#7 彼らは何故急いでいるのだろうか?

──ほー、これが50か。実車は初めて見るが、なかなか…いいじゃないか。

「そうだろ、クラッチレスだしシートも低いし、アイツにゃ丁度いいと思うんだ」

しかし新車だろ、これ。あげちゃっていいのか?

「約束だしな。親父と折半になったが、何、飽きたら飽きたで俺がありがたくいただくさ」

「──やあ諸君、ご無沙汰していたね。ところで川上君は来ていないのかな?」

「会長!てめえ犬の世話押し付けて…マックス?今日は来てないな。あいつ携帯持たないシュギだしな。急ぎか?心当たりなら幾らかあるぞ?」

君、何だかんだ言っていいやつだね…

雨が降らなきゃ原付(2種)で

「いや、居ないならいいさ。今日は大発丸を連れて帰る…面倒を見てくれていることには感謝しているよ」

「大発丸を頭数に入れる」ための条件だったからね。去年は部員がなかなか集まらなかったからなあ。

「ところでそれは原付か?丁度いい。本田、君に聞きたいことがある」

「何だ?」

「何故バイク乗りの連中は停車中の車の前に出たがるのだ?轢かれたいのだろうか?」

「…ライダーを自殺志願者集団みたく言うんじゃねえよ。なあせんせい?」

いやあ、アレばっかりは解らないね。習性

「おい!…俺も大型がアレやるのはセコいと思ってたけど」

ころも会長は、普段は車で移動だったっけ?

「急ぎでなければそうですね。私のライセンスでは公道は走れませんから。それでリアシートから外を眺めていると、信号待ちで右からすり抜けていくバイクをよく見るのです」

「金持ちめ。普段がリムジンなら、急ぐ時はヘリでも使うって?」

「賓客もいないのにわざわざリムジンを使うことはないし、ヘリなどは乗ってて疲れるので好きではないな」

「(真面目なヤツなんだが存在自体は冗談みたいだな…)」

ううん、法的にグレーゾーンな部分があるから、説明が難しいな。
いいか悪いかは後回しにして、まずメリットとデメリットを挙げてみよう。

「メリットか…渋滞に捕まらないで進める。信号待ちで先頭に出られる」

一般道だと渋滞してる車列をすり抜けて走っても20km/h出せればいいとこだね。

「信号待ちで前に出られても10数mくらいだろう?1サイクルで通過できないほど混雑しているならともかく、そんなに影響するものだろうか?」

「うるさいな!バイク便やってると小さな積み重ねが効いてくるんだ。腕が良けりゃぶつけやしないよ」

「やはり接触のリスクは高まりますか?」

自車以外が止まっていてくれるならパイロンが立っているのと同じことだが、そうはいかないのが道路交通だ。最近は死角の車を検知する装備も標準化が進んでいるが、普及には時間がかかりそうだね。

すり抜けなくても十分速いんだよ?

「すり抜け自体は合法なのですか?」

整理してみよう。まず”追い越し”だが、「動いている車の前に出ること」「車線変更を伴う」「必ず右側(右折で右に寄っている相手なら左側)から」「黄色い中央線を跨ぐ(イエローカット)のは禁止」「踏切や横断歩道は30m前から追い越し禁止」他にも禁止事項などあるが、すり抜けるケースに関係しそうなのはこんなところか。

「横断歩道の前って、信号がある所ほとんどそうじゃねーか!」

信号待ちや渋滞で停止している場合はこれは該当しないようだね。”追い抜き”は「動いている車の前に出ること」「車線変更は伴わない」で、2輪と4輪で実質違いはなさそうだ。

「では、信号待ちで停車中の車の前なら出ても良いのですか?」

赤信号など、一時停止中の車の前に出たら”割り込み”に当たる。

「じゃあ横に並べばいいのかよ?」

道路交通法は軽車両以外が同一車線に並ぶ事を想定していないようなんだ。だから駄目とは言えない。良いとも言えないのは”安全運転義務違反”に引っかかる可能性があるからだ。間隔はギリギリになるだろうからね。

「グレーゾーンとはそういうことですか?」

事故った場合、過失割合が有利になるとは思えないね。ああ、50cc以下の原付は左側車線を通るしかないから、そもそも”追い越し”はできないな。

「ダメだ…頭痛くなってきた」

君には「白馬の王子様に気をつけろ」と言った方が分かりやすいか?

「…そうだな、要は事故らず捕まらなきゃいいってことだな」

「そんなまとめでいいのでしょうか…」

問題はライダーのモラルだ。急いでいるからすり抜けしていいなんて言わないが、混雑していない時間帯でも前に出たがるライダーの多いこと。特に大型乗りには余裕を持った走りをしてもらいたいよね。

「今回オチはないのか?」

デリケートな話題だし、たまにはいいだろ?2輪も4輪も愛する者として、すり抜けが習慣になっているライダーには再考していただきたい。

本日の結論:10分でも20分でも早く出発しよう。安全に走れ。それが一番早いのだ。

ツバサ─本田さん家の兄。2年生。好きな白バイは…ってそんなのあるか!(でもVFR800Pはちょっといいなと思う)
ころも─豊田さん家の子。2年生。好きな数字は7…だったが現在は8と6。
せんせい─自動車部の名誉顧問。好きな弾幕シューティングはサイヴァリア。

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