SUNROSE
静寂の真夜中。
過去と現代を繋ぐ空間の中で、私たちは音を奏でた。
SENJOとして初めての外部での撮影。
古河在住メンバーの繋がりにより、レストランSUNROSE様にて、撮影をさせていただいた。
インターネットの情報だけでも空間・料理の美しさを感じていたので、撮影前からかなりの期待感があった。
今回SUNROSEの店主様に雑談的にインタビューを行い、建築の歴史、使い手としての思い、料理と空間の関係など、様々なことを伺ったので、それらを元に文を綴ろうと思う。
SUNROSEが生まれるまで
過去にこの建物は、履物の製造・卸売商屋として使われており、現在の店主様は五代目になるとのこと。
古河市には元々下駄の文化があったことから、まさにこの地は産業を支える拠点の一つであったのだろう。
ものづくりや商業の場であった他、旅人たちの宿としても利用されていたという話を伺った。
SUNROSEは日光街道沿いの一角に位置している。
東京(江戸)から日光東照宮へ向かう道中、金銭的事情で旅館に宿泊することが難しい人々に対して、休息の場を与えていたそうだ。
この背景から、現在の温かな空間性は過去のオーナーが紡いできた一枚の織物のようなものであるように感じる。
神聖な前庭
道路に面したゲートから店へ入るまでの動線に、素敵な庭が在る。
個人的にここの話が一番テンションが上がった。
元々店先は道路に面していたのだが、歩道拡張を行う影響により減築する必要があったそうだ。そのため、現在の入口は道から数メートルセットバックした所に位置している。
前庭を通って店に入るという動線計画は、レストラン自体を異空間化させており、日常を忘れて絶品の食事をいただくという没入体験の創出へと導く。
単純に上手く計画されているなと思った。
話をする中で、店主さんが呟いた。
「これはね、カシワとシイガシの木で、200年前からあるんですよ。」
え、
減築したはずだから庭のエリアには元々建物があったはずですよね…?
現在、前庭となっているこの空間はかつては中庭であり、聳え立つ2本の巨木は遠い昔から大切に守られてきたそうだ。
過去の持主には、「これらの木を残し続けたい」という強い思いがあり、それを実現するために、コの字で減築していったとのことだ。
昔古河で大火事があった際、多くの家が被害を受けたが、この木が火の蔓延を防いでくれたおかげで建物が守られたそうだ。
かなりの築年数であるものの、現在まで綺麗な状態で生き続けているのは、この木が風雨や自然災害から守ってくれているからだと話してくださった。
レストランに快適さを与えてくれている前庭は、守神として在り続ける神聖な空間なのだ。
この物語には、少々涙腺が刺激された。
ディテール
ディテールに目を向けてみると、各所に隠れる奥深い世界が顕在化される。
建築を学んでいくにつれて、ディテールのデザイン性に高揚することは月並みであろう。
壮大な銀河の中で小さな惑星が強固な生命体として運動している感じ。
日本の伝統建築は線的な要素が多い。
SUNROSEの空間にも美しい線が沢山散りばめられており、それらによって形作られるジオメトリーが空間に奥深さを与えている。
「線的な美しさが際立っていますね。」
と呟いたところ、その裏側にある物語を語ってくださった。
天井に架かる梁の存在感がやけに力強い。
その所以は、天井を構成する材の木目が非常に綺麗であることだった。
店主さんの話によると、その美しさは施主と大工の信頼関係から生まれているとのことだ。
この建築が設計された当時は、施主と施工者との関係性はより密であり、材料選定の段階から協働していたのだろう。
書院造り的な様式が残されているため、天袋や違い棚が日本古来の本質的な装飾として、空間に美を与えている。リノベーションを行ったとはいえ、造り自体は残していることから、過去の記憶を大切に継承する姿勢が窺える。
それらの一部に奇妙な棚が存在している。
なんと引き戸を開くと、戸がどこかへ消えるのだ。
引き戸自体が、和紙と細い木板の重ね合わせによって蛇腹状に作られており、開くと側面の壁にしまい込まれるという機構になっているとのこと。
伝統的な作りの中になぜこのようなギャグ的な操作を迷い込ませたのか、中々理解が追いつかなかったが、作り手がものに対して遊びを与えた時、そのものの生命力は急に高まり、不可視であるものの確かな価値が現れる。
空間・モノ
和の空間の中に、西洋的な家具や陶器が散りばめられている。
客席に使用されている椅子は昭和50年頃のアンティーク品らしい。
SUNROSEの料理はハンバーグやステーキ等、洋食がメインであるため、洋の要素を入れているとのことだ。
これらの存在が緊張感をほぐし、空間に親しみやすさと温かさをもたらしている。
日本建築としては珍しく、空間内に大きなレベル差があるが、これは商家として利用していた頃の名残りだろう。
客席にレベル差があると、食事を配膳する側としては不便な側面が強いように感じるが、この構成によって客は各々の席で全く異なる空間体験を味わうことができる。
個人的には、低層部の客席から店主さんの料理姿を鑑賞できるという視覚の楽しさが印象的だった。
結び
最後には店主さんがこのような話をしてくれた。
材木は、100年経ってようやく正しい形態としてハマると言われている。
それまでは、呼吸を繰り返す。
生命体としての木造建築を生かし続けるためにも、新たな価値を与え続け、後世に繋いでいくことは私たちの使命である。
資源が枯渇し、新しいものを生み出すことが困難である現代において、既存の価値と対話することは大変重要である。
過去に向き合い、記憶を継承することの美しさ。
不可視な物語を発見する趣深さ。
たった数時間であったものの、SUNROSEで過ごした一夜は大切なことを気づかせてくれた。話を終え、FKJのLying Togetherのイントロが流れ始めた途端、異なる位相空間に飛ばされる感覚があった。
今回のDJsetからはいつもに増して温かさを感じる。
日本には、隠された魅力が沢山存在する。
SENJOは、見過ごされそうな細部に常に焦点を当て続け、いずれ大きな世界を作り上げる。
ベクトルはまだ明確に定まっていないが、確かな意義を信じ続け、試行錯誤を繰り返していく。
SUNROSE様、この度はご協力いただき誠にありがとうございました。