ひとりじゃ何もできないから。音楽環境創造コース・前田康徳先生に学ぶ、“つながり”の尊さ
洗足学園音楽大学同窓会コラムより転載:
洗足学園音楽大学を卒業した後に幅広い領域で活躍する同窓生や、現在洗足学園にて教鞭を執る先生方にお話を伺う、洗足学園音楽大学同窓会コラム。
今回お話を伺ったのは、音楽環境創造コース統括教授 ・前田康徳(まえだやすのり)先生です。音楽環境創造コースは2020年に新設されたコースのため、筆者が在学していた頃にはまだ設立されていないコースでした。そこで、このコースの名前を初めて耳にしたときにまず感じたのは、音楽・音響デザインコースとはどう違うのか? という点です。
どのようなスキルを身に付けられるのか、どのような形で授業が進められているのか。新しいコースであるがゆえに、気になることは盛りだくさん! 今回は音楽環境創造コースの取り組みについて、お話を伺ってきました。
全コースの“ハブ”となる「音楽環境創造コース」
──前田先生、本日はよろしくお願いいたします。最初に、音楽環境創造コースと音楽・音響デザインコースの違いについて教えてください。
音楽・音響デザインコースはひとことで言えば“クリエイター”です。楽曲制作やMixなど、最終的に何かしらの創作物を作ることを一番の目的とするコースとなっています。それに対して、音楽環境創造コースは“イベントスタッフ”なんです。コンサートの音響や照明はもちろん、舞台周りの制作・進行に関すること、さらには配信まで。イベント制作に関する総合的な内容を学べるコースとなっています。
どれもリアルタイムで取り組むものであることが、このコースのポイントです。たとえば、演奏会やミュージカルなど。その場で表現して、その瞬間にしか存在しないものじゃないですか。その場限りのものに焦点を当てて、サポートしていく。それがこのコースの役割だと感じています。
──音楽・音響デザインコースも「作編曲・音響(PA)・録音・メディアコンテンツ」といった形で分野が分かれていたと思うのですが、 “音響”に関してはどちらのコースでも学べるのでしょうか。
実は去年の卒業生を最後に、音楽・音響デザインコースの音響は音楽環境創造コースに編入という形になったんです。
しかし、録音は引き続き音楽・音響デザインコースで取り組む分野となります。これまで通り“スタジオワーク”を学べるのはもちろんですが、昨今は自分たちで録音やミックスを行うミュージシャンも多いため、そのクオリティを上げていくための手段として録音を学びたいというニーズも増えていますね。
また、来年度はメディアアーツコースという新しいコースが設立されるのですが、そのコースは映像をクリエイトする方向性のコースとなっています。ある種、音楽・音響デザインコースの映像バージョンと思っていただけると、分かりやすいかもしれません。
音楽をクリエイトする音楽・音響デザインコースと、映像をクリエイトするメディアアーツコース。それらを間で取り持つのが、音楽環境創造コースというわけなのです。
4つの分野を横断して学べる、自由なカリキュラム
──パンフレットを拝見すると、照明・音響・制作・配信と書いてあります。4年間かけて、この中からどのように授業を選択していくのでしょうか。
本来は音響や照明の分野を始めとし、それぞれの分野を単独で学べる専門学校はたくさんあるわけですよ。しかし、このコースでは照明・音響・制作・配信の4つをひとつのコースに含めているので、幅広い分野を学ぶことができます。
──たとえば、音響の勉強をしたいけれど、ちょっと配信も学んでみたい……といったことも可能なのでしょうか。
もちろんです! このコースは主科Ⅰと主科Ⅱを同時に履修できるダブルメジャー制を採用しているため、照明+音響や、音響+制作といった形で2つの分野を同時に学べるんです。
──それはすごいですね。僕は在学中にピアノコースの「アドバンスト・ポピュラー・スタディ・クラス」に在籍しており、クラシックとポップスのダブルレッスンを受けていたのですが、それと似たような柔軟さを感じます。
そうそう、そんな感じです。しかも、年度の変わり目などのタイミングでその組み合わせを変更することもできるため、4年間かけて全ての分野を渡り歩くこともできちゃいます。
なぜこのようなカリキュラムになっているのか。これまではひとつひとつの専門家という形でよかったのかもしれないけれど、昨今ではさまざまな領域で活躍できる人材を求めている現場が多いことが背景にあります。
まずは幅広い分野を担当できることはもちろん、直接担当しなくても相手がやっていることがちゃんとわかること。それは現場に関わっていくうえでとても大事なことなので、4年間かけて柔軟に授業を選択できるようなカリキュラムとなっているのです。
他コースのレッスンを受けることもできる
──4つの分野を横断して学べることにも驚きですが、主科Ⅱに書いてある“他コースの実技”というのはなんでしょう。
実を言うと、主科Ⅱは他コースの実技レッスンに置き換えられる(音響+管楽器、照明+ピアノ etc.)んですね。ちょっとこれはもうサービスよすぎ!ずるい! って言われちゃいそうなんですけれども(笑)。ただ、これにもちゃんと理由があります。
まず、このコースに入ってくる学生の半数近くは音楽的なバックボーンを持っているんですよね。中には相当演奏に長けた学生もいるわけなのですが、そんな学生たちが新しいことを学ぶことによって、それまでのことをキッパリ辞めますっていうのは本当にもったいない話で!
