ブルックリン物語 #65 "WOODY'N YOU"
「1346号室にいるから。ドアを開けたままにしとくんでノックして入ってきてくれ」
初めて会う相手にそう伝えられてたじろがない客はいないだろう。ここはホテルのロビー。ウッディはシアトルの郊外に住むラジオプロモーター。電話で話した感じでは僕より人生の大先輩だと思われるのだが、まだ100%定かじゃない。今回、縁あって彼と1クール、5枚目のアルバム『Boys & Girls』で仕事をすることになり、ウッディがジャズコンフェレンスに参加するためにNYに来ているので「じゃあ会うことにしよう」と言う流れで僕はここにいる。
マンハッタンのミッドタウンウエストにあるブテイックホテル。アンテナを張ってるファッション関係者やそのワナビーたち(そうなりたい人たち)で溢れかえるその場所は「nature 」をコンセプトにしている。全体的に緑色のジャングルを彷彿させる。打ちっ放しのコンクリートの天井に露出するダクト。そのダクトと自然の木々が不思議なコントラストを醸しす。「猿の惑星」じゃないが「元都市の廃墟」をイメージするにはN Yはぴったりのロケーションだが、少しコロンバスサークルの西に寄るだけで随分とファンキーさは増すもんだ。
外からはどこが入り口だかわからない、 常連さんしか入れないような作りなのだ。誰かが出てきたときドアの位置を確かめて瞬速でホールドし、中に入った。背中でまだ回り続けるドアに別の誰かが入ったのが空気圧で感じる。それより高々とそびえ立つ天井とほんのり漂うハーブの香りに気後れした。キョロキョロ見渡すのだけれどもレセプションだってどこにあるかがわからない。テックスメックスイッシュな(「アメリカ的に解釈されたメキシコ料理的な」と言う意味、最近ニューヨーカーはこの「的な」の「イッシュ」を語尾によくつける)レストランがドカンと一つ中央にあり、あちこちにソファが点在するロビーはまるで古い図書館のようだ。
人の流れでやっと発見したそれは思ったよりもこじんまりしていた。カジュアルで優しいレセプショニストがすぐにウッデイに繋いでくれる。
ウッディがどうしてわざわざこのホテルを選んだのか会ったらすぐ聞いてみたいと思ったが館内電話の呼び出し音が4つ鳴る前に相手は出た。
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