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大まかな動きとひそやかな動きを考える。NSK Future Forum 4レポート(後編)

WOW 高橋裕士さん「美しさの舞台裏」

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休憩を挟み、第2部はWOW inc.代表の高橋裕士さんによる「美しさの舞台裏」と題したプレゼンテーションから始まりました。「ベアリングは目に見えないけれど、動きをたくさん作っている。WOWも映像を作っているけれど、普段は見えない舞台裏を紹介します」と高橋さん。

WOWは1997年、仙台で誕生。現在は全部で約60人規模の会社に成長し、ディレクションを中心に映像制作やインスタレーション、アプリの開発、さらに最近は建築まで、多岐にわたるクリエイションを展開しています。

最初に、高橋さんからこれまでの映像作品の紹介がありました。クライアントも幅広く、ラスベガスのCESという展示会の企業展示、人工知能のベンチャー企業とのコラボレーション、人気ゲームのインスタレーションなど、本当にさまざまなお仕事をされています。WOWが大切にしていることは「企業の本質となる表現を、未来を思い描いて作っていく」こと。レギュラーとしてお仕事を受け続けるのではなく、なるべく多種多様な企業と協業するようにしていると言います。

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同時に、WOWの大きな特徴の一つは、オリジナルのインスタレーションやアニメーションの制作です。誰にも頼まれずとも、さまざまな技術や表現を盛り込んだ作品を発表。その活動そのものも、次の仕事につながっていると言います。

高橋さんのお話の後半は、刀鍛冶職人であるお父様とのコラボレーションについてでした。武器であり、美術品でもある日本刀をつくっている高橋さんのご実家は、もともと伊達家に仕えていたそうです。
外国製のものを一切排除し、食料自給率100%という環境で生まれ育った高橋さんは、もともとはあまりご実家のお話はしたくなかったと言います。しかし、2011年の東日本大震災をきっかけに、身近な人、家業のことを知ってもらいたいと考えるようになり、刀の捉え方を変えるプロジェクトを始めることに決めたそうです。

新しい刀は、世界的に有名なデザイナーであるマーク・ニューソン氏にデザインを依頼。プロジェクト名は「aikuchi」。柄(え)がないデザインで、それは平和の象徴なのだとか。

販売にあたり、高橋さんたちはaikuchiプロジェクトのための映像を制作しました。モノにアニメーションを加えることは、生命を与えることだと言います。限定10セットだけ販売された日本刀は、美術品として(世界で3本の指に入る、かの有名な!)ガゴシアンギャラリーにも収められました。

「WOWの表現の中心にあるのは"anima"」だと高橋さんは話します。animaは生命や霊魂を意味するラテン語で、「アニメーション」の語源でもあります。生命現象へいかに近づくかにチャレンジしているそうです。

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最後に、近年挑戦しているさまざまなプロジェクトの紹介がありました。グラミー賞でレディー・ガガがデイビッド・ボウイ氏の追悼として歌った際の顔へのプロジェクションマッピングのほか、ネイティブアメリカンの方々による東北に伝わる獅子踊り、アイヌの方々によるデジタル演舞、さらには名和晃平さんと共同で制作している広島の建築物など、次々と紹介されるプロジェクトに、会場は釘付けになりました。

高橋さんは「想像力と創造力がこれからの根幹になる。情報は答えを与えるが、情動は想像力を湧き立てる。これからは情報時代ではなく、情動時代。どうやって生命を吹き込み、人の気持ちを動かすかが重要」と締めくくりました。

独立研究者 森田真生さん × デザイナー 三澤 遥さん のディスカッション

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第2部の後半は、独立研究者の森田真生さん、デザイナーの三澤 遥さんのディスカッションです。コーディネーターはドミニク・チェンさんが担当しました。テーマは「ひそやかな動き」

三澤さんの作品の映像に対して、森田さんからコメントをいただきながらフリートーク、という流れです。さまざまな角度から次々と飛び出る森田さんのコメントに、必死で食らいつくような1時間でした。

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最初に三澤さんから紹介があったのは《動紙》という作品です。紙に鉄粉が一緒に梳かれているため、磁石に反応します。「新しい機能を持つ紙として、動く紙を作った」と三澤さん。隠された磁石によってそっと動く、小さな紙片たちの映像が会場で流れました。

