【VRC】たまにはPublicで喋りに行こうかなと思ったお話【2/2】
この記事は【2/2】で、後編になります。
前編はこちら
知らない人に声をかけるって難しいですよね。
人間は相手の背景やコンテクストを理解することでコミュニケーションを円滑にする傾向がありますが、メタバース世界ではその情報が不足しがちです。
アバターは現実の自分とは異なる存在として表現されることが多く、相手の本当のアイデンティティが分からないため、接触に対する不安や不信感が生じます。
自己意識や評価に対する不安もあります。
メタバース世界でも、他者からの評価は気になりますよね。知らない人に話しかけることで、否定的な反応や拒絶を受けるのではないかという不安が生じることがあります。この評価不安が、話しかけることをためらわせる要因となるのかもしれません。
これらの要因が組み合わさって、知らない人に声をかけるということが現実以上に難しく感じるのかもしれませんね。
メタバース世界での"なでる"という行為について興味を持つお話
その日はいつも通りとは違う特別な日。
フレンドさんたちと大規模な謎解きワールドに行き、終いにはダンスワールドで踊りを動画に残すといった特別楽しい時間を過ごしていました。
思い出を記録として残すというのはとても大切だと思います。
過去の出来事は現在と共に存在し続けますが、記憶は薄れ、時間の流れの中で消え去ります。思い出を記録するという行為は、その一瞬を光の中に固定し、永遠の記憶として持続させ、その持続を可視化するのです。
楽しい時間に終わりが来ます。解散の時です。
今日も楽しかったなと、一歩離れたところからフレンドさんたちを眺めていると、それは突然起きました。
フレンドさんたちが"なであっていた"のです。
頭身の低いアバターだったこともあり、とても微笑ましい光景がそこに在りました。
口元を緩ませ和んでいると、一人、一人とワールドを抜けていき、やがて私と、最も交流の深いフレンドさんが残りました。
私も"なで"させてもらいたいな。
今思えば図々しい行為で、少し考える時間があれば自制ができたのかもしれません。しかし、その瞬間は節制より欲望が勝っていました。
視線が合い、目線を合わせ、腕を伸ばす、手が触れる。
か、どうかのところでひょいとかわされてしまいました。
これは故意?それとも偶然?
直後に始まる他愛のない会話。
その後も真意を知ることはなく、その日は解散となりました。
なでなでマッチングワールドに行くお話
"なでる"という行為に対しての興味をそのままに深夜を迎えてしまった。
金曜日の深夜帯ということもあり、どのワールドにもそれなりに人は残っていましたが、フレンドさんはいませんでした。
遊ぶ人がいない時はホラーワールドや謎解きワールドに行くのが鉄板となっていましたが、どうもそんな気になれません。
とりあえず、悩んだらLabyrinthやORGANISMの様なワールドに飛ぶ。
私は集合建築物の雰囲気が好きです。
本でしか見たことはありませんが、九龍城砦はとても惹かれます。
最期の九龍城砦なんて本もオススメです。絶版で入手困難でしたが、なんと電子書籍ならワンコインで買えてしまいます。
だいぶ逸れてしまったので話を戻します。
私は"なでる"を知りたくなりました。
以前メタバース世界での"なでる"という行為についての話を聞いた時は、鏡の前に集まることで、絵的に楽しんでいるものなのだと考えていました。
しかし、今ならそれだけでないと分かります。
VRは常に自分の想像を超えてくる。
VRChatを始めたばかりの頃と比べると、自分の考え方もまるで違っていることも自覚していますから、なおさらです。
VR世界の視覚情報は侮れません。
その没入感故に、究極の、視覚的なフィードバックを得ることができます。
たき火は熱いし、水の中は息苦しいし、うちわで扇ぐと涼しいのです。
個人差はあると思いますが、私にはどれも楽しい体験になっています。
いつだったか火を吹かれて熱くて転げまわったことがあります。
大きな声では言えませんが、その時の幸福物質の分泌はとてつもなかったです。
そんな訳で、どうしても"なでる"を知りたい私は、なでなでマッチングワールドに行くことを決心しました。
マッチング系のワールド自体行くのは初めてで緊張しますが、つまり1対1でのコミュニケーションになるわけです(たぶん)。
この時点でマッチングといってもどうやってマッチングするのかも分からない状態です。
勝算はありました。なでなでマッチングに来ているということは、少なからず"なでたい"、または"なでられたい"かのはず。
相手の目的が分かっているというのは大きいです。話題にも困りませんから。
必要なのは知らない人とコミュニケーションを取る覚悟だけ。
若干震えるポインターはタイプミスを繰り返しますがこれを突破。
インスタンスには……11人。奇数!!(これ大事)
2人1組でマッチングするものだと思っていた私的にはこれ以上とないチャンスに感じました。実際にはどうなのでしょう、3人のパターンってあるのでしょうかね。
とにもかくにも、publicインスタンスに照準を合わせ深呼吸。
いざ、なでなでマッチングワールドへ。
なでなでマッチングワールド"なでなで してほしいのですっ!!"
