ぶれないように
農作業のある日は、前夜から徐々に気持ちを盛りたて、元気で出かけられるようにしている。
もう長いこと働いているのにいっこうに慣れない。
作業のシュミレーションをしないと安心できないのだ。
そんな朝、突然、雨が降ってきたら、小さなパニックにおちいる。
盛り上げた気分が一瞬で萎えてしまう。
しばらくすると、「やったー、休める」
でも中止の連絡は来ない。
農園の場所は降ってないのか、様子見か。
島は丸いので隣の集落では降ってない場合もある。
「あれ、青空が見えてきた」
「やっぱりやるのかなー」
一旦、休めると思ったら行きたくなくなるのは当然の心理。
雨がやんでも木は濡れている。
雨具を着ていてもミカンの収穫は手を挙げるので、袖口から滲みてくる。
「なんでこんなことを」と、頬に落ちる雨を涙と捉えてみることも。
農作業を始めたころ、茶園の草取りの最中に雨が降り出し、それでも中止にならない時があった。
農業支援センターから派遣された人はみな移住者である。
「きっと私たち前世で悪いことをしているのよ」
「ハハハ、そうかもしれないね」
笑いとばしながらも、雨の日の作業の情けなさを存分に味わった。
晴れた日の作業は、頬にあたる風は雨と違って爽やかで心地よい。
ミカンの木の香りに癒され、なんとよい仕事を選んだのかと思う。
いまだに雨が降ると動揺する。
ぶれないようにと願っているが、なかなか難しい。
物語の主人公のようにはいかない。
いつまでもゆらゆらと揺れながら、喜んだり、不安を抱いたりしながら過ごしていくのだろう。
雨があがり、午後からの作業になった日の朝に。
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