10分カットの酒井さん(仮)
私は小学校5年生くらいからずっとショートカットだ。理由は大きく2つ。長髪を管理できない不器用さと、短髪がとてもよく似合うことだ。
極度の飽き性なので、実に様々なショートカットを試しているが、きのこが好きなのでマッシュルームカットを基本とする。
しめじ(短いマッシュルームカット)
エノキ(もっと短いマッシュルームカット)
エリンギ(刈り上げを目立たせたマッシュルームカット)
ヒトヨタケ(外はねパーマをかけたマッシュルームカット)
なんでもきのこに結びつけるため、トイプードルをイメージしたパーマをかけてもマッシュルーム亜種と呼ばれるまでになった。トイプードルなのになあ。
マッシュルームカットには難点がある。ショートカットにはあるまじき暑さだ。かなり蒸れる。きのこの形状を保ったままで、これを解決する方法が、刈り上げだ。なかを刈り上げて被せる。さらに暑い時には被せている部分をくくってしまえば良い。少々いかつくはあるが。
この髪型にしてから、大きく変わったのが、美容室の頻度だ。刈り上げ部分が伸びてくるのが早いため、毎月行かねばならない。しかし、時間的余裕がない。そこで生活に新たに導入したのが、駅前の10分カットだ。
刈り上げのライン変更(どこまで刈り上げるか)や髪色変更などは美容室に行く。そして美容室で型となる髪型にしたあと半年くらいは、駅前の10分カットに行く。
客層としてはおじさんがメインで、おじさんに連れられた男児も多い。30代女性はほとんどいない。さらに駅前の回転率の良いお店なので、美容師は平日なら2名、休日なら3名おり、美容師の指名制がないため、毎度誰に当たるかわからない。
まあ刈り上げだから、誰に切ってもらっても、そうは違いは出ないだろうと思われるだろうが、結構違うものだ。
これまで4人に切ってもらったが、おばちゃん①は話が面白い、おばちゃん②はとにかく早い、おにいさんは普通、そしてお気に入りは酒井さん(仮)だ。
プラダを着た悪魔のアートディレクターのおじさん(ナイジェル)に似ているおじさんだ。
酒井さんはとにかく最初の注文を細かく聞き、確認を細かく取る。
「ここを刈り上げて、くくれるようにしてください」
「何ミリにしますか?この部分はどうしますか?ここの毛は切ってしまっていいですか?すきますか?そろえるだけにしますか?」
そのあとはひたすら寡黙に、そして恐ろしく丁寧に作業を進める。ちょっとした緊張感が走る。しかし、手元に迷いはない。その上、とにかく可愛く仕上げてくれるのだ。
酒井さんがいるかどうかを店の外から確認して行くようになった。確認しようが指名はできないので、外れることも多い。これまでに2回しか当たったことがなかった。
チャンスは先週末にやってきた。酒井さんがいることを確認し入店。日曜の午後で混み合った店内、5人待ちであった。こういう時に当たったら嬉しい。行け!酒井ガチャ!
当たりました
酒井さん向けの注文をする。
「サイドと後ろを6ミリの刈り上げで、全体は2センチ切って揃えて、前髪は眉毛にかかるくらいに、もみあげは自然にしてください。」
酒井さんは私の注文にいささか満足そうな笑みを返してくれた。
そうして完成した髪型で職場に行くと、女子生徒たちがすぐに気づき、「きゃわ!」「良いじゃん」と褒めてくれた。わしゃ友達かい!とのつっこみはさておき、酒井さんに感謝である。