ワールドに入ると、FUJIYAMAのように簡単な問題を2問解答することになります。
なんとこれを1問外した私はワールドに入りなおすことになりました。
まさか外すと思っていなかったので、マイクをONのままオーバーリアクション。周りに人がいなくて良かった。
2度目のチャレンジを終えた私の前に扉が現れました。
扉の先はひらけた広間となっており、頭上にタグを付けた方々がたくさん。
まずは階段を下りた先でマッチング用のタグを選びます。
私の場合は『なでられたい、なで方おしえて、無言、ボイチェン、3点、初心者』の6つを付けました。
どう"なでる"のかを知りたかったのです。
もちろん最初から誰かを"なでる"自信もありませんでした。
ここはマッチングワールドなので、当然"なでたい人"と"なでられたい人"がいて初めてマッチングします。
広間にはたくさんの人が集まっており、マッチングを待機している方もいれば、既に"なであっている方"もいました。
そこで気付いたことは、"なでたい人"も"なでられたい人"も、待ちの方が多いことです。
待っていれば声をかけられる可能性こそありますが、声をかけられる方がjoinした場合の話です。待ちが増える可能性もあります。
結局のところ、マッチングワールドであっても話しかけられる人が強いのです。なんとなく勝手に相手が決まって~などと考えていた私はいきなり壁にぶつかりました。
知らない人に声をかけるのって難しいですよね……でも、ここにいる方々はそれだけではありませんよね。
初対面でしょうね。でも、相手の目的も明確なんです。
対話の成功は相互の了解に依存します。初対面であっても、相手の目的が分かっている状況では、その了解が既にある程度成立しており、対話がスムーズに進行します。
つまり、"なでられたい私"は"なでたい人"との対話がほぼ成功する状態にあるのです。
厳密にはアバターの見た目やVCの有無等の条件があると思いますが、ちゃんと見た目を指定する様なタグもあるので事前に確認しましょう。
そんなこんなで私も安心して声をかけることができました。
相互理解と共通の意図は不安を軽減し対話の扉を開く鍵となるのです。
なでなでマッチング
今回のミッションは"なで方"を見て学ぶことです。
もちろん、"なでる"機会が来た時にとびっきりの"なで"をするために。
普段良くしてもらっていますからね。悶えてもらいます。
それは置いておきましょう。
マッチングが完了すると広間か個室を選択します。
広間で"なでなで"をする場合は、当然ですが周りの目があります。
ボイスコミュニケーションをする場合は声が周りに聞こえてしまいます。
ちょっと恥ずかしいなと思った私は個室を選ばせてもらいました。
個室は内側から鍵をかけることができます。便利ですね。
もし鍵をかけ忘れていると間違って人が入ってきてしまうかも。
個室は10部屋あるのですが、外側からはどの部屋に何人入っているとかは分かりません。鍵が空いている部屋の表示は緑色、鍵が閉まっている部屋は表示が赤色になるのです。
実際に、"なで"をしてもらっている途中で相手の方が立ち上がって鍵を閉めに行くということがありました。
「なんでもないよ」と微笑みながら鍵をかけられ、私の胸は早鐘を打ちました。実際には人が入ってきちゃっただけなんですけどね。私は扉側を背にしていたので気付かなかったのです。もう逃げられないよだと勘違いしちゃったのですあー恥ずかしい。
ちなみに、人が入ってきたのだと知ったのは後日なので、勘違いしたまま進んでいきます。
"なで"ていただいたのは私よりも二回りも大きなアバターの方でした。
なで練習中とのことでマッチング待機されていたので声をかけさせていただきました。無言勢の方だったのも安心できる要因となりました。
タグは偉大ですね。相互理解と共通の意図は不安を軽減し対話の扉を開く鍵となるのです。
なでなで体験
ついに始まった"なでなで"。
ここまで長々と書いてきましたが、実際にマッチングするまでは5分もかかっていません。マッチングワールドすごい!
