大江千里のジャズ案内"ジャズって素敵 Vol.6"が公開になりました!!
Vol.6は「僕のジャズには歌がある」です。
ほとんどのジャズスタンダードには歌詞がある
ジャズという音楽ジャンルには、歌詞がないことによって聴きにくいリスナーが一定数いらっしゃるのかと思います。しかし、実はジャズスタンダードには必ずと言っていいほど歌詞が存在します。
例えば、「Lullaby of Birdland」(バードランドの子守唄)。ニューヨークのジャズクラブ「バードランド」のオーナー、モーリス・レヴィのために、ジョージ・シアリングが作詞作曲した曲です。
この後は頭のフレーズの繰り返しになりますので省略しますが、なんてシンプルで直球な歌詞なんでしょう。そう思いませんか?
この曲の歌詞は、最初「Lullaby by Birdland」と歌い始めます。
「(ララ)バイ バイ バードランド」( (Lulla) by by Birdland)。短い飛距離で3回口をつぐみ「バ」を発声するから、めちゃくちゃキャッチーでしょう?
同時に、曲のテーマである「Lullaby by Birdland」を最初に提示するのも、とてもわかりやすい。スタンダードたらしめる理由はここにあります。
さて僕は現在、日本語歌詞のジャズアルバムを制作中です。アメリカで生まれたジャズという音楽には、独特な英語の響きとリズムがあるので、日本生まれ日本育ちの僕が日本語でジャズを作詞するのは、正直とても難しい。
だからこそ、今回はジャズにおける歌詞がどのような働きをしているのか解き明かしたいと思います。
メロディと歌詞の結びつきは、非常に深くて面白いです。例えば有名な「In A Sentimental Mood」の出だし、「in a sentimental mood」は「ドレミソラドレ~~」と音階が上へ上がっていきますが、とても似たメロディの曲が日本の演歌にあるのをご存知ですか?
北島三郎さんが1965年にリリースした「函館の人」です。歌い出し「はーるばる来たぜ、函館~!」 どうです? 上がってるでしょう?
これ全く同じ上がり方で最後だけが違う「ドレミソラドレレレレ」です。ほぼ同じメロディでも歌詞によって随分印象が違いますよね。
メロディは歌詞とともに
僕はジャズを学ぶ学生だった頃、クラスで作曲の課題があると、必ずと言っていいほどまず歌詞のついた曲を作り、そこから歌詞を抜いてメロディだけにして、クラスへ持って行っていました。シンガーソングライターだったときから、曲を書くときには必ずと言っていいほど「歌詞とメロディを一緒に作っていた」からです。
それがジャズを作曲するときにも、自然となんらかの言葉がメロディと一緒に出てくるんです。不思議なものでそうやって出てくるメロディと言葉の組み合わせによって、景色が鮮やかに目の前に浮かび、その景色が次のメロディを引っ張ってくるのです。
具体例を紹介しましょう。ポップス時代に作った「格好悪いふられ方」などまさにその典型例です。まず歌の最初に曲の主題(格好悪いふられ方)を提示します。すると「2度と君に会わない」のフレーズが導き出される、つまり曲が動き出すのです。
歌ってみるとわかりますが、俳句のように一息で歌えるここまでをワンフレーズとすることで、メロディの抑揚がしっかり決定されます。
すると今度は全く同じメロディラインを使って「大事なことはいつだって、別れて初めて気がついた」とくるわけです。なかなかこうして自作の「からくり」を明かす機会もないので面白いでしょう。
これは先ほど出した「Lullaby of Birdland」「In A Sentimental Mood」と同じ論理、つまり「メロディは強力な歌詞により節を持つ」のと、「主題をまず曲頭で歌う」という観点から作られていることにお気づきでしょうか。ポップスとジャズ、遠いように見えて、歌詞という視点を導入すると、案外近いような気がしませんか?
インストゥルメンタルでも歌詞をつける作曲には、歌詞の言葉によって、曲の本質が見えやすくなるという利点があります。
さまざまな曲の書き方があって然るべきですが、メロディを先に譜面に書き込んで作曲をする場合と、歌詞と一緒に同時に作る場合とでは、メロディの抑揚、休符の入り方が全然違うのです。
ちょっとここは大事な部分なんで、深掘りしながら進めますね。
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★"フテハレ vol.3"はいかがでしたか? 追い焚きは5/24まで。楽しんでくださいね。そして、今日は"サニサイ・「1 2 3 4」特集"は16時から。