人の言うことは聞かなくていい。JAMコース・原朋直先生に学ぶ、「自分のためのアート」を追求する方法
洗足学園音楽大学を卒業した後に幅広い領域で活躍する同窓生や、現在洗足学園にて教鞭を執る先生方にお話を伺う、洗足学園音楽大学同窓会コラム。
今回お話を伺ったのは、ジャズ&アメリカンミュージック“JAM”コース(旧ジャズコース)・原朋直(はらともなお)先生です。
2023年度、ジャズコースの伝統を引き継ぎ、新たに誕生したJAMコース。コースが生まれ変わった背景やJAMコースの見据える未来について、お話を伺いました。
「ジャズ」から「JAM」へ
──ジャズコースからJAMコースへ。コースが生まれ変わった背景について教えてください。
ジャズ&アメリカンミュージック“JAM”コースは、本学が28年間培ったジャズの教育・研究を受け継ぎ、さらにそれをすべてのアメリカンミュージックに広げるために設立されました。
ポップスやファンク、ロック、ラップ、ヒップホップなど、ほとんどのアメリカンミュージックはジャズから生まれ、ジャズの影響を受け、発展してきたと言えると思います。そして、アメリカなどでは多くのミュージシャンたちがジャズを学び、そこからオリジナルの音楽世界を追求して更なる新しい音楽を生み出しています。
学生の皆さんにはジャズを通して音楽の仕組みや大切なこと、過去の偉大な作品からさまざまなものを学び吸収しながらも、それらに捉われず、自分自身のアートを制作し、独自の世界を切り拓いていって欲しい。JAMコース誕生の背景には、そのような思いがあります。
──「ジャズ」と向き合う中で身に付く即興演奏の技術やコードの解釈、アレンジスキル。それらが身につくことで、「自由」の幅も広くなるように感じます。
ジャズの理論や過去の遺産を通して音楽を深めていく、そんな感じだと思います。
ジャズを通して音楽の仕組みを理解し、感じているものの説明がつくようになると、自分の頭で閃いたメロディーやハーモニーを実際の譜面にすることができるようになりますよね。
私たちはそういった目的の授業をこれまでも研究し発展させてきましたが、この機会にそれらの授業の内容をより分かりやすくするための名称変更をしたり、新たに授業を増やしたりするなどの調整をしました。
「ジャズソルフェージュ」が「イヤートレーニング」に、「ジャズハーモニー」が「ハーモニー」に。また、楽曲を聴いてコード進行(ハーモニーの流れ)を理解し、メロディーとの関係などを感覚で捉えながら書き取れるようにする「イヤートレーニング」(以前のジャズソルフェージュ)とは別に、クラシック系の「ソルフェージュ」も履修できるようになりました。
他にも、アレンジ系の授業などは細分化しました。まず基本的な楽譜の書き方や音の積み重ね方を学び、さまざまな編成やシチュエーションでの音の響きを譜面化し研究するのは「ヴォイシング&オーケストレーション」という授業。作曲やアレンジに必要な基本的なことを学んでいく授業です。
また「アレンジング」という授業では基本的な音の積み重ね方を駆使していろいろと編曲してみるというのではなく、デザイナーが服を、建築家が建物をデザインするように、たとえば楽曲を俯瞰しトータルコーディネートしていくとどうなるのかな……といったような研究をします。
そして「コンポジション」という授業。これは説明が大変難しいのですが、言葉にしてみると「音楽(アート)を制作するということはどういうことか」ということを実際にジャズの作曲を通して研究するといった授業です。まあ、作曲を形式で学んでいくというよりはクリエイトすることを実践と考察の両面から研究する、そんな感じの授業です。どうしても知りたい方はぜひ入学してください(笑)。
まだまだ面白い授業もありますが、それはまたの機会にご説明したいと思います。JAMコースは学びと制作の両面において、学生たちが希望を持って前に進むための手助けをしたいと考えています。
音楽大学は「気づく」ための入り口
──それぞれの表現を追求する中で、JAMコースの学生にはどのような大人になってほしいと感じますか。
文化や時代の流れって、すぐに変わるじゃないですか。人々が何を求めているかとか、そういったことに合わせた表現をするのではなくて、ひとりのアーティストとして「自分のためのアート」を追求する人になってほしいと思っています。
