ロック&ポップスコース・kainatsu先生に学生ライターが「人生初のインタビュー」をしてみた
みなさんはじめまして! この度洗足公式note学生ライターになりました、石田遥菜(ロック&ポップスコース・3年)です。
小さい頃から歌うことが好きで、大学では歌の練習やオリジナル曲の作成をしています。今回は私がレッスンでお世話になっているロック&ポップスコース(通称「ロッポ」)の講師であるkainatsu先生にインタビューをしてみました。快く引き受けてくださりありがとうございます!
コンビニバイトでの出会い
──音楽を始めた経緯を教えていただけますか?
父(甲斐よしひろ)がアーティストであることもあり、家ではいつも洋楽が流れていました。父のライブを家族みんなで観に行くのも当たり前でしたし、そんな環境で過ごしているうちに気づいたら音楽が好きになっていましたね。
音楽の道に進んだのは、バイト先での出会いがきっかけでした。高校3年生の夏からコンビニでバイトをしていたんですけれど、某レコード会社を退職した方が夜勤に入って来られたんですね。
もちろん最初は全然音楽の話とかはしていなかったのですが、さまざまな話をする中で「実は音楽がやりたいんです」ってポロッと相談したタイミングがあって。そうしたら「ソニーのSD(※ソニー・ミュージックエンタテインメントの新人発掘・育成セクション)なら、オーディションみたいな形で紹介できるよ」って言ってもらえたんです。
その後実際に足を運び、オーディションを受け……。1年間だけ、SDで活動する機会をいただくことができました。
当時の私は作曲のスキルを持ち合わせていなかったので、提供していただいた曲に歌詞をつけて自分で歌う形で活動をしていました。それで、レーベルや事務所の方が観に来るショーケースライブに何回か出演しながら、デビューの機会を待っていました。
そうして頑張っていたとき、ライブを観に来てくださったワタナベエンターテインメントの方が声をかけてくださったんです。ただ、「歌と声が合ってない。試しに1ヶ月で10曲作ってきて!」と言われて(笑)。
ピアノは小学生から習っていたものの、作曲には全く自信がありませんでした。でも、やるしかないじゃないですか!
家で眠っていた電子キーボード(カシオトーン)を引っ張り出して、独学でありながらも必死に曲を作って……。それが実って、事務所に所属させていただけることになりました。最初はインディーズではありましたが、路上ライブなどをしながら活動を続け、メジャーデビューに至りました。
──事務所に所属しながらストリートライブなどに取り組み、その成果を認められたんですね。
そうですね。でもやっぱり、いきなりメジャーデビュー!という仕上がりにはほど遠かったです。軽音もやっていなかったし、人前に出ることのスキルが低すぎたというか。だからこそ、事務所としても「もう少し底上げしてほしい」っていうことだったんだと思います。
路上ライブをしながら、インディーズでミニアルバムも2枚ぐらい作りました。まずはそんなところからメジャーデビューに向けての準備を重ねて、2年ぐらいかかってメジャーデビューできました。
「私なんかが人前に立っていいのかな」
──メジャーデビュー後はどのような生活を送っていましたか。
当時大学を卒業したタイミングでメジャーデビューをしたのですが、大きな覚悟ができていたかと言われると、「私なんかが人前に立っていいのかな」って思いながらメジャーデビューをしたと思います。
ありがたいことに、メジャーデビュー後はとにかく忙しい日々を過ごしていました。リリース→プロモーション→ライブ→リリース→合間に制作……みたいな感じで、大学卒業してからは待ったなしの生活が待っていました。
ラジオのキャンペーンで全国を回ったり、合間にライブをしたり。デビューしてから2年ぐらい、そのようことが続いていましたね。朝起きたら、「ここどこだっけ?」みたいなこともたくさんあって。でも、そんな日々を送るうちに、だんだんアーティストらしさが出てきたのかな〜とも思っています。
──「歌」は独学ですか?
もともと歌が好きだったから、高校生の頃から趣味程度のヴォイストレーニングには通っていました。しかし、アーティストになるために通っていたわけではなかったので、歌もほぼ独学です。ピアノと歌、作曲の技術は、自分が活動していく中で身に付けていった部分が大きいと思っています。
だからこそ毎日不安だったし、そのぶん頑張った。キーボードをホテルに持ち込んで、寝落ちしながら夜中まで練習していたこともありました!
