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2021|作文|365日のバガテル

パンダのホン?

2020年春
昨年のゴールデンウィークは、東京都が1度目の緊急事態宣言をした時期。例年なら、勢い勇んで行く場所もはるか遠いものになってしまった。同じ頃だったか。和歌山のアドベンチャーワールドのクラウドファンディングに、パンダ本を一緒につくってきたフォトグラファーの中田くんと相談して、ハローパンダ名義で応援した。それが、あの岸和田の竹林、そこから持ち込まれてきれいにして、パンダたちが種子骨をうまく使って握って食べている竹の足しになる、そういうイメージに直結できるので、応援せずにはいられない。もちろん、そうでなくても、これまでアドベンチャーワールドに何度も通い、様々な撮影をし、本を作ってきたのだから、そのフォトジェニックのパンダたちに直結する何かをすることは自然のことだった。リターンは辞退してもよかったが、「撮影ではなく、まあ、撮影したくなってしまうとは思いますけど、ふらっとプライベートで行ってパンダを眺めるようなことができるウィズアウト・コロナな日常に戻るときがあったときのために、今後数年年間パスポートはありがたくもらっておくのもいいのでは?」と、中田くんが提案してくれた。

2020年夏
それでも、そのパスポートは、私たちではなく、その周囲でアドベンチャーワールドに行きたい仲間に使ってもらうのがいいかなと思っていた。そうすれば、また1人、プラスその人物の家族や周囲がアドベンチャーワールドの魅力を語ることになる(私たちは、なにはともあれ勝手に行くのだから)。それが、このコロナ禍の行先不透明な時代において、さらなる竹の足しになるというイメージに直結していく。ただ、年間パスポートの登録は、現地で本人が行わなければいけないという。となると、なかなかパスするのが難しい。そんなこともあって、発行することないまま、東京都の緊急事態宣言が解除になると、私と中田くんはアドベンチャーワールドへ向かい、撮影をさせてもらった。「次はいつ行けるかな。緊急事態宣言中は、園内の感染対策状況的に、原則、東京からの撮影はできないしね。一般のお客さん優先になるのは、当然だし。コロナ禍はかなり厳しいよなあ」。帰路の車中ではそんなことを話し合っていた。

2020年秋
相変わらずコロナ禍でクローズドな世の中の雰囲気。そんな日々において、アドベンチャーワールドのお母さんパンダ・良浜に妊娠の兆候というニュース。パンダは、偽妊娠の可能性も少なくないので、報道も慎重ではあったけれども、新しいパンダの命の誕生をイメージしてワクワクした。同時に、(コロナ禍というイレギュラーな状況下で、撮影できるだろうか)という思いもあった。記録的な写真をまとめて、それをいつ誰が見てもいい本というかたちにしたい。そのために撮影したい。これは、25年以上、出版活動をしてきた私の純粋な部分と、貴重なシーンを撮りたいという職業的部分とがないまぜになっている。公私混同とは違うのだけれど、やはり既視感がない絵をページにすることが、大切になってくる。SNSアプリやこのNOTEをはじめ、これだけ露出し伝達できるプラットホームが溢れている時代に、わざわざ手でめくる紙の本として残していくこと。これ自体がだいぶ困難になってきている。差別化したアイデアや視点やエネルギーが不可欠だ。私たちには、そういう不安や心配がいつもついて回る。

2020年冬
晩秋というのか。11月22日。アドベンチャーワールドで無事にパンダの赤ちゃんが誕生した。のちに楓浜と名付けられるメスのパンダ。永明も良浜も高齢ながら、パンダの繁育に大貢献している。高齢というところに、多少なりとも賛否の両方の意見があるのは知っている。それを知った上で、しかしこうして新しい命が誕生し、パンダの未来を紡いでいるという事実。それはまことしやかに囁かれるような都市伝説とは違う。記録したい。撮影したい。延長が繰り返された緊急事態宣言の間隙をぬって、アドベンチャーワールドへ向かう(もちろん感染症対策は入念に。パンダだけでなく関わる人々すべてに家族や人生がある)。園側のご理解とご協力もあって、楓浜の撮影はとても良いものになった。そして、時間があればパンダラブの方にいる桜浜と桃浜を眺めに行く。この双子からいつだって目が離せない。

2021年春
アドベンチャーワールドのパンダたちを撮影、記録してきて、数冊の本を作ってきた私たち。その中で、原点に還るというか、東京からアドベンチャーワールドへ何度も通ってきた意味というか、コアな部分を掘り起こしていこうと思った。大好きなパンダに会いに行って、実はパンダだけじゃなくて、そこにいる様々な動物たちの姿を追いかけ、あっという間に1日が過ぎていく。ハイエンドな買い物をしたわけではなく、高級寿司を平らげたわけでもない。大ヒット映画を見たわけではなく、プラチナ・チケットのアーティストのVIPシートにいるわけでもない。だけど、時間が経つのを忘れて満喫する。とても良い心地になる。何か、人生をあったかくしてもらった気分になる。そして、動物たちがひたすら食べて寝て走って生きてることを直視して、ファンキーDNAが喜んでいる。私たちにとって、アドベンチャーワールドはそういう場所だった。ということで、パンダの書籍だけれども、私たちの初期衝動的コアな部分をグラビア化してページに落とし込めるように、パンダのホン?みたいな1冊を作った。撮影は夏まで続いたが、ようやくそれがカタチになる。楓浜の誕生月には書店に並んでいることだろう。編集後記というわけじゃなかったけれど、とりあえず締め切り作業中の今、ふと書いておきたくなって、365日分の1のバガテルとした。


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