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ヘイゼルと僕。3《根花のヘイゼル》統率者デッキ紹介(バトル帯)
『お盆ってこんなに人が多いのね』
人混みの中で三歩先を歩くヘイゼルが立ち止まって振り返る。
『まさか帰ってきたっていう御先祖さんたちじゃないよね?』
本気なのか冗談なのか分からない。突拍子もない発言も彼女の持ち味だが、わざわざ帰ってきた御先祖さんたちがイオンモールに遊びに来るとも思えない。
「行くとしても歌舞伎座とか老舗デパートとかだろう。セピア色なところさ」
『それがあなたの老人のイメージなのね』
—-なんだか角の立つ言い方だ。
僕たちは今日、デートをしている。きっかけは今朝のことだった。ヘイゼルがテレビコマーシャルを観ながら言った。
『盆休みにずっと家にいるってのも癪よね。デートしない?』
お盆に予定の無い僕に気を遣ってのことだったのだろうか、彼女の優しい提案を快く飲んだ。
朝食を終えたばかりだった僕たちはすぐに身支度を済ませてイオンモールに来たのだった。
彼女がまた振り返った。
『あったわよ。あそこから入るみたい』
ヘイゼルの見ていた視線の先にリアル脱出ゲーム・メイズエンドと書かれた看板がある。
受付で二人分の料金を支払い、最初のゲートをくぐる。ちょうど既定の参加者数が集まったところのようだ。
「みなさんこんにちは。私が案内を務めさせていただきます」
黒く艶のある長髪にふわふわした白い耳当てが特徴的な、シティスタイルの女性が現れた。花のように華麗な出立ちに思わず見惚れてしまい、ヘイゼルに睨まれる。こんなことで晩飯にベラドンナを混ぜられたくもないのですぐに視線を逸らす。
「今からみなさんには10の門を通りながら迷路の終わりを目指していただきます。順不同ですが名前の異なる門を10通ることがクリア条件です。
リスや食べ物の形をしたアイテムがあなたを助けます。拾い集めながら迷路の終わりを目指してください」
「それでは…スタートします!」
ヘイゼルと僕はひとつめの門に向かった—-
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『…楽しかったね。ゴール出来て良かった』
助手席で微笑む彼女を横目に見て僕の胸の辺りも暖かくなった。
「ただ門を探して通るだけのゲームじゃなくて、いろんな要素があったね。進むにつれてゾンビが手伝いに来てくれるシステムは世界観がよく分からなかったけど助かった。足元にデカいモンスターが眠ってたところは凄く驚いた」
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『あのモンスター怖かったよね!いつ出てくるかと冷や冷やした。舞台が揃わなくたって出てくるときがあるのが怖いとこね。
案内の方が最初にリスとか食べ物のアイテムを集めろって言ってたのは最後の最後まで諦めなければ逆転のチャンスがあったからだったんだね。なんか意味ありげな一文の書かれてたあの石碑のとこ…』
「大地は死んではいない。眠っているのだ。呼びかける方法が分かれば大地は目覚めるだろう。でしょ?」
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『よく覚えてるね。正直ちょっとキモい』
「傷つくよ。ロケットスタートして悪目立ちして早速脱落しそうになったの誰だっけ」
『二点を繋ぐ最短の道が必ずしも安全であるとは限らなかった…なんだかんだ助かったんだから許しなさいよ。たまにはまわり道するのも悪くなかったわ』
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「そうだね。僕たちの生き方だってまわり道してばっかりみたいなもんだ。
そう。君に渡そうと思ってるものがあるんだけど…まだ勇気が出ないや。もう少しまわり道させてもらうよ」
『ちょっと何よそれ。今すぐ出しなさいよ。もう、このバカ』
ヘイゼルは頬をいっぱいに膨らませて今日一番の顔を見せた。
彼女となら、ここからなら、どこへ行く道でも見つかるかもしれない。
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