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「マンハッタンは静かになったのか?」 7DAYSチャレンジ #1

コロナのおかげでマンハッタンはすっかり静かになった。

元々僕が住むブルックリンは、急激な家賃の高騰でテナントが次々に出て行った後もなかなか次に手を出す人がいなくなったところへの追い打ちコロナだった。母国や故郷へ一時避難したり永住帰国したりする人が出始めて、町全体のエネルギーが少しというかかなり下がった気がする。マンハッタンへ出ても町並みが歯抜けで(for rent の状態)木で表を打ち付けてしまった店も多い。

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僕がNYに移ったのは2008年1月10日。雪が積もっていた。長旅で疲れた僕と愛犬のぴーすは13丁目の屋根裏のようなアパートで抱き合って眠った。2、3日後から入学が決まっていたニュースクール大学のオリエンテーションがあり、バタバタと春学期が始まった。僕はあの頃からすごく緊張していた。もともと緊張しやすいタイプなのかもしれないがオリエンテーションの二日目を寝過ごしてしまい出ばなを自分から挫いてしまう。アメリカに、ジャズに、英語の会話に、ものすごく構えて緊張し、とくにジャズには長年の憧れが強かったせいもあり心も体もガチガチだった。

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不思議なものでジャズの環境にいると慣れてくる。卒業までに4年半かかったのは自分のその時の年齢(47歳)を見くびっていたことに起因する。向こう見ずな練習のツケで腕を故障しピアノを弾けない時期が1学期(入学した学期である)あり全てが後ろ倒しになったのだ。渡米する前はジャジーなライブをジャジーな編成で行っても「まあ、せいぜい頑張ってよ」尊敬するジャズプロデユーサーに言われた。入学してからも最初は周りにいた友達が僕の演奏を聴いた途端にスッと蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。

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ジャズとは何なのか? ジャズのコード感とは?モードとは? スケールとは? 時代を味方につけて一気に球場サイズのライブを行うところへ到達した僕は自分に降りかかった状況を飲み込めずにいた。おそらくそのアウエイな状況を打破するには誰にも思いつかないような賢い方法を見つけさえすればあとはなんとかなると感覚的に思っていた。しかしマンハッタン中探してもジャズの先生などいないしカリキュラムなどどこにも存在しないことを数年かけて気がついた。ジャズは自分の耳で学ぶものだからだ。渡米後の1冊目『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』にこの様子は綴られている。

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卒業が決まり与えられていたカリキュラムがなくなった分、この先は自分で自分をSelf Taughtしなければいけない。僕はアメリカに残ることを選択し、レーベルを立ち上げた。一緒に渡米したぴーすが永遠に元気でいてくれますようにと、PND Records & Music Publishing INC. (PND=Peace Never Die)と名付けた。そこからジャズの1枚目『Boys Mature Slow(男子成熟するに時間を要す)』を出す。CDの制作、販売、宣伝、ライブのブッキング、など全て自分一人で始める「ひとりビジネス」が52歳で始まった。ネットで人探しをして興味の湧いた人を見つけるとコンタクトをとってみる。そこからスタッフ探しをした。一人また一人と輪ができるように人が集まり始め僕はなんとか最初の旅を離陸する。

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noteを始めたのはその2年後くらいだ。アメリカでの活動は砂漠に種を植えて水をやり目が出るのを待つような作業だったけれど日本は日本でジャズピアニストとしての活動を始めると「歌わないんですか?」と純粋に問われる。そこを一個一個説き伏せ人生の第2章のジャズピアニストとしての演奏をひたすら黙々とし続けた。何故ならば僕は千里=1000個のふるさとを作る、という名前を持ち、人生を前へ進め、ページをめくり続け、切り拓くもとに生まれているためである。

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これはジャズへシフトチェンジした後も度々起こる。自分が憧れて入ったジャズの世界のマーケットが年々小さくなり意識が硬直していることを知り僕は僕にしかできないジャズを作れないものかと不遜にも思いたつ。それがこの3冊目『マンハッタンに陽はまた昇る 60歳から始まる青春グラフィティ』に出てくる。自分がポップのシンガーソングライターだった時の引き出しを開けて最もポップと思われる曲数曲にジャズアレンジを施して演奏したアルバム『Boys & Girls』を完成させたのだ。

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この話の続きは明日。「マンハッタンに陽はまた昇る」は3月31日発売です。それまでの7DAYS、お付き合いください。興味のある方はnoteへ参加されてみてください。その話も交えていきます。INGのSenri Oeを、書きます。

文・写真 大江千里 (c) Senri Oe,PND Records 2021

↓ROUDOKU編(ピアノ伴奏つき)は会員限定です。


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