教えることは「学びの場」でもある
──洗足学園音楽大学で教えるようになったきっかけはなんですか。
きっかけは前野知常先生にお誘いいただいたことでした。もともと前野先生は父の演奏サポートをやってくださっていたので、私の活動についてもよく知ってくださっていたんですね。
「洗足の先生方も年齢が上がってきたので、若い先生たちにも加わってほしい」ということで私にも声をかけてくださって、洗足で教えることになりました。
──洗足で教えるようになってから、考え方が変化したようなことはありましたか。
私はヴォーカルトレーナーとしての訓練を受けていなかったので、歌を教えることに大きなプレッシャーを感じていました。音大も専門学校も出ていないのに、教えられるかな、と。
でも、「私は普段どうやって歌っているんだろう?」と考え、普段自然にしていることを説明できるようにしていくことで、たくさんの気づきを得ることもできました。私は「教える立場」ではありますが、学生のみなさんに教えることが私にとっての学びにもなっています。
あとやっぱり、学生の前で偉そうに話す手前、自分のパフォーマンスもあげていこうって、たくさん刺激をもらっています! 正直なところ今でも「先生」っていう自覚はあまりなくて、もはや「同志」みたいな感じだと思っています。私たちが20代だった頃よりも最近の学生達の方が意識が高いと感じる部分もありますし、学生のみなさんには常にリスペクトを感じています。
──どのような点で意識の高さを感じますか。
特に感じるのは、「セルフプロデュース力」です! 私のときは「プロデュースしてもらう」っていう時代だったからこそ、今は一人ひとりのセルフプロデュース力が本当に長けている。長けすぎている(笑)。
たとえばDTMとかもね。小さい頃から使って、そのまま売れるぐらいの仕掛けをしてくる学生もいるし、すごいですよね。ただその分「売れる」ことの意味合いも、以前より曖昧な時代になっています。自由の中にある「不自由さ」みたいなものも、きっとみなさんあるんじゃないかな。
だから少しでも力になれることがあれば……という思いで、日々学生のみなさんと向き合っています。
洋服も、音楽も。自分の心に嘘をつかない
──話は変わってしまうのですが、ロッポの先生方はいい意味で「自由な考え方」を持っている人が多いなと感じています。特にファッションなどにもよく表れているとも感じていて……。kainatsu先生の「ファッションポイント」についてお聞きしたいです!
ファッションポイントか〜、なんか恥ずかしい(笑)。音楽にも繋がってくることなんですけれど、その日の自分の気分、ワクワクに従うってとても大切なんですよね。
どんな曲を作ったらいいか、どんな曲順で演奏したらいいか。学生から相談を受けることがあります。みなさん自分を客観視して分析したうえで、「こういう風に見られたいからこうしたい」みたいな話をしてくれることも多いんですね。
それはもちろん大事なことなんだけれど、そこにひとつでも嘘があるのはどうなんだろう……とも思うのです。それよりも、「この日に、この場所で、このメンバーで演奏する意味」。そして「今、自分が演奏する意味」を考えたうえで、音楽に向き合うことが大切なんじゃないかな、と。
だから、リハーサルをやってみて、なんか違うなって思ったときにその違和感をスルーせずにセットリストを組み直せばいいし、時間がかかったって自分に正直な「音楽」を作っていっていけばいい。
客観的に自分を分析して、パズルに当てはめていくことよりも、まずは自分の気持ちや感性のままに音楽と向き合うことが大切だと私は思っています。
だから、洋服を選ぶときも、とにかくその日の気分を大切に! 心に違和感のない服を選ぶことを意識しています。
──ちなみに、今日は左右で違うピアスを着けられていると思います。どのようなイメージで選ばれたのでしょうか。
今日は実技試験の日なので、他の先生に会うからブライアン・ウィルソン(ザ・ビーチ・ボーイズ)のシャツを着てきました。先生ウケを狙った部分もあるんだけれど、誰にも気づかれなかった……(笑)。
でも、コミュニケーションにもなるしね! 話題作りにもなるし、そういうところも音楽と洋服は似てるよねって思います。あと、左右違うのを着けているのは、やっぱり何事においても決められた通りにやりたくないんですよね(笑)。
だからわざとバラバラに売られているものを買って、左右で違うピアスを着けています!
衝動のままに生み出すこと
──最後に、洗足に通う学生に向けてメッセージをお願いします。
学生のみなさんにいつも大事にしてほしいと思うことは、やっぱり比べないことですかね。
人と比べることによって、自分の軸がブレてしまう。もちろん洗足も、仲間たちと共に成長できる素晴らしい環境なんですけれど、やはり音楽に取り組んでいる以上「比較」と隣り合わせになってしまう部分もあると思うんですね。でも、人の素晴らしさを自分の力に変えて、いろんなことにトライして、迷いながらも自分の色を大切にしてほしい。
さっきの洋服の話にも繋がるんですけれど、自分が「好きだな」とか「楽しいな」とか思えることにとにかく貪欲になってほしいとも思っています。
振り返ってみると、19~20歳の頃に作った曲って私にとってもめちゃくちゃ特別なんですよ。やっぱり、「やり始めたときの衝動」でしか生まれないものがあるとも思っていて……。だから、細かいことを考えなくていいから、とにかくその衝動を大事に。周りの言葉に惑わされることなく、自分のワクワクを大事にしながら頑張ってほしいです。
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Text by 石田遥菜(ロック&ポップスコース・3年生) Photographed by 門岡 明弥