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大まかな動きとひそやかな動きを考える。NSK Future Forum 4レポート(前編)

前回の投稿から時間が空いてしまいましたが、本年もどうぞよろしくお願いいたします!

今回お届けするのは、昨年12月7日に開催された「NSK VISION 2026 Project SENSE OF MOTION — Future Forum 4(NSK Future Forum 4)」のレポートです。

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そもそもSENSE OF MOTIONって?

これからこのnoteをお読みいただく前に「SENSE OF MOTION」と日本精工株式会社(NSK)について簡単にお伝えします。ご存じの方は、飛ばしてしまってください。

SENSE OF MOTIONは、2016年に100周年を迎えたNSKの、新しい取り組みとして始まりました。

主催するNSKは、主にベアリング(軸受け)を作っている会社です。ベアリングってなに?という質問には、今後の記事でじっくりお答えしますが、ほとんどの「回転する機械」に使われている大事なパーツとお考えください(とてもざっくりですが……)。

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そして、創立100周年を迎えた2016年、ベアリングという機械部品から視野を広げて、10年後の2026年にNSKのありたい姿としてNSK ビジョン 2026「あたらしい動きをつくる。」を策定。このビジョンに基づき、「あたらしい動きをつくる人々」が集い、共に考え、発信していく試みが、SENSE OF MOTIONというプロジェクトです。
https://senseofmotion.net/2016/

わたしたちSENSE OF MOTION事務局は、展覧会や様々なプロジェクトを実施した2016年以降も、毎年一回「あたらしい動きをつくる人々」をつなぎ、動きについて考えるイベント「NSK Future Forum」を企画・実施しています。

いろいろな分野で活躍する研究者やクリエイターを迎えて、講演やディスカッションが繰り広げられます。毎年テーマは違うのですが、これまで「あたらしい現実」や「不確かなものが生むあたらしさ」などについて考えてきました。

「NSK Future Forum 4」のテーマは「動きのスケールをめぐる話 —大まかな動き、ひそやかな動き。」

第4回となる今回のテーマは「動きのスケールをめぐる話 —大まかな動き、ひそやかな動き。」でした。自然人類学、地下探査学やウナギなど水圏生態学の研究者から、数学者やデザイナーまで、さまざまな角度から大きな動きと小さな動きについて掘り下げた、白熱の4時間(!)でした。

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総合司会は、クリエイティブディレクターの箭内道彦さん。セッションが始まる前には「さまざまな動きがどうあたらしい動きを作っていくのか、そのお話を聞くのが楽しみ」とコメントいただきました。

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まず、NSKの野上副社長からの挨拶がありました。「毎年、知的好奇心をもらえる、パワーに満ちた空間が生まれている。個人的にも毎回楽しんでいる」と話してくれました。

ヒトという生き物にとって「動き」の意味とは?

スタートは、自然人類学者の長谷川眞理子さんによる基調講演です。自然人類学は「人間という生き物が、どうしてこういう生き物になったのか?」を考える研究だそう。今回は生物としてのヒトが感知する「大きな動き」と「小さな動き」を、進化の過程から説明してくれました。

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人間にとっての「動き」というと、歩いたり、走ったり、手足を使ったり……というような動作はすぐに思いつくと思います。

かつてヒトは、捕食者であるチーターやライオンからは逃げて、食料であるシカやトムソンガゼルを捕まえる必要がありました。200万年前、機械は一つもありません。エネルギー源は、自分の力だけ。自分の感覚で世界をとらえ、捕食していたのです。

しかし、最大時速約100km/hで走るチーターにも、約80km/hで逃げるトムソンガゼルにも、最速でも時速44.6km(ウサイン・ボルト選手の記録です)で走るヒトがかなうわけもありません。

この状況で役に立ったのが、組み合わせる能力だったそうです。ヒトは、実は持久力が高い生き物。長い時間走ったり、歩いたりすることは、他の生き物よりも得意です。また、木に登ることや、穴を掘ることもできます。これらを組み合わせることで、生き延びてきた歴史があるそうです。

同時に、車を運転するのも、飛行機に乗って移動するのも、わたしたちヒトが身につけてきた「動き」の一部。でも、動きに対する適応の限界もあります。

例えば、F1レーサーは時速350km/hほどでレーシングカーを運転しますが、このスピードで走ってきた車を、人間は避けることはできません。こんなに素早い動きをする生き物は、自然界に存在しなかったからでしょう。

