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街のさまざまな個性を、アートで繋げたら。三年目を迎える「ムーンアートナイト下北沢」のこれまでとこれから【後編】

下北沢で街歩きをしながらアート作品を楽しむことのできる「ムーンアートナイト下北沢」。ちょうど本日(2024年9月13日)に3回目の開幕日を迎えたこのアートイベントでは、今年も約2週間の会期中に、シンボル的作品である「月」と「ウサギ」のパブリックアートを始めとする作品の展示が行われ、コラボ店舗での限定メニューの提供、NFTスタンプラリーなど、多様なコンテンツが企画されています。

昨日公開した前編では、そもそもなぜこのイベントが下北沢で開かれることになったのか、イベントの成り立ちや月というモチーフが決まった背景などについて、株式会社スタートバーン株式会社の加藤杏奈さんと、小田急電鉄エリア事業創造部の向井隆昭さんのお二人に語っていただきました。後編では引き続き、これまでのイベントを振り返りながら、今年のイベントの見どころについても伺っていきます。(聞き手:散歩社代表・内沼晋太郎)

※前編はこちら

(写真右)加藤杏奈 ●かとう・あんな
キュレーター/エキシビションコーディネーター。2010年よりキュレーション活動を開始。東京藝術大学大学院 国際芸術創造研究科 キュレーションコース助手を経て、現在。スタートバーン株式会社ではSRR Project SpaceやDIG SHIBUYAのアートコーディネーションを担当。2023年東京大学大学院 総合文化研究科 超域文化研究科 表象文化論コース博士後期課程満期退学。 MoS Art合同会社代表。

(写真中)向井隆昭 ●むかい・たかあき
1990年生まれ。2013年に小田急電鉄株式会社に入社。海老名駅前の商業施設、座間駅前のリノベーション賃貸住宅等の開発を経て、2015年より下北沢エリアの線路跡地開発「下北線路街」のプロジェクトを担当。開業以降も管理運営、イベントなど同エリアのまちづくりに携わりながら、「旧池尻中学校跡地活用事業」など新規案件を担当。

(写真左)聞き手:内沼晋太郎 ●うちぬま・しんたろう
1980年生まれ。ブック・コーディネーター。株式会社NUMABOOKS代表取締役、株式会社バリューブックス取締役。新刊書店「本屋B&B」共同経営者、「日記屋 月日」店主として、本にかかわる様々な仕事に従事。また、東京・下北沢「BONUS TRACK」の運営を行う株式会社散歩社の代表取締役もつとめる。著書に『これからの本屋読本』(NHK出版)『本の逆襲』(朝日出版社)などがある。現在、東京・下北沢と長野・御代田の二拠点生活。

「30年間下北沢にいるけど、今日が一番いい日」

内沼:小田急さんとしては、初年度ムーンアートナイトを開催して、どのような感触だったんですか?

向井:それまで、下北沢でも施設単位では様々なイベントをやってきてはいましたが、街ぐるみの規模感で、かつアート作品を扱うことへの ノウハウはありませんでした。とにかく全てが手探り状態だったんですが、やってみてすごく良かった。今でも覚えているんですけど、地元の方々の反応がめちゃくちゃ良かったんですよ。

初年度は「下北線路街 空き地」に、ルーク・ジェラムさんの「月」をモチーフにした作品『Museum of the Moon』を設置したんです。それを、近くのBARから出てきたおじさん二人が「こんなにも綺麗な月を間近に見れて、30年間下北沢にいるけど、今日が一番いい日かもしれない」なんて話しながら眺めてくださっていてて。

その光景があまりに感傷的というか、これがアートの力なのかなって。一回目をやるまではアートの力を理解しきれていなかった私も「アートってすごいな」と心から思うことができた瞬間でした。

初年度、「下北線路街 空き地」を神秘的な光で照らすルーク・ジェラムの作品。
(photo: Startbahn, Inc., Masataka Tanaka)

内沼:野外アートイベントのようなもの、特に公共空間を使う場合の良さっていうのは、日常的に美術館へ行かない層にもいかに届くかだと思います。実際にそういう現場を見ると、やっぱり感動してしまいますよね。

