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短期連載 「Senriと良子のおしゃべり泥棒」3
3日目のレッスンはローレン先生が我が家にやってくる。久しぶりの再会にRyokoさんとローレンは抱き合って喜び合う。ぴも尻尾を振って喜んでいるのが見える。
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随分、何度も床を拭いたり模様替えをしたりしてぴの残した跡を消して綺麗になった部屋のレイアウトを見ても「わー」としか言わないRyokoさんに、無言の愛を感じながら音楽室へ誘う。
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アメリカ流だとペットが亡くなった時は慰めの温かい会話やハグが続く。それぞれの表し方なので、ローレンのそれもRyokoさんのそれも、どちらもありがたい。ぴも僕もちょっと照れくさいような気持ちになる。
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今回の滞在は短期留学ではあるけれども数日なので一回のレッスンの時間が長い。そして密度が濃ゆい。前回やった内容を日本でのツアー最中も復習をしてかなり血となり肉となった様子が手に取るようにわかったので、ローレンは喜び、さらに上をいく細かいニュアンスやテクニック、呼吸法などへレッスンの内容をアップデートさせる。
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前日にお連れした古着屋で買ったカウガールなダンガリーを、早速サラッと着こなしてすぐに集中するRyokoさんと夢中で課題を出すローレン先生。国やジャンルこそ違えどお互いにコンサートをやり続けてるプロ中のプロ同士である。
ローレンは、
「Senri や私が太刀打ちしても敵わない経験値とアイデア、テクニックそして広い心を持っている。でもきっとSenri が彼女のために作ったアイデアを活かすにはこうすれば面白くなるんじゃないかしら?」
そんなふうにレッスンは進む。
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昨日ZOOMでやったレッスンの続きも行う。ハンプトンベイに行けなかったのでローレンが寸胴のタッパーに手作りのスクアッシュスープをたっぷり持ってきてくれる。
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僕が作った曲の歌詞の説明をするのに歌というと大袈裟だけれど、少しメロディのラフな語りのような感じで英語で先生に内容を伝える。
「相手の人は亡くなったんだよね。いつだって別れ際に手を振るとツンデレだったわけ。だからRyokoはわざと人混みの車道へ降りてってバスに大きく手を振っちゃうわけ。バイバーイって。」
うんうん、ローレンが興味深そうに聞く。
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「天国じゃ飲みすぎてない? 鍵は左のポケットに入れてる? 大好きなチェスはやってる? 随分歳をとった私のこと、あなたは人混みから見つけ出せるかしら? 今度は私を無くさないように大事に左のポケットに鍵と一緒に入れてくれる?」
先生の目に涙が光る。僕も感情が少し入り舞台劇をやっているような雰囲気が辺りを包む。
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「Senri! この曲はもうあなたのそのままの英語で別バージョンを作りましょう。私は補作詞もしないわ。今歌ってるそのまんまがいい。」
先生と生徒の垣根を越えて、レコーディングへの蕾が水分を吸ってゆっくりと笑いながら膨らむ音が聞こえる。
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エクササイズとしてルンバのリズムでRyoko さんのレパートリーをやったり、アジアンアメリカンのジャズミュージシャンが第二次世界大戦がもたらしたさまざまな感情をモチーフにしたジャズを少し演劇風にやっているアプローチについて互いの立場から議論したり。僕は二人がどんどん繋がる糸が見える気がして、そんな時はアカンパニスト(伴奏者)に徹して会話に割って入らぬよう細心の注意をする。
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自分の想いをローレンに英語でどんどん伝えていくRyokoさん。会話の中に僕も学べる音楽や人生やジャズのヒントがいっぱい隠されている。レッスンというプロセスの中でそんな学びが僕にもたくさんたくさんあった。
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最後は再び僕のモチーフに戻って代わりばんこに歌う。少し開けた窓の外へ二人の声が広がっていくと、あちこちから人が集まり立ち止まって耳を澄ませているのが窓越しに見える。歌い終わるとまた人が動き始める。
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昨日の豪雨が嘘のように空に晴れ間が広がった。
文・写真 大江千里 (c)PND Recorsds 2024