なぜ維新は大阪都構想で「敗北」したのか?ー有権者に「ホンネ」を伝えるべきだったのではないかー
こんにちは、日本先進会です。これから本格的にブログを書いていきますので、宜しくお願いいたします。
今回のテーマは「大阪都構想」です。昨日11/1に、ついに二回目の住民投票が行われ、前回同様に僅差で「反対多数で否決」という結果になりました。大阪維新の会の松井代表は記者会見の場で、この結果を「敗北」という言葉で表現されていました。
なぜ維新は敗北したのか?これについては様々な意見があると思いますが、やはり根本的な問題は「多くの大阪市民が大阪都構想の意義について十分に納得することができていなかった」ということに尽きると思います。
ごく簡単にまとめると、大阪都構想のメリットとしては主に「府市の二重行政の解消による意思決定コストの削減およびそれによる経済成長」、そしてデメリットとしては主に「制度的な移行コストや市の四分割によるコスト増」が挙げられていたわけですが、これだけを踏まえれば、「デメリットに対してメリットが明らかに大きい」とは言えないと思いますので、多くの大阪市民が大阪都構想に賛成しようという考えにならなかったのも十分に理解できます。
ただ日本先進会がここで論じたいのは、大阪都構想そのものの是非ではなく、「看板政策を実現するために維新が選択したアプローチ」です。維新は自らの看板政策を実現するために最善のアプローチを採用していたと言えるのか?日本先進会はこの問いに対する答えはNoであると考えており、今回の維新の敗北から大いに学ばなければならないと考えています。
日本先進会の理解では、維新の究極的な目標は「道州制の実現」であり、大阪都構想はその糸口に過ぎません。道州制とは、日本全国を「いくつか(たとえば10個)の道州」に分割した上で、安全保障・外交・金融を除いて、基本的に全ての中央政府の権限・財源を各道州に移譲するということであり、非常に抜本的な地方分権策と言えるでしょう。維新の究極的な目標が「道州制の実現」であることは、過去の維新のホームページでの記述や、維新の創設者である橋下氏およびその元師匠である大前研一氏の著書や発言から推察されるものですが、それについてはここでは詳しく議論しません。
ではなぜ維新は道州制を目指しているのかと言えば、それは「地方分権こそが日本の再生につながる」と考えているからです。維新は一般的に改革推進型の政党として理解されていますが、その改革の究極的な対象は「中央政府の官僚および国会議員」です。橋下氏や大前氏、そして維新のメンバーは、中央政府の官僚および国会議員こそが、既得権益を不健全に温存し、非合理的な行政によってこの国を停滞・衰退させてきた張本人であり、だからこそその体制を根本から変える必要があると思っている。ではどのように変えるのかと言えば、その答えが「地方分権によって、そもそも中央政府の権力を小さくする」ということなのです。
より具体的には、たとえば大前氏の考え方に基づけば、道州制において日本全国は広域自治体としての「道州」に分割され、さらに各道州の中で、より身近な行政サービスを行うための基礎自治体としての「コミューン」に分割されることになります。(なお念のため申し上げておきますと、日本先進会は道州制の導入には基本的に反対なのですが、その理由については別の機会にご説明させていただきます。)
以上を踏まえると、大阪都構想における「維新の真の意図」が明確に見えてきます。多くの人々が「二重行政を構造的に排除するために大阪市の広域行政権限をなくすというのは理解できるが、それなら単純に大阪市が何らかの形で制度的に広域行政の権限を放棄すればいいだけのはずで、なぜわざわざ大阪市を廃止して四つの区に分割する必要があるのか?」という疑問をもつのは普通であり、だからこそ賛成票を投じようとまでは思えなかったのだと思います。ではなぜ維新は大阪市を廃止して四つの区に分割しようとしていたのかと言えば、それはその四つの区を道州制における「コミューン」として位置づけたいと考えていたからでしょう。つまり維新にとって大阪都構想は、究極的な目標である道州制を実現するための糸口に過ぎなかったということなのです。
