第11回精神科専門医試験解答・解説

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1. c,e
妄想性障害の予後が良い患者の特徴は、仕事や社会の適応水準が高いこと、女性、発症年齢が30歳以下、突然の発症、症状の持続期間が短いことが挙げられる。

2. d,e
リチウム中毒の治療は半減期が13~50時間と長く、蛋白に結合せず、分子量や分布容積が小さいことから血液浄化療法が有効であると考えられている。
c. 活性炭の使用については、リチウムイオンを吸着しないので、他の薬物との複合中毒でなければ無効である。
d. NSAIDsはプロスタグランジンを阻害し、腎血液を減少させ、尿細管におけるナトリウムの再吸収を増加させるため、短酸リチウムの血中濃度を上昇させる。このため併用によりリチウム中毒となることがあり注意を要する。
e. 血液浄化療法としては、ZimmermanによるHDの基準が有名で、①腎機能障害がある ②重度の中枢神経症状がある ③輸液療法に耐えられない ④リチウム血中濃度が4mmol/L以上の急性中毒もしくは2.5mmol/L以上の慢性中毒である。

3. e
a. 森田療法:神経症に対する精神療法。森田療法の原理は、精神相互作用による悪循環を断ち、とらわれから脱却させるために、患者に症状を「あるがまま」に受容させ、やるべきことを目的本位、行動本位に実行させ、人間に備わる自然治癒力を発動させることである。(解答と解説P109)
b. 精神分析療法:フロイトが創設した、心を分析することで精神疾患を治療する方法である。フロイトによると心は心的装置と呼ばれる3層(エス、自我、超自我)から成り立つ。
c. 集団療法(集団精神療法):統合失調症の精神療法には、支持的精神療法、認知行動療法、グループディスカッションを通じて自分の病気を見つめなおす集団精神療法がある。集団療法は通常10人前後の小集団を対象として、集団の中で自分の問題を語ったり、あるいは他の人の問題を聞いて、それに対して感じたことを発言する中で自分の感じ方や反応の仕方を知ることができる。同じ悩みを共有することによって、孤独感を緩和することもできる。集団の中には様々な力動=相互作用が生まれる。(共感、受容、同一視、普遍化、転移、現実検討、競合など)セラピストはこれらの力動を使ってそのグループの成熟を促し、同時に参加しているメンバーの個々の成長を助けていく。何を語っても、良い自由な雰囲気が保たれていると同時に統制もとれていて、セラピストによって場が保護されていることが求められる。(明記はされていませんが、おそらくこのことを「構造的組織化」と呼ぶのではないかと思われます)
d. 持続エクスポージャー療法(PE:Prolonged Exposure療法):アメリカの心理学者エドナフォアらにより開発されたPTSD治療のための認知行動療法プログラム。
PE療法は、成人のPTSDに対してエビデンスをもつ治療法で「PTSD治療ガイドライン」で推奨されている。PTSDの患者はトラウマとなった出来事について考えるだけでも、まるで被害が「まさしく今、ここで」怒ったように感じていることが多いが、トラウマ記憶への想像エクスポージャーを繰り返すことを通じて、トラウマを思い出すことでどれほど取り乱した としても、再び被害を受けるわけではないことが理解されるようになる。(https://www-f_lifecycle.com.info.2017/04より 他PTSDの認知行動療法マニュアル(治療者用)[持続エクスポージャー療法/PE療法要約]
e. EMDR:Eye Movement Desensitization and Reprocessing (眼球運動による脱感作と再処理法) はPTSDに対してエビデンスがある心理療法である。PTSDの診断がついていなくても、トラウマによって様々な問題が起こっていれば対象となる。EMDRでは、夢を見るときの早いスピードで動き回る眼球と記憶の整理が仮設的に関連しているととらえ、それを利用し起きている時にも睡眠における記憶の整理のようなことを行う。(「EMDRとは」日本EMDR学会より、他カウンセリングの技法 EMDRについて要約)
漸進的筋弛緩:一番筋肉の緊張がとれやすいのは、意識的に筋肉を緊張させた直後なので、これを利用したリラクゼーション法が「漸進的筋弛緩法」である。リラクゼーションとは認知行動療法の治療で用いられる方法のひとつで心身のリラックスを導くために使われ、不安神経症の治療でも用いられる。リラクゼーションは認知行動療法とほぼ同等の効果がある。

