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子供の念願が叶った日 それは親の念願が叶った日でもあった
子供の『コワイって思う気持ち』を克服させるのは至難の業だ。
お菓子で釣ろうが、オモチャで釣ろうが、頑として首を縦に降ることはない。
息子は、大の『耳掃除ぎらい』
少しでも耳を触ろうものなら大暴れして逃げていく。
だけど、お陰で耳の中は耳クソで塞がってしまった。
これで耳の病気にならないかと心配する日々。
息子を上手におだてて、耳に綿棒を入れるまでに成功したことも何度かはあった。
でも肝心なボスキャラ(奥の耳クソ)までは到達すら叶わなかった。
もう少しだけど…。
非常にもどかしい気持ちはいつまでも続いた。
息子に不憫さを抱き、事あるごとに挑戦を促してみた。
だけど6歳の息子は「10歳まではイヤだ」と拒否する。
あと四年も待っていられるわけがない。
いつ訪れるかわからない夜明けをひたすら待った。
でも気付いた。
待っていてもしょうが無いと。
そこで「明日の幼稚園帰りに病院にいこう」と誘った。
もしそこで頑張れたら「何でも買ってやる!」と伝え、大好きなマックポテトにシェイク、更にはハッピセットまで付けた。
それだけではない。車のオモチャに回転ずしまで付けた。
これで文句はなかろう。
息子にとってはまさにハーレムの様なラインナップではないだろうか!
お正月とお誕生日とクリスマスが一気に訪れるような幸せの局地。
こんな提案、ノッてこないヤツはいないだろう。
完全勝利を目論んで放った言葉だったが、息子の心はそれでも「耳掃除はイヤ」だと首を縦に降ってはくれなかった。
「耳掃除はイヤだけど、ハッピーセットだけは食べたいなぁ」ともらす息子。
どこまでも欲深な息子に呆れるも、口走った手前、それで一旦は了解することにした。
翌日、幼稚園にお迎えに行くと、息子が出てきた。
口角が釣り上がりニヤケ寸前の顔を覗かせた。
もう頭の中はハッピーセットでいっぱいの様子。
息子をさっと車に乗せ、マックへ向けて車を走らせた。
だけど道がすこし違うと息子は指摘してきたが、それをよそに病院の駐車場に車を止めた。
ちょっと行ってくると告げ、サッと受付けを済ませると、直ぐに戻ってきて「ちょっとおいで〜」と息子を車からおろした。
事の重大さに気付いた息子。
嗚咽混じりで泣きじゃくった。
息子をギューと抱きしめて「勇くんの痛み全部パパがもらうから!」と必死で訴えた。
先生の前に連れていくと流石の息子も“まな板の上のコイ”のように覚悟を決めたらしい。
大暴れすることなく精一杯我慢してくれた。
手をギューっと握りしめて「勇くん、パパここにいるからね!大丈夫心配いらないよ!」と励ました。
先生は慣れた手つきでピンセットを使って数回に分けて取り出してくれた。
取れた耳クソの半端なさにビックリしたが、息子の耳がキレイになったことで天に昇らんばかりの喜びが溢れてきた。
予想外の展開になった息子。
だけど、残すは楽しみだけとなった。
オモチャを買ってあげると満足し、他は欲しがらなかった。
息子はまた病院で耳掃除をしてもらいたいと言うようになった。
すっかり味をしめたようだ。
まったく可愛いヤツだ。
(おわり)