これはあくまで想像に過ぎませんが、おそらく維新は、大阪都構想が賛成多数で可決された場合には、「これは日本政治の転換点だ。大阪市民が自らの意志で大阪の在り方を変えた。これからは市民が自分たち自身のことを決める時代、すなわち地方分権の時代なのだ!」と宣言するつもりだったのではないでしょうか。またそもそも、維新がわざわざ大阪都構想を議会投票ではなく住民投票にしたのは、住民投票にすればメディアを巻き込む形で大阪都構想を「政治ショー」にすることができ、それによって「地方分権」や「道州制」を流行語にすることができると考えていたのではないでしょうか。そしてもちろん、維新が他の野党とは違い、自民党とも良好な関係を築こうとしてきたのは、「地方分権」や「道州制」を流行語にすることができた暁には、国政も巻き込んでその流れを一気に進めようとしていたのだろうと思います。もちろんこれは全て想像に過ぎないのですが、このように考えれば、維新が大阪市を廃止して四つの区に分割することを提案していたことも、大阪都構想を議会投票ではなく住民投票にしたことも、どちらも納得できるということです。
とにかく維新は、自らがもっている全体的な意図を隠したまま、大阪都構想を進めようとしたわけであり、それによる納得感の欠如が、結局今回の結果にもつながってしまったのではないかということです。
さらに言えば、コストの観点についても、おそらく改革を推進している維新であれば、「大阪市を廃止・再編するにあたって、住民サービスを下げることなく行政のムダを徹底的に排除すること(つまりリストラによる合理化)は可能である」とも考えていたと思いますが、最後までそれを大々的に主張することはありませんでした。そんな主張をすれば、「リストラ」という言葉だけが独り歩きして、大阪市役所のスタッフに警戒されてしまい、強烈なネガティブキャンペーンによって、住民投票で負けてしまうと考えたからなのでしょう。しかしその結果、「二重行政の解消による意思決定コストの削減およびそれによる経済成長」という小さなメリットしか示すことができず、それは「制度的な移行コストや市の四分割によるコスト増」というデメリットにかき消されてしまうことになってしまったのです。
率直に言って、これは大阪だけでなく、全国の自治体に共通した話ではありますが、「行政のムダを徹底的に排除すること」によって住民の利益が拡大する余地はまだまだ非常に大きいのですから、そのポイントから逃げずに、詳しい事例も含めて「リストラによる合理化⇒住民に対する行政サービスの向上」という強い意志を示すことができれば、大阪市民は大阪都構想のメリットをより明確に認識できたことでしょう。
まとめると、日本先進会が考える「維新が敗北してしまった原因」は、「①大阪都構想が道州制を実現するための糸口であるということを敢えて明確にしなかった」および「②大阪市を廃止するにあたって行政のリストラを行うことも明確にしなかった」という二点に集約されます。要するに、維新は大阪都構想を提案し、賛同を求めるにあたって、「戦略的にホンネを隠した」ということなのです。その結果、「多くの大阪市民が大阪都構想の意義について十分に納得することができていない」という状態で住民投票の日を迎えてしまったということです。
もちろん、維新が究極的に実現すべきと考える道州制や行政のリストラを、国民や市民がどれだけ理解を示し、どれだけ支持をするかはわかりません。しかし、もし本気で目指している「理想」があるのだとしたら、それをきちんと明確にした上で、「日本にはこれが絶対に必要ですから、どうか賛同してください」と丁寧にお願いすべきだったのではないでしょうか。
維新の方々も、自分たちの究極的な理想や目標を実現するために、様々な戦略を考えたのだろうと思います。その結論として「戦略的にホンネを隠す」という道を選択したのでしょう。
しかし、多くの市民は「納得感」を求めているのです。維新が示す都構想のメリットが十分に納得できるものでなければ、大阪市を廃止することに賛成することはできない。だとすれば、維新は「戦略的にホンネを隠し、何とか大阪市民の過半数にだけ納得してもらって、住民投票で可決を勝ち取って地方分権のブームを作ろう」という発想ではなく、最終的に賛同してもらえるかどうかは別として、自分たちのホンネを正直に、率直に伝えるべきだったのではないかと思うのです。
繰り返しになりますが、日本先進会は道州制には基本的に反対であることも含めて、維新とは政策的に整合しているとは必ずしも言えません。しかし、日本という国を良くしたい、そのためには適切な改革が必要だという想いは共通しているはずです。
日本先進会は始まったばかりですし、国政でも地方政治でも実績やプレゼンスのある維新の方々と比較すれば「まだ何もできない赤ん坊」に過ぎないのかもしれませんが、とにかく日本に必要な大きな改革を断行していくためには、「戦略的にホンネを隠す」という道ではなく、国民を信用して、「正直に、率直にホンネを伝える」という道を選びたいと思いました。
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