4. a,e
TIC:Trauma-Informed Careは、トラウマに注目した介入.組織的アプローチである。強制的治療手段を用いることの多い精神科救急医療現場では、治療自体がトラウマ/再トラウマ体験になる危険性が高く、それは当事者のみならず治療スタッフにとっても同様である。TICの概念を取り入れることで、当事者と医療との治療関係や予後の改善の効果が期待される。
TICとは ● ストレングスモデルに基づいた医療サービスのアプローチ
● トラウマが個人に及ぼし得る影響を理解して取り入れ、スタッフと当事者の双方に身体的.心理的.感情的な安全を確保し、当事者にコントロールとエンパワメントを促す機会を与えるためのもの。
● 医療サービスによる再トラウマ体験を回避するための対策を講じ、サービスの提供、評価には当事者の参加を重視する。
 TICを実践する具体例
① トラウマについての知識を正しく持つ
 ・精神疾患を有する人の51~98%にトラウマがある
 ・トラウマは扁桃体、海馬の成長阻害など脳発達を障害し、情動反応の調節異常を来す。特に幼少期のトラウマ体験は、成人後にも興奮や攻撃性を呈しやすくなるなどの影
  響を及ぼす。
② トラウマアセスメントを行う
 ・できれば当事者全員に、ファーストコンタクトのときに、トラウマ歴と関連症状のアセスメントをし、それをもとに治療を組み立てる。
③ 全スタッフが口調や服装などに気をつけ、威圧的・挑発的態度を避ける
 ・乱暴な物言い、命令や脅しをしない
 ・受付や警備員など、当事者が接するすべてのスタッフに徹底する
④ 組織全体でトラウマに敏感なサービスを提供できるようにする
 ・基準やガイドラインの設定、TICを熟知するスタッフ、ピアサポーターらの雇用、TICを評価する体制、他機関との連携など
⑤ 「暴力や衝突には原因がある」と理解し、当事者を責めない
「操作的」「アピール的」などの表現をしない
⑥ 治療の主役は当事者であることを忘れない
⑦ 疾患、治療についての教育を重視し、セルフマネジメントを促す
⑧ 薬物療法への過度の依存を避ける
⑨ 静かな巡回、スケジュールの周知など当事者の安心のための配慮を怠らない
⑩ 問題があるときには当事者と協力し、話し合って対策を考える
(精神科救急医療ガイドライン 第3章興奮.攻撃性への対応P54~55より)

5. a,e
a. × 海外臨床試験および長期投与試験において、血漿中活性成分濃度と有効性評価項目(PANSS総スコアのベースラインからの変化)との間に明らかな傾向または相関関係は認められなかった。(海外臨床試験および長期投与試験より)
b. ○ 国内臨床試験(後期第Ⅱ相臨床試験)において、錐体外路症状は投与量が増加するにつれ、発現率が増加する傾向が見られた。
c. ○ 小児期の自閉性障害を伴う患者を対象とした国内臨床試験において、体重増加の副作用は38例中13例(34.2%)、成人統合失調症患者を対象とした結果は体重増加の副作用は1%以下の頻度の項目内にあり。
d. ○ パロキセチンとの併用においてリスパダールの血中濃度が上昇し錐体外路症状の発現や錐体外路症状評価スコアの上昇がみられたとする報告がある。リスパダールの血中濃度が上昇することから、D2受容体の占有率は高くなり血中プロラクチン値が上昇する可能性がある。
e. × 抗精神病薬の効果は、65%以上のD2受容体占有率で十分な治療効果を示し、至適受容体占有率は70~80%と考えられている。D2受容体占有率が70~80%となるリスパダールの用量について外国人患者で検討した報告によると、リスパダール2~6mgがこの占有率にあたる。

6. b,c
全般性不安障害は、いかなる特殊な周囲の状況にも限定されない、いわゆる自由に浮動する不安(何が不安ということは出来ないが、漠然とした漂うような不安)が特徴的である。身内がすぐにでも病気になるのではないか、あるいは事故に遭うのではないかという恐怖が、様々な他の心配事や不吉な予感と共にしばしば口にされる。この障害は女性により一般的で、しばしば慢性の環境的ストレスと関連している。経過は様々であるが、動揺し、慢性化する傾向を示す。通常成人期初期に発症し、経過はしばしば慢性的で、より女性に一般的とされている。(解説と解答 P107, 専門医P472より)
明確に数量化できない遺伝性素因が全般性不安障害に見出されている。双生児研究の一致率は、一卵性双生児では50%、二卵性双生児では15%である。(カプランP687)
抑うつが一過性(2,3週間)出現することもある。(ICD-10 P152)

