ブルックリン物語 #73 "jubilation〜歓喜〜"
「Senri, ちょっと話があるので今から君のドアまで行っていいかい?」
2021年1月2日。1月分の家賃の小切手を渡したいと大家ジョーに言うと、そう返事が返ってきたので家で待っていた。すると程なく聞き覚えのある忙しない足音が上がってきた。僕たちは新年の挨拶をいつものように明るく交わし家賃を彼に手渡す。日本風お辞儀をしてそれを受け取るジョー。
「ところでSenri ,うちに2番目の子が生まれるんだ。今度は男の子さ。今9カ月目なんだ。もういつ産まれてもおかしくない。そこで相談なんだが、ここを下(ジョーが前に教会に貸していた1階部分とその奥のジョー自身がオフィスに使っている部分)とをぶち抜いて新しい子のために僕らの新居にしたいんだ」
え?
「急なのはわかっている。君とは10年の付き合いになる。君がどれだけここを気に入っていてここでジャズを作ってきたかも知っている。僕は君の音楽をiTuneで買っているから」
去年の暮れにクリスマスの配信ライブの録画部分の撮影にクルーが家に来て、いろんな角度に照明を仕込んで撮影する様を見ていて、やっぱりこの部屋はどう撮っても「味」があるなあと惚れ惚れした。と同時にぼんやりと、
「この先一体どれくらい長くここにいるのだろう?」
とふと魔がさしたように冷静になったのを思い出した。その思いを打ち消すかのように、「今はそんなことを考えるときじゃない」と思い直し、番組は滞りなく終わり、僕とぴはめでたく2021年の元旦を迎えたのだ。
「隣の元小学校を改築したアパートに俺たちは今住んでいるだろう?その部屋を君にあてがって、いわゆるExchange(交換)という形の住み方をできないかと言う相談なんだ」
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