招かざる少年
先々週の土曜日、ママと娘が映画を観に行った。
男チームはお留守番だった。
お昼はチャーハンを作り、ユウと食べたが、ソウは寝ていたので、後であげることにした。
起きたソウにチャーハンを食べさせてると、『ピンポーン』とインターホンがなる。
手がふさがった状態で呼び出されるのは、余り好きではないが、我が家を求めてくる人がどんな人なのか?
つい興味が出てしまう。
『イヤイヤ半分・ワクワク半分』で通話に応じた。
「はい何でしょう?」
モニターごしに映る姿は小学生ぐらいの男の子。
私立の小学校に通ってるのか?制服の様な装いにハットを被っている。
少年は「僕は『聖書』を勉強しています……。」
少年の口から余りにも意外な言葉が飛び出し、あとの言葉が耳に入らなかった。
続けて少年は言う。
「オジサンの夢は、なんでしょうか?」
「……?」
聖書の言葉に面食らっていたかと思うと、今度は僕の『夢』を聞いてきた。
いや(汗)。
夢も何も今はソウにチャーハンを食わせる事が僕の喫緊の課題。
そんな大きな未来を想像できる程の余裕など子育て真っ最中の僕には語れる筈がなかった。
余りにいきなりの質問に、それでも「夢とは…」と脳ミソの中を光のスピードが駆け回った。
しかし、今の自分は夢を語るよりソウに飯をやることが先。
僕はモニターごしに言った。
「余りに突然に言われても夢なんて答えれません」と__。
その言葉を聞いた少年は予定が狂ったんだろう。
用意していた言葉の手札が使えないと分かるやアタフタした様子になった。
僕もそれ以上話さなかった。
モニターごしに映る少年は、もう為す術がなくなってしまった。
いつもは、少年が大人に質問すれば大人は無下(むげ)にすることが出来ず、何らかの答えを返してあげていたんだろう。
少年もそれが当たり前だと思っていた筈だ。
少年にとってインターホンを押した瞬間から対話の勝算がある程度見越せていた筈だったろう。
しかし、今日は相手が悪かった。
少年の顔には戸惑いの表情が隠せなかった。
この辺の経験の無さは少年らしかった。
まだまだ幼すぎる少年が大人に対話を挑むには早すぎたとも言える。
実は、訪問してきたのは少年だけではなかった。
裏には大人が一人いた。
中年ぐらいの男性であったが、戸惑う少年に救いの手を差し伸べるのように、フォローを入れ「……失礼します」と少年に挨拶をさせた。
少年がインターホンから姿を消すと同時に裏にいた大人も一礼をして帰っていった。
いったい何だったんだろう。
モヤモヤする気持ちは後をひいた。
まだあどけない少年にこんな活動をさせている大人がいるとは何たることかと思った。
少年には、布教活動よりももっと多くの事を学んでほしい。
知らない相手に『対話』をする際に最も心しなければならない『相手との距離感や話の内容』についても文脈や雰囲気を読み解く技術が必要になる。
端的に言えばコミュケーション能力がなければいけない。
しかし、少年が自ら望んで活動しているのか、それとも大人に仕向けられたのか。
もし後者であれば非常に哀れだなと思った。
大人よ、折角の土曜日なんだぞ、
布教活動をさせずに公園に連れて行って遊ばせてあげないか?
そう憤った。
がしかし、昨日の土曜日。
またしても我が家の近所にその少年は現れた。
今度は、人数が二人から四人になっている。
見れば、お婆ちゃん、お父さん、お母さん。そして少年だった。
彼らは手分けして近所の家々をローラー作戦して回ったようだ。
近所から「ウチはよろしいです」の声が聞こえて来た。
そりゃそうだろうと思った(笑)。
このご時世、どんな人間が訪問して来るか分かったもんじゃない。
いちいちドアを開けて対応すると厄介な場合もある。
だからインターホンはモニター付きが大事だ!
何だか変な結論になってしまったが(笑)、
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。