聞くところによると、どうやら"なで"には何種類かあるみたい。
改めて調べてみた感じでは大きく2つに分けられて、癒し系と感度系に分かれるらしいです。
癒し系はリラックスしやすいもので、寝かしつけに良かったりするみたい。
感度系はもう文字通りです。いわゆるVR感度を刺激するような感じです。
私は4種類の"なで"をしてもらったのですが、3種類しか思い出せませんでした。全部気持ちよかったのですが1つ抜け落ちてしまいました。もやもや。
まずは癒し系の"なで"。輪郭に沿って"なでなで"。優しく視界をおおわれる。緊張もあってか眠くなることはありませんでしたがリラックス効果は十分でした。そして気持ちいい。
次にミラーを利用しての"なで"。アバターが何をされているのか、どこに触れられているのかを視覚的に感じ取ることができます。刺激が強かったので感度系なのかな。
後ろから首元に腕を回して……これがとてもすごくて、ぞわぞわしっぱなしでした。気持ちいい。本当にすごい。
最後にVR感度を刺激する"なで"。2時間近く"なで"を受けて出来上がっていたのもあってか、一番気持ちよかったです。
撫で方はよく分からなかったです。視野を両手で覆われ、指を交互に絡ませていました。なで終わる頃には疲れ切っていて、すぐには立ち上がれませんでした。
こうして書いていると癒し系の"なで"が少しインパクト弱めに思えてしまったかもしれませんが、後日同じ方にもう一度"なで"をお願いした時、最初から癒し系の"なで"で寝落ちしかけました。
やはり最初は緊張していたのです。緊張を解いてくれた癒し系"なで"はすごいのです。
ちなみに"なで方"ですが、実際に頭をなでるわけではありません。
視野の隅を"なでる"のです。
イメージ的には相手の輪郭を沿って"なで"ます。
例えば、頭の頂点を"なで"ても相手からは見えませんよね。
ここは感触の無いVR世界ですから、視覚を利用する必要があります。
"なでる側"は視野の中で"なで"をすることで、現実の感触を視覚的に置き換えます。
"なでられる側"はその動作を目で追うことで、まるで触れているかのような錯覚を覚えます。この視覚情報を脳が"なでる"ことの心地よさを再現し、現実の感触に近い体験となります。
VR世界での"なで"……深いですね。
そういえば投稿日の直前にフレンドさんに撫でてもらう機会があったのですが、視野だのなんだの関係なく頭頂部の"なで"で全てが満たされました。
数日前の書き溜めは何だったのでしょう。
持論が崩れる音がします……間違ってない、はず……。
VR世界での"なで"……ほんと深いですね。
ところで、"なでられる側"の楽しみってなんとなくわかりましたよね。
では、"なでる側"って何を楽しんでいるのだと思いますか?
別れ際に質問をした感じでは、自分の"なで"で相手の表情が変わったり、体が揺れ動いたり、寝落ちかけていたりというのが伝わってくると嬉しいという感じでした。
後日、私は"なでる側"でもマッチングを利用してみたのですが、全くその通りでした。頭を撫でる触覚もしっかり感じましたし、気持ちよさそうに楽しんでいただけているのが伝わってきて、とても嬉しかったです。
ちなみに私は"なでられる側"が向いているそうです。
次に、皆さん気になると思われる時間のお話です。
1回あたり10分~1時間くらいだと思います。
合わなければ解散も早いですし、逆に個室の中で寝ちゃう方もいるのだとか。
私の場合は早くて15分~30分。2時間以上体験させていただくこともありました。1番長かったのは3時間半くらいだと思います。"なでる側"でした。
最後に
VR世界における"なでる"という行為は、物理的な接触を超えた新しい形のコミュニケーションの象徴と言えるでしょう。
物理的な接触がないにもかかわらず、他者の存在を感じ、その存在に対して愛情や優しさを示すことができるのです。
これは、他者との関係性が物質的なものに依存せず、純粋な意識の交流として成立することを示しています。
VR世界での"なでる"という行為は、触覚の不在を克服し、人間の深い情緒的なニーズを満たしたデジタルの奇跡なのです。