特別寄稿 6 「雨に濡れながら駆け込む人がいる」
傘の群れもない土曜の昼下がり。
ヒカルはWall街を見たいと言う。FRB銀行(日銀みたいな銀行)や、
証券取引所も。目的があるというのは強い。
あいにく雨がぱらついてきたけれど3人のスピードは上がる。玉手箱の様なN Yはぼーっとしてると飲み込まれて思わぬ時間を費やしてしまう。それも楽しいのだが目的があるのならばそれを淡々とやろう。
建物の中には入れないけれど雰囲気を掴んで、あっちこっちから写真を撮影してへーすごいなあとか本物やあと感嘆の声を上げている。オジキは彼の様子をそこはかとなく観察し「イタリアンが食べたい」とか「スタッテン島へ渡れない?」と彼が言い出すと、すぐに対応できるように常にオプションを頭の中に用意して帯同する。
南下してブロードウエイを降り牛の像へ。ボウリング・グリーンの広場を飾る巨大なチャージング・ブル(突撃する雄牛)の像は、株式相場の上昇トレンドを象徴している。ブルは上昇相場のことで強さとパワーの象徴だ。
小雨のぱらつく中、大勢の観光客たちが列をなしてブルと一緒に記念撮影を試みている。僕らも列の最後尾に並ぶ。家族連れが圧倒的に多い。10分も15分も一人でアイドルポーズをとり続けるような非常識インフルエンサーもここにはいない。
「牛の上へ登ってみるかい?」
「いや、いいわ。遠慮しとく」
映えを目指してないのだな、資料やリサーチとして写真の残すのだな。
クールに牛とポーズをとったヒカルの次の目的地が決まる。「スタバへ行きたい」と言う。それはリザーブする特別なスタバだと言う。あ、この前、偶然コロンビア人の友人たちと飲みに行った帰りに立ち寄ったあの場所だとピンとくる。いくつかあるのだが記憶にある14丁目の店舗へ向かって地下鉄に乗り込む。地下鉄に乗る→振動の中気持ちよくなる→爆睡する→オジキに起こされ飛び起きる→スタスタ無言で歩く→写真を撮影する、を淡々と繰り返すヒカル。歩く時以外はヨガをしたり腕立てや腹筋を続ける母 Manryはヒカルよりは起きていて、近づいてくるたちの悪いホームレスを注意深く牽制している。
「あなたがたに慮(おもんばか)る気持ち、分け合う気持ちがあるならば私を救ってください」
そう言って至近距離へ入り込み、そのまま留まって人の顔を覗き込む。アンクルは彼が通り過ぎた後、居眠りをするヒカルの横でため息をつくManryにこう言った。
「慮る気持ちもある、分け合う気持ちだってある。しかし、、その相手がお前じゃないんだよってことだね」
Manryはそれには何も答えなかった。
雨から逃げるように店に駆け込んだ客たちはコーヒーから派生する大人の体験にeyesを輝かせる。ハドソンヤードの死んだ様なガランとした終焉感に比べるとここにはリアルな活気がある。
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