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プチDAYS「朝がだんだん遅くなる」
時差ボケで夜中の3時や4時に起きていた日々が徐々にだが普通モードに戻り始めた。
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それでも眠くなるのは夜7時くらい。だから9時頃にベッドに入ると夜一旦は目が覚める。12時とか1時に。あ、得したな、と思うようにしている。
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一瞬、目を覚まして割に正気で外の音を聞きながら考え事をする。そして寝返りを打ち本気で2ラウンド目を寝る。そうすると次に目がうっすら覚める頃には鳥の声が聞こえてくる。
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夏の朝の光が大好きだ。ブルックリンの僕の家の窓からは街路樹が見えて、強い光の始まりを葉っぱが照らして乱反射する。それに今度は室内のあらゆる調度品が影を映し出す。
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コーヒーを作りストレッチをしシャワーを浴びた後にゆっくり飲む。昨夜ちょうど没頭してたRecordingが一段落したので、気分は安らかだ。
達成感がある。手元の携帯をいじっているとつい1週間ほど前の写真が出てくる。そこには森山良子さんがブルックリンに到着したばかりの「始まる緊張感」が漂っている。
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思えば1年以上前にプロジェクトが始まった。詩曲を書き始め良子さんもニューヨークに何度も短期で来られレッスンを受けた。テーマは日本語のジャズで「人生って素晴らしい」を表現すること。
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1年の間に僕は愛犬を亡くし日本のツアーを完走し再びブルックリンに戻る。夏の暑い盛りに、出会いと別れを繰り返す人生の物語のカケラが一つ一つ積み上がっていく。
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朝淹れるコーヒーは濃かったり薄かったり、でも毎朝同じように胸の下辺りまでスーッと落ちてきて心に染み渡る。そうしてまた「希望」のようなものが湧いてきて、ゆっくり腰をあげる。
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9月6日にシリコンバレーでバースデーバッシュと名打ったコンサートをする。なんかとてつもなく楽しいものにしようとセトリを鉛筆で書き連ねてみる。9月20、21にマンハッタンのバードランドでやる4回のショーはトリオにゲストが毎回入るのはどうだろう。せっかく良子さんのアルバムが完成なのだから、12月の発売に先駆けどこよりも先にトリオで演奏するコーナーを作ろう。
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「明日最後の夜、ゆっくり夕食を食べようね。」
良子さんからのメール。僕はまだ夢を見ている。いつかきっと、心の中で願い続けていた夢への橋を渡っている。
文・写真 大江千里 (c) Senri Oe, PND Records 2024