向井:今、内沼さんにおっしゃっていただいた要素は鉄道会社である弊社にとってはとても重要です。美術館のように閉ざされた空間で開催されていて、アートに興味がある人だけが行くようなイベントだと、来場数が限られてしまうこともあり、鉄道との親和性はあまり高くない。でもムーンアートナイトのように、駅に近い場所での野外展示がメインであれば電車に乗って下北沢に来てくれさえすれば、無料でフラッと見ることができる。

そして、このイベントを継続して進めていく上で、下北線路街だけでなく、地元商店街と世田谷区との連携により、パブリックな場所を使わせていただけるのはすごく大きなことなんです。また、多くの人が目にする野外展示ですとSNS時代なのも相まって、拡散されてもっと皆さんが来てくれて、鉄道の乗降客も増えるという相乗効果が生まれます。

そういう意味では、やはり施井さん(スタートバーン代表)が最初に設定してくれた「月」というテーマと、若いカップルに来てもらうというターゲッティングは合っていたんだなと。今まで都市型のアートイベントが日本で少なかった中で、スタートバーンさんと一緒に取り組んだからこそできた実績なんだろうなと感じています。

内沼:加藤さんは、都市型のアートイベントについてどう考えていますか。

加藤:私の学生時代が、ちょうど「地域アート」の議論が盛んになった時期でした。越後妻有トリエンナーレが2000年に始まり、瀬戸内芸術祭が成功例として取り上げられ…その影響で日本全国に小さなアートフェスティバルがいっぱいできたんですが、 その状況やムーブメントを批判的に捉える論説が多くて。

まず一つに「地域アートはやりがい搾取である」という批判を多く目にしました。イベントの準備から実施までが多くのボランティアに支えられて、その多くに賃金が支払われていない、と。

もう一つの批判は、地域の作家ばかり選定することでグローバルと繋がらず、閉ざされた小さな世界、マイクロユートピアを作っているという批判でした。その結果、広く開くための目的なはずなのに、結局内輪で盛り上がってしまっている、という状況です。この二つが克服されるべきポイントだと感じていたので、まずやりがい搾取はしない、監視員等関わってくれる方たちにはすべて、きちんと報酬を払うことは決めていました。

あとは、海外からの作家を積極的に招聘しようと。アート好きな皆さんにとっても、初めて見るような作品をたくさん展示できることを目指して、作家のセレクションをさせていただきました。

内沼:アマンダ・パーラーさんによる大きなウサギの作品『Intrude』と、先ほど出た『Museum of the Moon』は一昨年、去年、そして今年も継続して展示されるそうですね。これにはどんな意図があるんでしょう?

加藤:シンボルとなるような作品というのを作ろう、という狙いがありました。それと一年目はコロナ禍だったので「行きたいのに行けない」という声がSNSでたくさん寄せられたので、二年目も同じものを展示したかったんです。

そしたら今度、海外からもたくさん人が見に来てくれるようになったり、地方在住のかたが「ムーンアートナイトに合わせて東京へ遊びに行きたい」とSNSで呟いてるのを見るようになりました。

また瀬戸内芸術祭など成功した芸術祭をリサーチしていくと、草間彌生の『南瓜』のようにシンボルになる作品がある。来場者はそれをめがけて訪れやすいし、安心感があるんですよね。 

初年度、北澤八幡神社に展示された、アマンダ・パーラー『Intrude』
(photo: Startbahn, Inc., Masataka Tanaka)

NFTのスタンプラリーで、リアルの街とバーチャルを行き来

内沼:少し話が変わりますけど、スタートバーンさんが開発したNFTアプリを使うっていうのも、ムーンアートナイトの特徴ですよね。

加藤:下北の街全部で、いろんなNFTスタンプをゲットできるよう、スタンプラリーのポイントをセットさせていただきました。私たちとしては、そのスタンプラリーに参加していただくことで街への滞在時間を延ばして、来場者の皆さんにカフェやお店に入ってもらい、より下北沢という街を深く知ってもらい、それぞれの楽しさを見出してもらうことを目指してます。

初年度は参加いただいた各店舗にロゴを提供していただき、それを3DアバターNFT「Metaani」とコラボして制作させていただきました。 2年目は小田急さんや街の方たちに線路が地下化する前など、古い写真も提供していただき、昔の下北沢にちょっとトリップするような施策を行いました。

