ブルックリン物語 #70 "Anything Goes"
「それはいい。是非やろう。おそらくこの3人であればスタジオをロックアウトにして1日でやったほうがむしろいいものが上がると思う」
アリにレコーディングの知らせをするとそう二つ返事が返って来た。マットも同じ感触だ。自分が考えていたことと彼らとの温度差がなかったので、よし!と早速スタジオを押さえる。時間は昼頃にスタートして丸一日ロックアウトにしてもらい、アルバム1枚をこの中で録音する。これだと万が一進みが遅かったしても、夜の11時くらいまではなんとかスタジオが使える。
エンジニアのダニエルが実際の録音をやり、その上司である同じくエンジニアのオスカーが俯瞰の位置でスタジオの様子を見る役目をし、コプロデユーサーのJunkoが音楽的な見地に立ち、辛目の意見をしてもらう。
役者が揃った。
そして忘れちゃいけない、NYに一緒に渡り共に生きるぴも参加だ。日本ツアーで演奏した曲たちが今の熱でもう一度スタジオ録音で蘇る。「Orange Desert」「BIKINI」「RE:VISION(最初のタイトルはメリル・ストリープ)」「The Look」「Indoor Voices」 「Poignant Kisses」をトリオで、「When Life was a Pizza Party」「Freshening Up」「Fireplace」を自分一人のソロピアノで演奏する。
僕の頭の中には元々ジャズのアルバムの中からシングルを1曲1曲カットしてそれに合わせミュージックビデオを作りプロモーションするアイデアがあった。それとは全く別に東京のソニーミュージックダイレクトから依頼を受けた映像作家H氏が短編ドキュメンタリーとEPKを撮影しにやってくる。レコーディングの最中ずっとカメラで演奏する姿を撮影するのだ。
日本ツアーの後に行ったハワイではプエルトリコから来たヘンリーと組んだ演奏もうまくいき、ヘンリー、マット、Senri、という新たなトリオの経験値も積んだのだけれど、ブルーノート東京の3日間で作りあげたあの何とも言えない世界の続きに興味があった。なのでまずはアリに声をかけた。速攻で「やろう」という返事だった。
ソロピアノの部分をまず僕がスタジオに入って先に録る。11時30分頃到着。スタジオの手前のスタバで大きめのコーヒーを買い、ドアベルを鳴らす。
「Senriかい、開けるよ」
「よ、ありがと」
オスカーと僕のいつもの短い会話。2nd story sound studio。その名の通り階段を上ると2階の奥に音楽スタジオ部分がある。スタジオのドアを内側からホールドしてちょこっと顔を出してニコニコ手を振るオスカー。
「どうだい?調子は?」
「いいよ。すこぶるいい。そっちは?」
「いいさ。今ピアノの調律師が来て最後のチェックをやってる最中さ」
「そうか。聞こえてる聞こえてる」
「だろ?」
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