十二月八日の朝に
有明の月を撮ろうと庭に出たら、吹き飛ばされそうになった。
今ごろから春のはじめまで、気まぐれな北西の風に悩まされる。
ヒューン、ガタガタ、バタバタ(家が古いので)と、ささやかな幸せなど吹き飛ばしてやると叫んでいる北風。
そんな風にも負けず、昨日も今日もポンカンちぎりの仕事だ。
色がついたミカンから採っていくので、大体一週間おきぐらいになる。
徐々に風はやみ、陽がさして、雲もない青空が広がっていった。
着込んだ服を脱いで、さながら北風と太陽の一幕を観るようであった。
さて今朝は十二月八日。
思い浮かぶ出来事がいくつかある。
釈迦が菩提樹の下で悟りを開いた朝は、明けの明星が輝いていたそうだから、有明の月も出ていただろう。
ほかにもジョン•レノンの命日、開戦日。
太宰治の端的な「十二月八日」
夫人の日記形式で書いている。
短編のようにも、エッセイのようにもとれる作品。
百年後に見つかれば、当時の主婦の生活がわかるだろうから嘘は書くまいと冒頭にある。
しかし当時は検閲も厳しかったはず、込められたものを読み取るしかない。
ラジオからは軍歌ばかり流れている。
清酒の配給券が来て、隣組九軒で一升券が六枚しかないので均等に分ける話は笑いながも身につまされる。
昨夜早く寝過ぎて丑三つ時に目が覚め、青空文庫で読み返した。
百年はまだだが、貴重な資料となっている。
配給券がないと飲めない時代に生まれなくてよかったと思う。
そこかとツッコミを入れる平和な朝に。