3DアバターNFT「Metaani」とともに街を周っていく(photo: Startbahn, Inc., Masataka Tanaka)

加藤:今年も10箇所程度そのスポットを用意してるんですが、スタンプラリーを全部コンプリートしたら、達成感を味わえる特別なNFTがもらえる予定です。一つ一つのスポットは敢えて、結構歩かないと見つけられないような場所と距離感で設置しています。なので、3個見つけたらお茶して、3個見つけたらご飯食べて、全部見つけたらお疲れ様の乾杯をして…みたいな周り方をしていただくのがおすすめですね。

内沼:スタートバーンさんのこういった取り組みに対して、小田急さんも初年度から前のめりに協力をされていた印象があります。

向井:そうですね。我々も下北沢の街にはしっかり向き合い続けているので、NFTスポットをどこにしたら面白くなるかは、 それなりにイメージがあったんです。 初年度は劇場やライブハウスの中に入ることはできなかったんですけど、入り口のところやエントランスに設置させていただきました。

それだけでも、「こんなにライブハウスあるんだ」とか「下北ってこんなに劇場があるんだ」と下北沢らしい街の魅力を知ってもらう機会になったのではないかと思います。ジャンルを横断した取り組みは企画当初からやりたかったことだったので、そこは小田急側で実現できるよう動きつつ、デザインやアーティストの選定はスタートバーンさんにお願いする、という分担で動いていました。

内沼:作品を設置する場所や、誰と組むかの選定は、街をよく知っている存在として小田急さんがやりつつ、中身の部分をスタートバーンさんが行う。2社がかなり良い状態のパートナーシップでやれてるという感じを受けますね。

加藤:そうですね。同業者と話していると、 予算規模の割にすごい大きいことやってるね、とはよく言われます。これはもうひとえに、小田急さんが作品を展示する場所を提供してくださっていることと、色々なコストをうまく調整できているからだと思いますね。

内沼:なるほど。場所側に協力できる体制さえあれば、バジェットがそれほど多くなくても大きいことができるかもしれないんだ。鉄道会社×アートという掛け算には、大きな可能性があるんだなと改めて思いました。

作品を通じて向き合う、見慣れたはずの街の魅力

内沼:同じ作品でも展示場所が毎年変わったり、新しい要素が入ったりしていますよね。その点では、毎年来ている来場者にとってもその都度違った体験にもなっている気がします。

加藤:そうですね。去年は巨大なウサギの作品を展示しましたし、今年はまた展示場所がおもしろくなりそうです。

向井:ウサギの作品自体は変わってないんですが、実は展示場所は下北線路街や小田急の管轄エリアではなくて、地域の場所をお借りしているんですよ。初年度は北沢八幡神社で、去年はカトリック世田谷教会、今年はしもきた商店街の中にある道路予定地に展示される予定です。

加藤:東京の街中、神社や教会に作品が置かれるっていうのは、ヨーロッパだったりアメリカで展示される風景とはまた全然違って。作家のアマンダは毎年喜んでくれています。「こんな素晴らしい、街にとって特別な場所で展示できるのは本当に嬉しい」と。

大きなウサギたちは、去年はカトリック世田谷教会に登場
(photo: Startbahn, Inc., Masataka Tanaka)

加藤:また、初年度から展示しているアマンダの作品は、タイトルを和訳すると「侵入者」です。作家の出身がオーストラリアなんですけど、現地だとウサギは外来種で、可愛いんだけど元々の生態系を壊したりするネガティブな側面もある。それを野外作品として設置し、街の中の「侵入者」として捉えて環境の問題にも目を向けてほしいというコンセプトが込められているんです。それが今年、道路予定地に設置されるというのは、作品のコンセプトをより伝えられる機会になるかなと思っています。

向井:ムーンアートナイトで作品を見ることを通じて、普段見慣れている街の魅力や良さに改めて向き合ってもらったり、新しい発見をしてもらえたらいいなと思うんですよね。なので、敢えて線路街の中だけじゃなく、地元と連携して展示場所を調整しています。

加藤: 海外の事例を見ても、ここまで都市でやってる野外のアートフェスティバルってそれほど多くないんです。それだけで東京らしさでもありますし、展示風景を通した日本らしさも出せているんじゃないかなと思います。

展示も、コラボも進化した今年の楽しみ方は?

