見出し画像

宇部線を撮る

初めに

宇部線とは、山口県の新山口駅から宇部駅までを結ぶ路線である。出自は軽便鉄道に始まり沿線に太平洋セメントや多くの住宅地を抱えるローカル線だ。今は貨物は走らず、2両の列車がとことこ走っている。
そんな路線の沿線風景に目を向けて写真を撮ろうではないかというのが今回のテーマだ。


朝早く

今回、普通に撮れる黄色も目当てではあるがやはりせっかく宇部線に行くのなら通称ゆうパックと呼ばれる色をちゃんと撮りたい。凍てつく寒さの中、冬らしい風景を撮るのに朝の低く赤みを帯びた光線はいい効果を発揮してくれるのでは無いだろうか。
防府から1時間かかるかどうか、という距離の川辺の撮影地に足を運ぶことにした。

芦原が枯れ、水面は淀んだ空を映していたが通過時だけ日が差し込んだことでより一層白い車体を目立たせてくれた。

用水路の横

宇部新川の手前、琴芝の駅のすぐ近くに用水路の横を走ってくる場所がある。街中を走る路線は数あれど用水路の真横を走ってくる場所は割合少ないイメージが私の中にあった。生活と線路の近さを感じられる気がして好きな撮影地だ。そこできちんとゆうパックを撮ろうと思いバイクを動かした。

宇部線は雑草の刈り取りがかなりの区間で行われて居ないのだが、何故かここは草丈が低く枯れ草の絨毯が冬を感じさせつつも足回りまでしっかり写るのもお気に入りポイントの1つだ。
後ろに郵便局の配送車がいるのがまた日常の記録、といった感じが出てとても良かったのではなかろうか。 

路地裏に線路

広島の可部線もそうだが、宇部線も始まりは軽便鉄道だ。軽便鉄道と言えばやはり民家と鉄道の近さ、と言ったものがあると私は思っている。
宇部新川を出た所にはそのイメージをそのまま撮らせてくれる良い場所がある。少しバイクでウロウロして立ち位置や構図をいくつか見てみたが最初に立ち寄った場所に行くことにした。

これは私の持論なのだがこうような景色はテールランプこそ風情のようなものが出ていいのでは無いかと思っているので後追いをメインに据えることにした。
建物と建物の間を急カーブでフル規格の近郊電車が走り去るのはとてもいいものだと思いつつ、可部線で105系が沢山走ってた時になぜこの撮り方に考えが至らなかったのかと過去の自分を恨む思考にもなる。
地元でやれなかった空気感の写真を宇部線で撮れて何がともあれ、満足の結果になったので次に向かった。

海と狙う

新山口に着いたゆうパックを迎え撃つのだが、折り返してくるまでしばらく時間がある。せっかく宇部線に来たのだから海と狙えるのならば海を絡めた写真を撮りたい。
宇部線は案外海に接近した所を走っていて、常盤へ向かうと駅の目の前が海岸なのだ。常盤海岸の海と105系を撮るためにそこへ向かうことにした。

駅にバイクを停め、駅前の道を少しばかり引き返す。道路は線路の先にある海岸に向けて緩やかに傾斜している。自身の高度が上がる度に後ろの海はより大きくその姿を見せてくれる。瀬戸内らしい白波の立たない落ち着いた凪いだ海は地域性が出るアクセントになる。橋台の下に書かれた白いペンキ文字が程よく入れたくなる書体で取り込むことにした。

並んだ自転車、ペンキ文字、ブルーモーメントが地方交通線の旅情を演出してくれている気がした。

さて、海絡みでもうひとつやりたいカットがあるのでそれを狙うべく歩みを進める。
バイクはそのままに線路をくぐって常盤海岸に出る。護岸に沿って右を向き、宇部空港の滑走路を目指しながらひたすら歩き続ける。たくさんの猫たちに癒されたり道を塞がれたりしながら5分も歩かない程度で突堤が現れるのでその突堤の進める限界まで進む。
そこから来た方を望むと線路が見える。

さっきは列車の後ろに海を入れたが、今度は手前に海を入れようという算段である。
風を遮る物がなく寒い強風が吹き付けて来るがひたすらそれには耐え続ける。ワンバーナーを持ってきてコーヒーでも淹れれば良かったか、なんて考えながら1時間弱待つとさっきの列車が折り返してきた。

少々後ろに写るアパートが気にはなるが山の暗い緑の中に白い車体は目立ってくれる。もう少し手前で撮れば2両綺麗に木が被らずに撮ることは出来るが、アパート等があって主張が弱くなるのでここは少し木を被らせる程度が正解なのかと思う。
漣の陰影が細かく海の穏やかさを分かりやすくしてくれて最後もイメージ通りに撮れた満足感に満たされつつ、私は駅に戻り愛車を回収する事にした。

いいなと思ったら応援しよう!