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ネパールのヒマラヤ山中で途方に暮れた

生まれて初めてネパールを旅したときの話である。
世界8000メートル峰14座があるうち
8座がある天空の国ネパール。

首都カトマンズに着いてすぐお腹が減ったので、
まずは腹ごしらえとしてある中華レストランに入って食べたら、
四川料理とあってあまりに辛い料理だったのかいきなりお腹を壊した。
幸先悪い門出である。
微熱と下痢症状をかかえたまま、
これから3000~4000メートル級
(最高峰は8000メートル級)の
ヒマラヤ山脈をトレッキングするのかと、
トイレどうしようかと、ちょっと悲壮な覚悟を決めた。

まずはネパールの湖の畔のポカラを目指して
飛行機に乗っていった。
ボロいプロペラ式の10人乗りくらいの小型飛行機で
時々墜落すると聞いていたので、
いつ墜落するかハラハラドキドキでとても怖かったが、
ヒマラヤ連峰の景観はすばらしく、なんとか着陸できた。

そこから8000メートル級のアンナプルナ連峰が
目の前に拝めるオーストリアンキャンプというキャンプ施設を
目指して地獄の登山。
どこが初心者用のトレッキング・コースかというほどハードな道だった。

登っても登ってもたどり着かない。
急峻な岩の小道の難コースをとったらしい。
微熱もあり高地なため呼吸も苦しい。
汗ダラダラになってもヒマラヤ登山では、
まずシャワーにありつけない。
1、2週間風呂なしは常識である。
ゼ~ゼ~息吸って吐いて2~3時間も登っていて、
ふと下界を見下ろすと、
はるか彼方に自分が登ってきた登山道が
ジグザグに山の尾根づたいに刻み込まれていて、
下界が薄い靄のようにところどころ覆われていて、
はるかここまで登ってきた道程が
とてつもなく遠い道のりだったと気付かされた。

この程度の高地はまだ2000~3000メートル級なので
まだジャングルの中にいるようだった。
ヒマラヤのこういうところでは
雨季に木の枝からヒルが
人間が吐く二酸化炭素に引き寄せられて
体に落ちて吸い付いてくる
という恐ろしい話を聞いていた。

もう引き返すこともできないほどの
異国の地上の果ての高地に着いて、
言葉は通じない、
外国の山奥で携帯電波もない、
地図もない、
ガイドも雇わなかった、
登山ルートの標識もない、
村もない、
お店も休憩所もトイレもない、
人ひとりいない、
ただひとりポツンとたどりつき、
ないない尽くしで、
究極のサバイバル、
ホトホト途方に暮れてしまった。

そして、やっとの思いでオーストラリアンキャンプに到着して
その夜はインド系ネパール人のオーナーによる
インド・ヒンズー教に関する軽い談話
みたいなお話を聞かされた。
聖なる祝祭儀礼でなぜ動物をいけにえにするのかなど、
オーナーとインド人女性で話は盛り上がり、
私は高山病か疲れていたのかわからないが、
話の内容が頭に入ってこない。
真冬の12月だった。
その夜はみすぼらしい部屋で、暖房もなく裸電球に板のベッドに寝袋で寝た。

翌日はポカラ湖畔までの下山。
ニワトリや犬や猫やアヒルなどの家畜小屋や人家の隣りを
道なき道を適当に通って下山してきた。
太陽は燦燦と降り注ぎ、12月だというのに
5月ごろの暑い春の気配だったのでTシャツになったが、
ただ日陰に入るといきなり極寒の寒さとなる。
途中、二人の若い単独日本人女性の旅行者に出会って、
ここまで過酷な旅を一人でする女性がいるのだなと感心したものだ。
仕事で稼いだお金を貯金して
ネパールのヒマラヤを登ってみたい
という願いがあったそうだ。

私も世界一のエベレスト山があるヒマラヤ山脈に
一生に一度でいいから、8000メートル中の
初中級者用の3000~4000メートルまでは
まず登ってみたいと思ったのである。

ヒマラヤの高地は、牧歌的で空も限りなく蒼く、
まるでタイムスリップして100年200年前の自然の景観のなかを
徘徊しているようで、
宇宙に一番近いこの高山から見える
夜空には何千億もの天空の星々がビッシリと
数えきれないほどの異常な数で懸かっていて、
その満天にくまなく拡がる光輝の鮮烈さは
まさに天界を遊泳しているようで、
まるで宇宙を眼底に映して逍遥するような
気分に浸ったのだった。

一度ネパールのヒマラヤに登ると
やみつきになり何度もリピートするようになるらしい。

補足 : 上記の紀行文では私がその時たどった登山ルートではお店や休憩所やトイレが
なかったと記しましたが、他のメインのエベレスト街道などでは、だいたい500~
1000メートル高度が上がるごとに茶屋や休憩所や宿泊施設&食堂などがあり、
携帯の電波もつながります。ただシャワーや風呂がある施設はほぼないので、そこは
お湯をもらって体を拭くなど根性で乗り切ることです(笑)。
多くのトレッキングの場合は、現地のガイドといっしょに登山するケース(英語で会話)となっていますので、行ってみたい方はご安心ください!

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