内沼:改めて、今年はどんなイベントになりそうでしょうか?

向井:3年目を迎え、今年は地域のアートギャラリーさんにも何軒かご参加いただくことになりました。去年よりも展示会場が増えるので、ぜひ楽しく見て回ってもらいたいなと思いますし、限定メニューやイベントなどの地域のコラボ企画も増え、去年は50くらいだったんですが、今年は90くらいまで増えまして。去年よりも一層、街ぐるみのイベントとして進化していると感じています。
 
あと去年、普段は立ち入ることの出来ない東北沢駅屋上のスペースを展示会場にしまして。鑑賞できるのは有料チケットをお持ちのかたのみだったんですけど、すごく好評だったんですね。なので、今年は逆側の世田谷代田駅の地下にある、こちらも普段は入れないスペースを展示場所としてアレンジしています。

去年、東北沢駅屋上に展示された鬼頭健吾『Lines』
(photo: Startbahn, Inc., Masataka Tanaka)

内沼:鉄道駅の立ち入り禁止エリアに入れる、というのはいろんな人にとって特別な体験になりそうですね。

向井:実現に至るまでには社内の鉄道部門の協力と調整があって実現できていることなので。すごく感謝しています。

内沼:あと、協力店舗が増えたのって街の人の口コミなのか、店舗側の自発的な申し込みがあったんでしょうか。

向井:去年参加してくれた店舗は、その効果を実感してくださったのか、今年も継続していただいているところが多くて。新しい店舗に関しては、こちらからリサーチして個別でDMを送ったり、地道な開拓をしています。

内沼:今年の展示作品の見どころは?

加藤:今年は、オーストラリアの建築家とアーティストのユニット「アトリエ・シス」によるかなり大きい作品がBONUS TRACKの駐車場に展示されます。今回、彼らに声をかけたところ、ムーンアートナイトについて既に知ってくれていて。「ルークとアマンダはすごく尊敬しているアーティストで、下北沢で展示していることも知っていた。ぜひ参加させてほしい」と言ってもらえて本当に嬉しかったですね。作品自体も体験型というか、参加者がコミュニティを感じるような象徴的な作品になるので、それもすごく楽しみにしています。

あと先ほどお話にあった世田谷代田駅の地下に展示させていただくのは、「ウェイド・アンド・レタ」というニューヨーク在住の2人組アーティストです。彼らは、去年のムーンアートナイトに来てくれていまして。「是非、私たちも参加したい」と連絡をもらい、友人経由で繋いでもらいました。 彼らは特別に「ムーンアートナイト」のタイトルからインスピレーションを受けた作品を制作してくれています。

あと、今年の東北沢駅屋上に展示されるのは、ベルリン在住の三家俊彦さんの作品です。彼は、アルミホイルで彫刻を作ってる作家さんでして。屋上空間に、ちょっと幻想的なお庭が登場するような展示になると思います。

内沼:既にアーティストの方がムーンアートナイトに来てくれていた、というケースもあるんですね。

加藤:レタたちは、こういう作品を将来的に作りたいとか、こういうイベントに参加したいというビジョンがあって来てくれていましたし、ほかの作家さんたちもたくさん来てくれています。下北沢に行くと作品も見れるし、お酒を飲めるところもいっぱいあるし(笑)。街としての魅力が大きいんでしょうね。

内沼:訪日観光客が増えている中で、日本へ旅行を計画しているアーティストたちは「せっかくならムーンアートナイトに合わせるか」という選択肢になるわけですね。

加藤:そうですね。アマンダとルークがそもそも海外で知名度のある作家だというのもあって。彼の作品を目当てに海外の方が来てくれることもありました。初年度だと、有名韓流グループのメンバーや、タイのアイドルの方が来てくださって。彼らがSNSにそれをアップしてくれたおかげで、同じものを見たいファンの人たちも、たくさん来場してくださいました。

内沼:この記事を読む人へ、ムーンアートナイトのおすすめの楽しみ方があれば教えていただけますか。

向井: 今年は有料チケットで鑑賞できる作品が、去年よりパワーアップしています。先ほどお話した世田谷代田駅の地下のことなんですけれど、普段は入れない場所なのもあり、是非観てほしいですね。スタンダードチケット(2000円)を購入いただければ、世田谷代田駅地下、東北沢駅屋上の2か所の展示会場にも入れますし、イベント限定で販売するかわいいトートバックがついてきたりします(笑)。

