目からうろこ
布団から出るのに気合いが必要な季節になった。
ストーブをつけて、置いたばかりの炬燵のスイッチも入れる。
エイとばかりに起き、窓を開ける。
冷気が顔にあたる。
夜明けの色が今日は黄色だ。
くぐもった、ためてためて喋り出す役者のようだ。
鉄瓶のお湯より先にコーヒーが沸いた。
スタインベックの「朝めし」のように苦いくて甘くはないが、少し真似てファイヤーキングのカップを選ぶ。
素朴な乳白色のガラスのカップ。
ブロークバック•マウンテンの映画で、牧場の棚に見つけた時はときめいた。
当時は大量生産の安価なカップが今ではアンティークになっている。
どうも早朝は、気持ちが良くて余計なことばかり浮かんでくる。
目からうろこを書きたかったのだ。
週に数日、民宿の掃除に行く。
得意でない掃除だが、ひょんなことから縁ができ、もう長いこと通っている。
オーナーが英語が堪能なので外国の旅行者が多い。
あんなふうに喋れたら気持ちいいだろうなと思いながら、話しかけられないように、いつも「おはようございます」と言ってそそくさと離れる。
先日、オーナーの奥さんと一緒にいたときのことだ。
若い金髪のイケメン登山客が玄関で靴を脱いでいた。
奥さんが何か声をかけた。
すると、そのイケメンは笑顔で「オーケー、オーケー」とまた靴を履く。
ちょっと待って。
「今、ユアルーム アナザーって言ったの?」
「そうそう、度胸と愛嬌よ、中学生レベルなのよ、わたし」
これが目からうろこの出来事だ。
でも、私にはできそうもない。