それでは、わたしたちが身につけてきた「小さな動き」とはなんでしょうか。それは、他人の仕草や表情を察知する能力です。
多くの人が、他人の微妙な仕草から、気分や欲求を読み取ることができます。なぜならば、人間の動きが情動や意図と結びついてしまうことを知っているから。これによって、人間は社会関係を築いています。

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例えば、「Pan Am Smile」という表情。「ニセの笑い」として有名な画像ですが、これを画面に出すと、人はすぐに嘘笑いと気づくそうです。それは、目の筋肉が収縮しているかどうかで判定しているそうです。

ここで問題になるのが、SNSやメールなどの、距離があるコミュニケーションです。そもそも言語コミュニケーションは、対面でのやり取りを前提として進化してきました。それが存在しない状態では、人々がSNSでやり取りして揉めてしまうのは、ほぼ当たり前のことと言えるかもしれません。

まとめると、ヒトを取り巻く物理的な環境での動きの認知は、ヒトが進化した舞台で同時に進化してきました。人は他者の動きや表情を瞬時に感知し、相手の情動や感情、欲求を感知して対応しています。

ここ100年で、ヒトを取り巻く環境は大きく変わりました。変わりすぎたとも言えるかもしれません。「ヒトは、文明の変化に身体の進化がついていっていない」と長谷川さんは締めくくりました。

海底資源探査×ウナギ研究のディスカッション

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続いての第一部は、地下探査学者の後藤忠徳さんと、水圏生態学者の黒木真理さんのディスカッションです。ファシリテーターは本プロジェクト・プロデューサーの紫牟田伸子さん。
後藤さんは、海底資源の新しい探査法を、黒木さんは主にウナギの回遊についてを研究しています。海の研究に関わる二人の、動きに関するディスカッションです。

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先に、後藤さんの自己紹介がありました。そもそも「地下探査学」という学問は世の中にはないそうです。普段は、地震などの防災、資源エネルギー、環境保全などを研究していると言います。

最初に言及があったのは、なんと「地球の動き」について。地震にも関わる断層は数km/sで動きますが、マントルは爪が伸びるのと同じくらいのスピードだそう。同じ地底に関わるものでも、スピードはさまざまだそうです。

そのなかでも、普段の研究として「海底熱水鉱床」という海底の一部について説明してくれました。海底には実は、熱水で溶けて、いろいろな金属が濃集してできた場所があるそうです。それを電気で探査する、いわば「宝探し」を後藤先生はしています。

金属なので、電気が流れやすいかどうか、でその場所を調べるようです。装置自体を自作して、調査しています。最近の調査では、海底よりも深い場所にこの鉱床が見つかったそうです。

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次に自己紹介をしたのは、黒木さん。特にウナギに着目して研究しているそうです。スライドには、ウナギの蒲焼の写真も。

魚のなかには、海と川を移動する回遊魚と呼ばれるものがいます。黒木さんはこれまで、旅する生物に興味をもって研究をしてきたそうです。移動する理由は、エサを取るため、敵から逃れるため、適した環境へ行くため、繁殖するためなど、さまざまです。

実はわたしたちにも身近なニホンウナギは、なんと3000kmの旅をするそうです。マリアナ海溝から海流にのって、東アジアにやってきます。

日本のウナギの産卵場の研究は40年以上続いていますが、実は、ウナギの卵が初めて見つかったのは2009年のこと。直径1.6mmくらいの小さな小さな卵です。北太平洋には、全部で5種類のウナギがいます。同じウナギでも、インドネシアのウナギは回遊をあまりしないそうです。

ここから、ディスカッションが始まりました。普段、生物学者と地球物理学者はあまりコミュニケーションはないそうで、貴重な機会となりました。

話題になったのは、動きの予測について。例えば、実はニューヨークとロンドンは、今でも年間平均2cmくらい離れていっていることがわかりました。それまでは仮説でしかなかったものが、1980年代にようやく天文学的な観点から証明できたそうです。

逆に、数千キロを移動する回遊魚は、海流などの要因が関わってくるので、毎年動き方が異なり、事前に予測するのは難しいとのこと。同じ自然のことでも、予測できる動きとできない動きがあるなど、多くの知見が得られたディスカッションでした。

レポートは第二部に続きます!

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