もちろん今の時代に合うものを作りたい人はそうすればいいし、好きな年代の音楽を作りたい人はそうすればいい。でも、一貫して言えるのは「視聴者のみなさんが喜ぶもの」を作るのではなく、まずは「自分のためのアート」を進化させ続けることに重きを置く。それが、JAMコースのスタンスです。
──「自分のためのアート」を追求すること。4年間という時間の中で考えるには非常に壮大なテーマであるようにも感じます。
私は、作曲やアドリブはもちろん、クラシック楽曲の演奏であっても、それは全て「制作」だと思っています。
では、そもそも「アート」とはなんなのか。答えは人それぞれだと思いますし、たった4年間ではひとつの答えに辿り着くことさえ容易ではないかもしれません。
アートは自分の内面から作るものである、とか。ありのままで制作すれば「個性」は生まれる、とか。何も考えずに生み出すものは、アートではなくただ「個性的」なだけかもしれない……とか。大学に入って自分でも制作を進めていくと、さまざまな疑問や気づきを得られますよね。
その答えを出すためには一生かかるかもしれない、と感じたり、手探りで生きながらも制作し続けることが「アーティスト」なのかもしれない、と考えたり。気づきを繰り返す中で、時には挫折だって経験するでしょう。
ただ、4年間で全てをマスターして、「答え」を見つけなくたっていいと私は思っています。ある種、音楽大学はアーティスト人生の第一歩と言いますか。自分がさまざまなことに「気づいていくための入り口」だと感じています。
人の言うことは聞かなくていい
──最後に、JAMコース(ジャズコース)の同窓生に向けてメッセージをお願いいたします。
自分を信じて、自分が楽しい人生を極めてください!
「自信」というのは「自分はナンバーワンになれる!」みたいなことではありません。たとえば、急にサッカーがやりたくなったら「サッカーをやりたい自分」を信じて続けてみたらいいし、飽きたらやめたっていい。違う楽器にチャレンジしたくなったら、まずそう思った自分を信じてチャレンジしてみたらいい。
何かを極めるためにどうしても必要なのは「続ける」ことだと思うんです。何事にも通ずることだとは思いますが、どうしても音楽で何かを成し遂げたいんだったら、効率的なやり方を学ぶんじゃなくて、とにかく「辞めない」、「続ける」こと。そして、それに必要なのは「自分を信じる」ことなんです。
よく「苦労は買ってでもしなさい」と言う人もいるけれど、苦労はね、どうしたってするから(笑)。いちいちそんなこと考えなくていいんです。いろいろ言ってくる人も世の中にはいるけれど、そんな人の話は聞かなくていいんですよ。
ときには大変なこともあるかもしれないけれど、まずは自分の心と、行動を信じて。楽しい人生を送ってください。
番外編:「川崎市 市内統一美化活動」に参加しました
実はインタビューを実施した日は、川崎市の市内統一美化活動が行われる日でした。インタビュー後に学園周辺の掃除を行うとのことで、原先生に同行させていただくことに……。
思い返してみると、筆者も学生時代に緑色のエプロンを付けて参加した覚えがあります。なつかしい!
エプロン姿の原先生も素敵です。この日は学生や教職員のみなさんを合わせて、総勢20名近くの方がe-cubeに集まっていました。なんだかワイワイしていてみなさん楽しそう。
学園の周りを歩くこと約30分。およそ20名で協力した結果、たくさんのゴミを拾うことができました。大きなゴミはほとんど見当たらなかったけれど、意外にも細かいゴミがたくさん落ちていましたね……。
学園周辺の美化活動を通じて、参加した学生や教職員の皆さんと地域への貢献を共有する時間となりました。
最後は少し話がずれてしまいましたが……。今回原先生にご紹介いただいたJAMコースは、2023年度に新しく生まれ変わったばかり。これからカリキュラムも進化し続けていくことでしょう。
JAMコースについてもっと詳しく知りたい方は、ぜひ2025年2月16日(日)のオープンキャンパス(申込締切は2月2日)に足を運んでみてくださいね。
個別体験レッスンや、未経験者でも参加できるジャムセッションが予定されているそうなので、どうぞお楽しみに!
Text and Photographed by 門岡 明弥
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