安らぎの場所 -小さな故郷-
大陸横断鉄道の列車から見える街並みの景色が、少しずつ東方系の色を帯びてきていた。
――帰ってきたな。
ルーシン ウェイは故郷に近づくにつれ、顔の緊張がほぐれていくのを感じていた。普段は気づかないが、外の世界にいると、やはりどこか身体に力が入ってしまうものなのだということを、自覚させられた。
アルフライラ北東区、イェンルー老街。その近くの小路にある、小さな商店。ここが、ルーシンの実家だった。
ただいま、と暖簾をくぐると、両親と弟がそろって出迎えてくれた。東方人の父とアルフライラ生まれの母は、ここで出会い、結婚して、ルーシンと彼の弟を産んだ。
元気でやってるかと尋ねながら、ルーシンと自分たちの近況を明るく交換しあう母。わいわいと話している様子のそばで黙って茶を飲んでいる父。対照的な両親の性格は、ルーシンと弟のふたりにそれぞれ受け継がれている。自由で大らかな母親の性格はルーシンに、真面目な父親の性格はルーシンの弟によく似ている。
弟は、父親と一緒に商店を経営していた。小さな店ではあるが、真面目で堅実に商売をしているおかげで、評判も上々のようだった。
そろそろ子どもが生まれるんだ、と弟はルーシンに教えてくれた。ついこの間結婚をして身を固めるというのを耳にしたばかりだと思っていたルーシンは、この知らせを聞き、月日が経つのは早いな、と呟いた。男の子が生まれるのか、それとも女の子なのか気になるが、どちらにせよ、弟なら、きっと良い父親になるだろうことは、ルーシンにとっては容易に想像できた。
実家で一休みした後、ルーシンは散歩がてら外を出歩いた。懐かしい食べ物の匂いが漂ってくる。東方風の蒸し物の匂いがしたかと思えば、今度は中原風の炒め物の匂いがやってきて、美味しい匂いが混じりあった。
この場所は、世界の様々なものや人々が入り交じっている。その多様性からか、住民たちは皆、懐が深かった。互いに人懐っこい笑顔をしながら、どんな相手も受け入れ、交じわろうとする。東方と中原、両方の血を身体に宿したルーシンのルーツは、間違いなくここにあった。
この場所に帰って来ると、ルーシンはいつも思い出す。人と人は違っていても一緒に生きていけるし、分かり合えなくても殺し合わなくていいのだということを。
たとえ小さくても、この愛すべき故郷は、ルーシンにとっては偉大で、安らぎを与えてくれるのだ。
千梨/ホワイトレター/(C)アルパカコネクト
上記作品は、アルパカコネクト様のPBW『ホワイトレター』で納品し、公開されているものです。
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