今まで取り組んできたストロングポイントを活かしながら勉強してもらうことによって、新しい接点が生まれるんじゃないか。このカリキュラムには、そんな狙いがあります。
──あまりに魅力的です。また洗足に入学したくなっちゃうじゃないですか……。
先生たちもそれぞれの専門家はいるけれど、こういう人は中々いないんですよね。だからこそ、このコースには新しい人材を育成するという意図も含まれているんです。
今後、僕たちもタジタジになってしまうようなスーパースタッフが生まれるんじゃないかって。怖くもあり、楽しみです(笑)。学生一人ひとりが、そんな人に育ってくれたらいいなと思っています。
他コースとコラボレーションした企画公演
──設立から4年目の年になります。コースの取り組みとして、これまでどんなことを行ってきましたか。
裏方系のコースなので基本的には他コースのサポートを行うことが多いのですが、音楽環境創造コース企画の公演も去年から実施するようになりました。昨年実施した公演では、ヴァイオリニストの古澤巖先生(本学客員教授)やダンスコースの皆さんにもご協力いただき、前田ホールにて初めての企画公演をお届けすることができました。
──大規模な公演ですね! どのような曲に取り組まれたのでしょうか。
いくつかの映画音楽を中心に取り組んだ演奏会だったのですが、この公演のオリジナル曲も音楽・音響デザインコースの卒業生数名に何曲か作っていただきました。
中でも、トラックメーカー/作曲家のクルス・アレックスさんが作った曲は古澤先生も特に気に入られたみたいで、その後ご自身のアルバムにレコーディングもされたそうですよ。
大きな規模の公演だったこともあり、やはり多くの人のご協力があったからこそ実現できたものだと強く感じています。
このコースっていうのは、ひとりじゃ何もできないんです。常にいろんな人と協力しながらひとつの目標に向かって行かなければいけないわけで、いろんな考えがあっても協働していかなければならない。
人が集まったときに、誰々が気に入らないとか。そんなことを言っていたら、なすべきものもなせないじゃないですか。そんな心構えも、4年間の間で学んで欲しいとも感じています。
──洗足にはさまざまなジャンルのコースがあるからこそ、他コースの学生・先生と幅広く繋がりを持つことで、そのような心構えも自然と身に付いていきそうな気がします。
そうですね。それがこの学校の一番の強みだと思いますね。クラシックのみならず、ジャズがあったりロック&ポップスがあったりすることで、学内にいながらいろんなタイプのステージを体験できる。そんな素晴らしい環境は、この学校だけではないでしょうか。
“つながり”があれば思いもよらないことを実現できる
──最後に、現在洗足に通っている学生にはどのような大人になってほしいと感じますか。メッセージをお願いいたします。
連日、学内のさまざまなところでコンサートが行われており、異なるコース同士がコラボレーションする様子も多く見られます。その中で、実際に他コースの仲間と協力して取り組むと、普段できないことができるようになることも肌で実感すると思うんですね。そう考えると、やはり横の繋がりは大切にする必要があると思っていて。
これから卒業してさまざまなことに取り組もうとするとき、たとえば音楽環境創造コースだったら、学校で学んだことを活かすことで自ら得たアイデアを実現しやすい立場にいるわけですよ。でも、実現するためには自分では演奏できないとか、人手が必要とか、いろんなハードルも同時に存在しているわけで……。
そんなときにも、人との繋がりがあれば、アイデアを実現できる可能性が何倍にも高まると思うんです。自分ひとりで思いついた小さなアイデアであっても、仲間と協力することで思いもよらない大きなステージを作ることができるかもしれない。
だから、それぞれの音楽表現を追求する中でも人との繋がりを大切にし、チャレンジを続けていってほしい。僕はそう思います。
Text and Photographed by 門岡 明弥
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