」
〇〇「ふふ、りょーかい。ちょっとまっててね」
そう言うと〇〇は手を止めていた朝食の準備を再開した。
ここは遥香たち坂道グループのアイドルたちが暮らす合同寮に併設された食堂、通称「坂道食堂」。
〇〇は彼女たちの栄養管理を任されている専属料理人である。
つまり、〇〇の仕事は遥香たちアイドルのご飯を作ること。
〇〇「はーい、和朝食おまたせー」
遥香の前にお盆にのったこれぞ日本の朝食といった見目も美味しい朝ご飯が出された。
ご飯に味噌汁、おひたしにお漬物、定番の焼き鮭に、なんとも嬉しい存在のとろろ。
朝は少食派の遥香でさえも、このご飯の前では食欲が掻き立てられてお腹が空いてくるのだった。
遥香「おいしそー! いただきまーす!」
〇〇「はーい、召し上がれ〜」
遥香はお味噌汁から味わっていく。
どれも美味しい、絶妙な味加減。
朝から幸せな気分になる。
食べ勧めていくと次第に食堂にメンバーたちが姿を表す。
ご飯を食べながらも、おはよう、と挨拶を交わしていく。
菜緒「あ、かっきーおはよう」
もうすぐ食べ終わるかというところで関西弁のイントネーションで柔らかい挨拶が飛んできた。
お味噌汁を飲みながら顔を上げると、日向坂46の小坂菜緒がまだパジャマ姿のまま食堂にやってきた。
遥香「おはよう菜緒ちゃん、眠そうだねw」
菜緒「今日久しぶりに午後からやから昨日ちょっと夜ふかししててん」
そういいながら、菜緒は遥香の隣のテーブルに並んで腰掛ける。
〇〇「おはよー菜緒」
菜緒「〇〇もおはよ~、今日の朝ご飯なに?」
〇〇「和朝食は焼き鮭とおひたしにとろろと漬物。洋朝食はトーストとカットフルーツとサラダ、それとオニオンスープだよ」
菜緒「んー、迷うな… でも、今日は洋食で!」
〇〇「はーい、ちょっとまっててね」
菜緒の注文を確認すると〇〇はそういうとすぐにとりかかった。
菜緒「かっきーは和食にしたんやな」
遥香「うん、私が来たときちょうど焼き魚のいい匂いがしたからついつられちゃってw」
菜緒「あー、わかるわ、でもトーストとオニオンスープにサラダにも惹かれてもうたw」
遥香「それなw」
話をしていると〇〇がプレートを持ってきて菜緒の前に差し出した。
〇〇「トーストはジャムつける?」
菜緒「今日のジャムはなにジャム?」
〇〇「イチゴ」
菜緒「つける!」
〇〇「はいはいw」
遥香「菜緒ちゃん、いちごジャム好きだよねw」
菜緒「〇〇のイチゴジャムが好きなの! あんな美味しいイチゴジャムここでしか食べれへんもん」
遥香「確かに、本当に料理に関しては完璧だよね」
菜緒「ほんま、料理に関してはなw」
〇〇「おい、どういう意味だw」
〇〇はいちごジャムをぬったパンを菜緒に差し出す。
菜緒「なんでもなーい、いただきま~す! ハムッ んー! やっぱうまー!」
美味しそうに食べる菜緒。
いちごの形が残り、食感も楽しいジャムの美味しさが口いっぱいに広がり、自然と笑みがこぼれる。
あっという間にトーストを一枚平らげる。
菜緒「〇〇〜、もう一枚!」
〇〇「はいよー」
次が出てくる間に他のサラダやスープ、カットフルーツを食べる。どれもシンプルながらもひと手間加えてあって美味しい。
どれもホテルやレストラン顔負けのクオリティ。
だからこそどのメンバーも、どんなに忙しくても坂道食堂でご飯を食べると言うのは変わりなきルーティンである。
遥香「あ、もうそろそろいかないと」
そういうと、遥香は名残惜しそうに椅子を立つ。
ちょうどそれに合わせるかのように〇〇が戻って来ると菜緒のトーストとは別に、ランチバックを持って戻ってきた。
〇〇「はい、菜緒おかわりのトーストね。んで遥香はお昼のお弁当」
遥香「ありがとー! 中身なに?」
〇〇「お昼のお楽しみ」
遥香「えー、ケチー」
そんなやり取りを見ながら、隣でトーストを頬張る菜緒がからかうように言う。
菜緒「カップルみたいな会話やなw」
遥香「んなっ!///」
〇〇「えー、普通逆じゃない?w」
菜緒「ええやん、〇〇いい奥さんになれんで」
〇〇「いや、せめて主夫にしてw」
菜緒「かっきーがその気がないなら私がもらっちゃおうかな〜」
遥香「もう、なにバカなこと言ってるの!/// わ、わたしもうお仕事だから行くね! ごちそうさま!」
そう言って顔を赤らめたまま、遥香は食堂を後にした。
〇〇「もう、からかいすぎだよ菜緒〜」
〇〇はそう言いながら、遥香の食べ終えた食器を片付ける。
菜緒は小さくため息をつくと、ふたたびトーストを手に取った。
菜緒「…からかってるだけやないんやけどな」
洗い物をする〇〇の背中を見つめながら静かにトーストを頬張るのだった。
続く
この物語はフィクションです。
実在する人物などとは一切関係ございません。