社会的コミュニケーション
人類の社会的コミュニケーションと教育への依存は、恵みである反面、呪いでもある。宗教的神話やフェイクニュースが人間社会にあっさり広まるのも、教育のせいなのだ。太古の時代から、私たちの脳は、語られる話を、それが嘘でも本当でも、忠実に吸収する。(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-))
「教育を通じて、私たちは他者に、これまでの何万代もの人類の最善の考えを伝える。私たちが学習するすべての 言葉、すべての概念の一つ一つは、私たちの祖先が私たちに伝えるささやかな成果だ。言語がなけれ ば、文化の伝達がなければ、共同体の教育がなければ、私たちは誰も、独力では、現に今私たちの物理 的精神的能力を拡張しているあらゆる道具を発見できなかっただろう。教育と文化は私たち一人一人 を、人類の叡智の広大な連鎖を引き継ぐ者にする。
しかし、ホモ・サピエンスの社会的コミュニケーションと教育への依存は、恵みである反面、呪いで もある。裏を返せば、宗教的神話やフェイクニュースが人間社会にあっさり広まるのも、教育のせいな のだ。太古の時代から、私たちの脳は、語られる話を、それが嘘でも本当でも、忠実に吸収する。社会 的な状況では、私たちの脳はガードを緩める。新進の科学者のようにふるまうのをやめ、何も考えずに 仲間についていくと伝えられるレミング [タビネズミ] のようになる。これは良いことでもありうる 。理科の先生の知識を信じれば、 ガリレオの当時以来のすべての実験を反復したりしなくてすむ。しかし それは不利益にもなりうる。先祖から受け継いだあてにならない 「知恵」でも、集団として広めてしま うからだ。医者がかつて何世紀もの間、愚かにも瀉血法や吸角法という治療法を、本当の作用を確かめ ることなく実践してきたのもそういうことだ(念のために言っておくと、どちらも実は、ほとんどの病気について有害)。
有名な実験が、どれほど社会的学習が聡明な子どもを何も考えない丸写し人間に変えてしまいかねな いかを明らかにする。 赤ちゃんは生後一歳二か月にはすでに、人の動作をまねする。その動作を理解 していなくても あるいはもしかすると、理解していないからこそ。」
(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-),『脳はこうして学ぶ』,第3部 学習の四本柱,第7章 注意,pp.230-231,森北出版,2021,松浦利輔,中村仁洋)
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