#6 オープンカーって重たいの?
「──あんた、いつもこんな所でお昼食べてるの?」
「んー、いつもは教室だよ?今日は先生に質問があって来たの。ゆうのちゃんは?」
「あたしはっ…今朝は、起きられなかったから…」
「いつもはお弁当作ってるの?すごい!でもサンドイッチ買ったのなら、お友達と食べれば良かったのに」
「(学校に友達なんていないわよ…弁当作ってるのも女子力アピールのためだし)…今日は他人と食べる気分じゃなかったの。他意はないわ」
「…ごめんね!わたし、お邪魔だったんだね!ごゆっくり!」
「あんたと一緒に食べたくないなんて言ってないでしょう!どうせだから付き合いなさいよ!」
(どういう状況?…出て行きづらいな…)
サイコロキャラメル、今は北海道で製造・販売されてます
「じゃ、あたし、食べ終わったから…」
まあまあ、お茶ぐらい飲んで行きなさい。珍しいお菓子が手に入ったから。
「(部活動なんか深入りしたくないんだけど…)いいけど、あたしは本読みたいから。この子の用事が済むまでね?」
「わたしのお茶まだあったっけ…ゆうのちゃん、アールグレイでいい?」
「あんた、茶葉なんて持ち込んでるの?…おまかせするわ。それより質問があったんでしょ?」
ええと、ヴィヴィオの車重の違いについてだったね。確かに3ドア・ハッチのelと2ドア・オープンのT−topだと、ボディ形状以外についてはほとんど同じだな…ずいぶんカタログ読み込んだね。
「でしょ〜…でもオープンの方は100kg近く重いんですよ?どうして?」
──いつから、オープンカーが軽いなどと錯覚していた?
「え?だって屋根が無いんだからその分軽くなるんじゃ?こんな風に」
こんな風に屋根を切ってはいけません!…っと、お湯が沸いたな。今日のお茶請けは懐かしのサイコロキャラメルです。
「(…サイコロキャラメルってスーパーでも売ってなかった?)」
「これ、赤と白がありますね?」
どちらも味は同じだよ。さてキャラメルを出したら箱を貸して。この赤白のサイコロを車のモノコック・ボディに見立てよう。
はてさてふふー
まずサイコロの蓋を閉じた状態で、手で力を加えてみて。
「…思ったより丈夫ですね?」
次に、赤のサイコロだけ上蓋を切り取る。その後同じように押してみると…
「なんか、ぐにゃぐにゃする…」
ウェイクのCMであんちゃんがやってた、屋根を切るっていうのはこういう事だ。こんな車じゃまともに走れないよ。
では問題です。白と同じぐらいの強度を赤のサイコロが取り戻すにはどうしたら良いでしょうか?このカッターとテープ、使っていいよ。
「ええぇ…ゆうのちゃん、わかる?」
「(読書中なんだけど)…切り取った蓋を対角に入れてみたら?」
「おぉ!結構良さそう」
…まるでロールケージだな。競技用ならこれでいいんだが、日常で乗り降りしづらくなってしまうから今回は無し。
「ああだこうだとうるさいわね。じゃあ細く切って四隅に貼り付けて…」
「ゆうのちゃん器用だね…美術部入らなくて、ホントに良かったの?」
「絵の具の匂い、苦手なのよ。描くならデジタルに限るわ…これでどう?」
…補強が無い時よりましだけど、まだまだだね。空き箱たくさんあるから、他にも試してみる?
「…切り取った蓋を底に貼り付けるだけでも、少し丈夫になったよ?」
「じゃあ合わせ技で…これならいいんじゃない?」
…うん、元通りとはいかないまでも、なかなか良さそうだ。でもこれ、元のサイコロより重くなってるよね?
「「…あっ!」」
エスロクロクが重いのか、ワークスが軽いのか
「そっかー、重くなっちゃうのかー」
オープンにすると車体剛性は不足する。で、それを補うとどうしても重くなるんだ。現代の車で言うと…例えばアストンマーティンのDB11。4000cc・V8のオープンモデルは同じエンジンのクローズドモデルの110kg増し。5200cc・V12のクローズドに匹敵する車重がある。
「…うちのロードスターってのは軽いんだ、ってパパが自慢してたけど?」
ありゃあ単純比較できる対象がないからな。技術陣はグラム単位で軽量化に挑んだそうだし、現行ND型は1000kg切るモデルもある。専用設計が許されるのなら、極端な話F1なら700kg以下だしね。この辺はコストや生産性の問題もあるが。
「ふうん…ところでゆうのちゃんって、絵描くの?趣味?」
「そ、そんなこといったかしら?気のせいでしょ?」
「デジタルなら、って言ったでしょさっき。CG?もしかしてマンガとか描ける?」
「しらないっ!さあ、用が済んだらこんな所出るわよ!」
本日の結論:重くてもいいじゃない。オープンカーは楽しいぞ。
べるの─本田さん家の妹。1年生。好きなどうでしょうは原付列島縦断。
ゆうの─松田さん家の子。1年生。好きな作家は五十鈴えるふ。
せんせい─自動車部の名誉顧問。好きなキャラメルは富良野メロン。