あとはコラボ店舗のいくつかでは、何回でも使える割引サービスもあるので、全部楽しんでもらえたらいいなと。あと、一番おすすめしたいのは、一日来て終わりじゃなくて、何日も来てもらいたいなと思います。

17日間という会期の長さもあって、徐々に秋になっていく季節の移り変わりや、気温の変化も感じられる時期ですし。月の満ち欠け、中秋の名月と共に楽しんでもらえたら嬉しいです。

内沼:その期間は、いつもよりちょっと毎日が楽しくなるかもしれないですね。加藤さんは、いかがですか。

加藤:屋外作品は時間帯によっても見え方は変わるので、もし一日だけ来る場合でも、暑さが和らぐ夕方16時ぐらいに集合して、とりあえずカフェで話したり。そこからスタンプラリーを集めたり、いろんな作品を回りつつ、ちょっと涼しくなった頃に屋上や地下で作品を観る。そして、20時ぐらいが『Museum of the Moon』の一番綺麗な時間だと思うので、みんなで月を見て帰る…というのが私の個人的なおすすめです。

内沼:素晴らしいプランですね。

加藤:あと、会期中は早めの日程から来場していただくことをオススメします。後半になるときっと混み合うので。

下北沢にアートイベントは定着しうるか

内沼:最後に、三年目以降のムーンアートナイトの構想について、教えていただけますか。

向井:そうですね。イベント自体は一旦、2022年からまず3年間はやってみましょうとスタートしていて、 今年がその3年目。もちろん続けていきたいですし、個人的には秋の風物詩的なイベントとして少しずつ定着しているような気もしているので、せっかくなら毎年同じ時期に、同じく下北沢で続けられたらいいなと思っています。

さらに踏み込むと、ムーンアートナイトならではの価値として目指していきたいのは、都市部で行われるアートイベントで、最も親しみやすいものになること。小田急として、子育て応援に力を入れている背景もあるので、普段アートに触れる機会が少ない人や、 親子連れ、地域の人もフラっとパブリックアートを見て、何か一つでも感じてもらえるイベントになったらと思っています。

内沼:なるほど。今の話を聞くと、親しみやすいけれど作品は本物である、というのはすごく重要ですよね。ただ来場者の敷居を下げるだけじゃなくてね。

向井:アートに精通したスタートバーンさんと、地域の商店街、地域にアセットを持つ鉄道会社の三者で一緒に取り組むことが、実現できている理由なのではないかと思うので、まさにおっしゃっていただいた点が、このイベントの魅力なのかなと。

加藤:弊社としては、NFTアプリの中で去年ご来場いただいた方に来場チケットを無料でドロップし、アプリ内のコミュニティ作りにも力を入れていまして。今年に関しては応援チケットをご購入いただいたら、来年分のチケットをドロップするといった施策も予定しています。そうやって、そのリアルとバーチャルを繋ぎながら、コミュニティを作り上げていくみたいなところは、やっぱり継続してやっていきたいですね。

15日以上開催している都市型のアートフェスティバルはムーンアートナイト下北沢が初めてだったと思うんです。都市型アートフェスティバルの可能性っていうのを広めていくために、私もムーンアートナイトは継続できたらいいなと思いますし、将来的に「ムーンアートナイトとは何だったのか」みたいな研究も出てきたら嬉しいなと思っています。

内沼:話を聞いていて思ったのは、3年目にして、ムーンアートナイトは一旦の集大成を迎えるんだなと。今後も続いていくかもしれないけれど、ひょっとすると来年から少し何か変わるかもしれない。その変化を観測するためにも、今年は特に来ていただいて観ておくことをおすすめしたいですね。

加藤:そうですね。来年はムーンじゃなく、「ウサギアートナイト」になる可能性だってゼロじゃないですから(笑)。


去年、BONUS TRACK隣接駐車場に展示されたアマンダ・パーラー『Intrude』
(photo: Startbahn, Inc., Masataka Tanaka)

執筆:ヤマグチナナコ/撮影:村上大輔/編集:木村 俊介(散歩社)

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