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マスター内知覚マップ

 「これらは内部状態と内臓から出てくる内知覚信号からコンテンツを組み立てられるマップやイメージとなる。内知覚信号は中枢神経系に、生命体の状態を継続的に伝える。その状態には最適状態から平常、問題あり、といったバリエーションがあり、器官や組織の総合性が損なわれて体内で損傷が起こった場合などを告げる(ここで言っているのは侵害受容信号であり、これは痛覚感情の基盤となる)。内知覚信号は、生理的補正の必要性を報せる。これが心の中で具体化すると、飢えやのどの渇きといった感情となる。温度を伝えるあらゆる信号や、内部状態の働きについての無数のパラメータもこの分類に入る。最後に、内知覚信号は快楽状態とそれに対応する快感感情の構築に貢献する。」(中略)
 「原初的な感情は、その他のあらゆる感情に先立つものだ。それは、脳幹と相互接続されている、生きた身体だけを独自に参照している。あらゆる情動の感情は進行中の原初的感情の変種だ。物体と生命体との相互作用により生じるあらゆる感情は、継続中の原初的感情の変種だ。原初的感情とその情動的な変種は、心の中で起こる他のあらゆるイメージに伴う忠実なコーラスを生み出す。」(中略)「内知覚はいずれ自己を構成することになるもののための、一種の安定した足場を作るのに必要となる、相対的な《不変性》の源としておあつらえ向きなのだ。
 この相対的不変性の問題はきわめて重要だ。というのも自己は単一のプロセスであり、その単一性を基礎づける生物学的な可能性を突き止める必要があるからだ。」(中略)「内部状態とそれに関連する多くの内臓パラメータは、生命体の中でどんな年齢でも生涯を通じて最も不変の部分を提供するが、それはこれらが変わらないからではなく、その働きのために、その変化がきわめて狭い範囲でしか起こってはならないせいだ。骨は発達期を通じて成長するし、それを動かす筋肉も成長するが、生命が生じる化学溶液の本質――そのパラメータの平均的な範囲――は、その人が3歳だろうと、50だろうと80だろうとほぼ同じだ。また身長が60センチのときも180センチのときも、恐怖の状態や幸せの状態の生物学的な本質は、おそらくそうした状態が内部状態の化学としてどう構築されるか、そして内臓における平滑筋の収縮や延伸の度合いから見れば、ほぼまちがいなく同じままだろう。恐怖や幸福といった状態の原因――そうした状態を引き起こす考え――は生涯でかなり変わるが、そうした原因に対するその人の情動的な反応は変わらないということは指摘しておこう。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『自己が心にやってくる』第3部 意識を持つ、第8章 意識ある心を作る、pp.229-231、早川書房 (2013)、山形浩生(訳))
(索引:マスター内知覚マップ)


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