尼僧の懺悔14
彼との別れも唐突だった。
遠距離の彼からある日電話が来て、見合いの話が来たから別れてくれと告げられた。
突然のことで涙は出たが、最初から終わりがあるとわかっていたので、未練はなかった。
わかりきってはいたのだが、私が彼の伴侶として選ばれることはない。
それならばなおさら、都合良く二股をされてたまるか、という気持ちだった。
もうその電話で最後にしようと思ったが、辛い時代を支えた彼への感謝の気持ちもあって、最後に一度だけ会うことを約束して別れることにした。
感傷的な気持ちで最後のデートをした。
風光明媚な海の見える観光地だった。
人のいない秋の海がきらきらしていた。
抱かれても全然よくなかった。
最後だからと、体にがっつく彼に、急速に醒めていく自分を笑った。
そのうちに誰かのものになる男なんて何の価値もないと知った。
欲しかったのは、彼という人格ではなかった。
何を捨てても私を愛してくれる人が欲しかった。
模範回答しかしない男には欲情すらしなかった
自分に正直になるということは、残酷なものだと帰りの電車で思った。
九月の海は凪いでいて、馬鹿馬鹿しいくらい晴れていた。
夢はようやく覚めて、なにもかもが終わった。
ただのニートが一人残された。
それきり彼とは一切連絡をしなかった。
感傷的にならない訳でもなかったが、どこかの寺の娘とよろしくやっているのかと思うと、すぐにそれも収まった。
私が尼僧でいなければならない理由はもはや何もなく、そんな過去などまったくなかったように、私は実家の生活にすごい勢いで順応していった。
女は恐ろしいな、と他人事のように思った。