それを見た森田さんが発したのは「ひそやかな動きとは、本来は人間のセンス(知覚)には乗らないのではないか?」というコメント。そもそも、紙も見えない速度で動いている。人間のスケールに訴えかけるこの動きは「ひそやかな」と言えるのか、というテーマを覆す意見が出ました。

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そこから森田さんは、樹木が主人公の小説『オーバーストーリー(原題:The Overstory)』(リチャード・パワーズ著)に頻出するstillという単語のことや、機械が人間的かどうかを判定する「チューリング・テスト」を例にコンピュータと心に関する考え方などを紹介。三澤さんの作品から、さまざまな方角へと話が広がっていきます。

三澤さんはあえて、具体的な形ではなく記号的な形を選ぶといいます。それは「引き算したとき、それでもなお残るものであってほしい」と考えるからだそうです。

次に流れた映像は《Form of Gravity》という作品。水と比重の近い油に水滴を落とすと、ゆっくりとした速度で落ちていくのだといいます。巡回していく水滴をいつまでも眺めていられそうです。この作品について三澤さんは「重さってなんだろう、消えるってなんだろう、と考えながら作っていました。特に機能もないですし、世の中に必要ともされていないけれど、自分のために作っています」と話してくれました。

これを見て、森田さんは「宇宙にある力のなかで、重力はすごく弱い力。この作品では重力を、水が落下するというかたちで翻訳していますね」とコメント。そこから、「モノとモノが触れ合って動くとは」という話題が出てきます。

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そもそも量子力学的には、モノとモノは接触できません。「接触できないけど、その接触のできなさを人間スケールでは『接触』と呼んでいる。直接接触していないにも関わらず、モノはモノに作用します。それぞれの世界が、融合することも、接触することも、重なることもできないけれど、因果律により感性的な相互作用が起きています」と森田さん。目に見えない世界と、実世界の感覚のギャップを考えさせられます。

最後の映像は「POSIT:もしもを置く たとえばを収める」という展覧会の様子です。この展覧会では、ほとんどの人が知っている紙のスケールであり、フォルムでもある、「ある一枚の紙」のための什器をデザインしたといいます。その「ある一枚の紙」とは、穴あけ器でくり抜かれた側の、小さな円い紙です。何枚も重ねたり、そっと一枚だけを置いたり、100通りの紙と溝との関係を示しました。

三澤さんが「その場で決めた置き方もある」という話をすると、森田さんは「Creare(クレアーレ)」という単語の説明を始めました。「創造する」という意味のラテン語ですが、原義は「自ずから」だそうです。積極的に働きかけて作るわけではなく、自ずから手が動き、結果的に作品が生まれる三澤さんの作り方は、このCreareではないか、と。これは、昔ドミニクさんから教わった単語だといいます。

セッションのまとめとして、能を習うドミニク・チェンさんが、世阿弥の「初心忘るべからず」という有名な一節を引用しました。多くの人が知るこのフレーズですが、実は少し元の意味合いが違っているとのことです。

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「初」という漢字は「衣」と「刀」からできていますが、これは「衣(布)」に、「はさみ(刀)」を初めて入れることだそうです。つまり「初心忘るべからず」とは「いままで自分が蓄積してきた経験や価値という衣に、鋏を入れることを恐れるな」というメッセージなのです。「次の人間の価値や意味、感覚に辿り着くためには『初心に鋏を入れていく』ことを継承しつつ、行動を考えていかなきゃいけないのかな。すごくスケールの大きな未来が最後に見えてきたと思います」と、ドミニクさんはこのセッションを締めくくりました。

三澤さんは「森田さんという嵐に巻き込まれました」と笑ってコメントしていましたが、絶妙なバランスの二人の掛け合いを、ドミニク・チェンさんが優しくまとめてくれた、濃密なセッションでした。

本当にさまざまな方向から「大まかな動きとひそやかな動き」を考えた、長いようであっという間の4時間。最後のまとめとして、箭内さんは「今日ここに登場した皆さんを見ていて、少年少女みたいだなと感じました。子供のような眼差しと、好きっていう気持ちと、なぜだろうっていう気持ちと、嬉しい楽しい、そういう気持ち。それこそが何かが動いていく始まりであり、『動き』そのものなんだろうなと思いました」とコメントしてくださいました。

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NSKのSENSE OF MOTIONと「NSK Future Forum」は、今年もまた新しい方向から、動きについて考えていきます。前回参加が難しかった方々も、ぜひこれからの展開を楽しみにしていてくださるとうれしいです!

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