7. a,d
 VDには小血管病変性認知症(皮質下性VD):多発ラクナ梗塞性認知症、およびBinswanger病(進行性皮質下血管性脳症)の2つのタイプがある。小血管病変性認知症(皮質下性VD)は穿通枝領域の血管が閉塞したラクナ梗塞が大脳基底核、大脳白質、橋などの多発した状態であり、特に大脳白質の病変が高度であると認知症を呈しやすい。(専門医P294)
a. ○ VDは男性、特に高血圧や他の心血管系の危険因子をもつ人において最もよくみられる。(カプランp371)
b. × 主原因は、多発性の脳血管障害が痴呆症状を引き起こすことであると考えられている。(カプランp371)
c. × 深部腱反射の亢進、伸展足底反応、仮性球麻痺、歩行異常、四肢の筋力低下などの局所的な神経学的兆候や症状がみられる。(カプランp1417)
d. ○ 上記a参照
e. × 後頭葉の血流低下はレビー小体型認知症で特徴的である。

8. b,e
シュナイダーの一級症状:シュナイダーは統合失調症の実地診断上、特に重要な症状を一級症状としてとりあげた。定義が明瞭で、評価者間の一致率も高いことから近年の操作的な診断基準にも採用されている。
1.考想化声 2.会話形式(言い合う形)の幻声 3.自分の行為と共に発言する幻声 
4. 身体的被影響体験5.考想奪取、その他の考想被影響体験 6.考想伝播  7.妄想知覚  8.感情,志向(欲動),意思の領域における他者によるすべてのさせられ体験.被影響体験 (専門医p414~415)

9. b
a. 近年、すぐに飲酒をやめることが出来ない場合は飲酒量を減らすことから始め、飲酒による害をできるだけ減らすという「ハームリダクション」の概念が提唱されている。
b. ICD-10の「アルコール依存症の診断基準とその具体的な症状や事象例」では、渇望(飲酒したいという強い欲望あるいは切迫感)の具体的な事象、症状として「隠れてでも飲んでしまう」「お酒が手元にないと不安」「お酒のためなら面倒くさがらずにでかける」「仕事中でも酒の事ばかり考えている」「仕事が終わったら一人でも必ず飲みに行く」「仕事中でも飲んでしまう」が挙げられている。
 c.生活習慣病のリスクを高める飲酒は男性40g以上女性20g以上→すなわち女性のほうが短期間でアルコール依存症になる
d.ジスロフィラムやシアナミドは断酒への動機づけがある患者に使用する第二選択薬である。(アカンプロサートが第一選択薬)
 e.アルコール依存症の診断基準に該当した推定107万人のうち過去1年でアルコール依存症の治療を受けているのは5万人(治療ギャップ)。断酒を治療目標とする事に抵抗を持つ患者(特に初期のアルコール依存患者)が多くいたことが、原因の一つと考えられる。上記aのハームリダクションの概念は、治療ギャップを少なくすることに有用と考えられ、飲酒量低減という治療選択肢を加えた下記※が2018年に公開された。 (※新アルコール、薬物使用障害の診断治療ガイドラインに基づいたアルコール依存症の診断治療の手引き(第1版)2018年12月より)

10. a,b
a. × 医療観察法下の医療の目標と理念は、対象者の社会復帰の早期実現である。
b. × 医療観察法による医療は、指定医療機関によって行われ、指定医療機関には、入院医療を担当する指定入院医療機関と、通院医療を担当する指定通院医療機関がある。入院医療は厚生労働大臣が指定する国公立病院等において、国費による手厚い専門的な医療を行う。
c.○ 医療観察法は「重大な他害行為(殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ、傷害)を行った心神喪失者または心身耗弱者を対象とした法律である。
d.○ このような行為を行った者が不起訴処分となった場会、起訴され裁判が行われたが心神喪失等であったとして無罪が言い渡された、あるいは服役を免れた場合に医療観察法の手続きが取られる。検察官から地方裁判所に申し立てがなされると、裁判が行われて、裁判官1人と精神保健審判員(精神科医)1人から成る審判(合議体)によって、医療観察法に基づく医療を受けさせる必要があるか、あるとすれば入
院か通院か等が決定される。
e. ○ 医療観察法の審判手続きは検察官の申し立てから始まる。申し立てをすると、裁判所は対象者について原則2か月(必要があれば1か月延長可能)の鑑定入院を命じる。対象者の鑑定入院中、裁判所が指定した鑑定人(精神科医)が対象者を鑑定する。また裁判所は保護観察所長に対し対象者の生活環境の調査を行うよう求め、社会復帰調整官が調査にあたる。この間対象者には付添人(弁護士)が選任され、付添人が対象者や保護者と面談し、対象者にとって有利な証拠を裁判所に出したりする。裁判所は、鑑定入院期間が終了する前に審判期日を開き、裁判官、精神保健審判員(精神科医)、検察官、対象者、付添人、保護者、社会復帰調整員、精神保健参与員が出席するほか、鑑定人などが出席する。裁判所は対象者および付添人から意見を聞いた上で入院や通院の決定を下す。
 ( a~d.平成27年度版 新・看護者のための精神保健福祉法 Q&Aより)(e.医療観察法.NETより)

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