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学会ランの愉悦

先週は久しぶりに学会で水戸に行き、千波湖や偕楽園付近の美しい芝の公園を走った。定年ランナーとなった今は、学会出張といっても荷物の8割はランニンググッズとも言える。しかし現役時代は発表や講演、新たな知識の習得が目的だからランはおまけ。それでも現役の外科医は土日を含めてなかなか休みが取れなかったので学会ランは最高の息抜きだった。

思い出の橋ラン


若い頃から学会出張の時は荷物になってもジョギングシューズだけは持参した。今は学会出席の僕のドレスコードがジョギングシューズ。知らない街はとにかく走って回るのが一番楽しい。40代以降は国際学会も増えて、海外でも走るチャンスが多くなった。アメリカが一番多かったが、釜山やクアラルンプール、マニラ、台北、ジョクジャカルタなどアジアの都市も思い出が多い。中でも、印象深いのは長い橋を渡るランだ。自分の中で忘れられない海外の橋ランはサンフランシスコのゴールデンゲートブリッジ、デリーのOld iron bridge、そして真冬のソウルの漢江にかかる盤浦大橋を渡った思い出だ。

金門橋とOld iron bridge

ゴールデンゲートブリッジはサンフランシスコに行くたびに見るが、走って渡ったことは一度しかない。初めての海外発表で緊張する若手を連れてダウンタウンからフィッシャーマンズ ワーフを抜けて約8km。行きはよいよいだ。ただし、見た目は1キロ位なのだが、渡り出すと吊り橋の場合は両サイドが長い。そのため全長は3キロはくだらない。往復し終わったところで若手がもうだめですと根をあげた。20kmは走れる仲間を連れて行く必要がある。
インドの学会では学会場のホテルは最新だが、外に出ると環境の落差がすさまじい。公園を走っていても野犬の群れに出会う。デリーのヤムナー川にかかる鉄橋はイギリス統治時代の名残で、遠目にはかっこいい。しかし歩行者が通れるところは50センチ幅もない。路肩はゴミが多く、すぐ脇を三輪のリキシャやトラックが埃を舞い上げながら走り抜ける。渡りきるまで約1km、車にひかれないように命がけで走る必要があった。

真冬の漢江を渡る

思い出の橋ランの中でも忘れられないのは真冬の1月末に漢江を渡った時だ。ダウンタウンの明洞に泊まり、そこから走り出した。漢江までは地図上は5~6kmだが、真冬のソウルの朝は暗く、標識のハングルは全く読めない。スマホのマップを見ようにもあまりの寒さでバッテリーはすぐにあがってしまった。迷った末に盤浦大橋についたときには、手袋の中で指先の感覚がない。漢江を渡る橋はいくつもあるが、盤浦大橋を選んだのは2層橋だからだ。上層の橋は柵が低い上に吹きさらしで歩道は凍結し、真冬の八ヶ岳山頂みたいなものだ。ランニングシューズで走るにはリスクが高すぎる。下層の橋も誰も渡る人はいないが、こちらは歩道の幅もあり安心感が違う。渡りきってから2時間ほどして明洞に戻りついたときには、手指はすでに凍傷直前だった。いずれの橋ランも大変だった。でも今となっては学会の内容は忘れても橋ランは昨日のことのように思い出せる。


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