新たな分断を生む『子育て支援狂騒曲』
的外れな少子化対策に多額の予算を注ぎ込む日本
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的外れの少子化対策で迎える 2026年「丙午」(ひのえうま) |ねんきんシニアライフ研究室
1990年のいわゆる「1.57ショック」以降、日本は少子化を初めて意識するようになり、「子育て支援(少子化対策)」に関する政策が打ち出されるようになりました。しかしそれから30余年にわたり目に見える結果を出すことなくズルズルと少子化・人口減少は加速して行き、もはや「反転攻勢」するには手遅れと言える状態になってきています。
「子育て支援(少子化対策)」の内容も当初の「保育環境の改善」から「労働環境の改善」「両立支援」へそして「直接的現金給付の拡大」「経済的負担の除去」へとその内容を拡げているように思われます。
2024年6月に成立した「改正子ども・子育て支援法」においては、と
りわけ「現金給付政策の強化」と銘打って児童手当の拡充、出産応援給付金、子育て応援給付金、出産育児一時金の大幅引き上げ、学校給食無償化、高等教育の無償化、住宅支援の強化(住宅ローンの金利引下げ)、さらには育児休業給付金の給付率引き上げ、育休中の社会保険料の免除・非課税化、と実施済み及び計画中の施策を含め「これでもか」「これでもか」と現金のばら撒きのオンパレードになってきています。
もちろん現代社会において子育てがたいへんで、費用がかかり過ぎることは周知の事実であり、経済的な支援が必要な事は誰しも否定はしないと思いますが、ここまでくると、まさに政府、与党、野党も巻き込んだ「人口減少対策」を口実とした留まることを知らない「20年遅れの子育て支援狂騒曲」となっているのではないでしょうか。子育てに関しては税制・雇用保険・社会保険などですでに優遇されており、さらに給食費負担、高校授業料無償化、私立高校無償化まで叫ぶ政党があらわれる始末です。
しかしよく考えていただきたいのは、現役世代・若者世代=「子育て世代」ではないということです。子育て「世代」への優遇は「次世代」への支援(優遇)を意味しませんし、これによって日本の少子化・人口減少の流れを反転攻勢できるとはとうてい思えません。
現役世代・若者世代の中には生涯未婚を通す者、生涯子どもを持たない者がかなりの割合で存在し、その割合も増え続けているという現実があるのです。ちなみに2020年時点での生涯未婚率は男性で28.3%、女性で17.8%(2020年国勢調査を基にした「こども白書」)と無視できない割合に膨れ上がっています。
また生涯子どもがいない女性の割合はOECD=経済協力開発機構が出生率などを分析した報告(2024年6月)によると1975年生まれの女性では日本は加盟国の中で最も高い28.3%にも達するとされています。
もはや日本の現役世代・若者世代の三分の一は子育てとは縁のない一生を送る時代となっているのです。
現役世代・若者世代の多くの割合の人は子育て世帯に属さず、一連の少子化対策と言う名のばら撒きで何の恩恵も受けないだけでなく、税制の不公平さや新たに創設される「子ども・子育て支援金」を通して子育て世代への給付の費用を負担させられていくという現実が浮かび上がって来ます。
2026年度から開始されるこの「子ども・子育て支援金」という新たな負担は、公的医療保険のシステムを通じて徴収されることからすべての国民に負担を強いることになるのです。
「人口減少対策」を口実とした「子育て」に対する莫大な予算投入は、同じ世代でありながら、そしてすでに同等の所得水準でありながらより多くの税金を負担している「単身者世帯」「子供のいない世帯」に対する不公平な政策・制度と言えますし、少子化問題を「出産」にのみ焦点を当て、真の原因が「未婚」にあること、「未婚対策」こそが少子化対策であることを覆い隠すものと言えるでしょう。同じ現役・若者世代の中で極端な経済的恩恵の差を生み出すことは、同世代の中でも大きな分断を生み出すことになり、「法のもとの平等」に反するものと言えないでしょうか?
令和版「産めよ増やせよ」はお金のばら撒きによって実現を図ろうとするものでありますが、少子化の根本的な原因が何であるかを置き去りにした片手落ちの政策であります。
「高齢者と現役世代の分断」から「現役世代の中の分断」へ
現在、年金生活を送る高齢者世代と社会保険料の負担に苦しみ、将来不安を抱える現役世代・若者世代の間にはかってない分断が発生していると考えられます。その結果すべての世代が共生して生きていくという意識は年々希薄になってきています。そして今度はこの的外れな「少子化対策」によって、現役世代・若者世代の中で「単身者世帯」を分断し、さらに「子供のいない有配偶者世帯」との分断を引き起こすのではないでしょうか。すなわち新たな「分断」を日本社会に生じさせることになります。
子育て支援だけで今の日本の少子化の流れを止めることはできません。すでに20年程前にその流れを変える最後のチャンスがありながら無策に終わっているからです。的外れな少子化政策が日本社会に新たな亀裂を生み出しかねません。
現役世代・若者世代の中で「単身者世帯」「子供のいない有配偶者世帯」「子供のいる世帯」その誰もが等しく恩恵を受ける政策が求められています。たとえば20歳から50歳までに限って、所得税の基礎控除を現行の48万円から引き上げるというような施策はできないでしょうか?