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#1 大と小

今日は2人で久々に映画を見る。それはそれは定番でお決まりの起承転結が繰り広げられるB級バトル映画だ。もちろん英語で日本語字幕。映画を楽しむときの俺たちのちょっとしたルール。2人で家賃を折半しているこの小さなアパートの一角で夏ならレトロなちゃぶ台を、冬なら継ぎ接ぎのこたつを囲んで100円のポップコーンと好き好きの酒。月1度程の定例会だったので前回から約1ヶ月たった今日、俺から提案した。あいつも満面の笑みでの承諾だった。
「そろそろつけるぞ」
小さな画面に繋がった安物のDVDデッキに近所でレンタルしてきたディスクを入れ、声をかける。
「ほんとお前よくこんな、マイナー映画ばっかり見つけてくるよな」
既に座ってまちかまえていたパートナーは呆れたような顔で笑う。
「でも、お前もこういうの好きだろ?大学生の個人制作みたいで」
「言えてる」
こんどは、先程より楽しそうに笑う。恋人になりはや3年。数十回の映画は全て俺のチョイスだ。映画に疎い彼のために俺が好きそうなものをピックアップしてきている。コメディーからドロドロとした恋愛ものまで幅広く好むくせにあいつは映画となると驚くほど疎かった。前回の映画だって、数多の賞を総ナメした世界的に有名な超大作だったのに、全く知らなかったくらいだ。だからどの映画も、玄人でもしらなおようなマイナー映画だと思っているらしい。(今回のは本当にそうだが)まぁそのおかげでこんな二流映画にも嫌な顔ひとつせず楽しめるあいつのと時間を俺は気に入っていたから、有難く思う部分だってある。
「早くつけろよ」
同居人が口をとがらせてテレビのリモコンを握ったまま物思いにふける俺に文句を言う。
「あぁごめんごめん」
軽く謝り、再生ボタンを押す。




前述の通りありふれた人情的描写を少しずつ織り交ぜた、躍動感の薄いアクションで構成された2時間だった。
感想を問おうと思い、彼の顔を覗き込むとその顔面は涙でぐしょぐしょになっていた。私は少し驚きながらも顔を眺めていると、彼は自分から感想を話し出す。
「最後にっあんな.......うに かわいそうだよ.......だってやっと.......」
彼は、ラストシーンの主人公とヒロインとの別れに涙しているようだった。よくあるオチだったし、そこまでに至る過程に少し無理矢理感が否めないようなストーリーだった。しかし彼は鼻水を垂らして泣いているのである。そう、彼は非常に涙脆いのである。幾度みたか分からないようなオチに彼は深く感情移入し、言葉が出てこないほど泣くのである。この彼らしさが私の好きなところではあるが恥かしいので普段は口には出さない。面白いやら微笑ましいやらで、笑いそうになる口角をグッと抑え、優しく頭を撫でる。俺よりも15センチも背の高くがっしりとした体格の大男を撫でているのも些か楽しい気がしてきた。こういう時彼は大人しく頭を撫でられている。その光景がどこか暖かい。と、その拍子に口元がふと緩んでしまった。彼は案外そういうことを見逃さない。
「笑うなよなー」
拗ねた顔でまた唇を尖らせる。笑ってしまったことを反省しながらも、遂に抑えきれなくなって大声で笑いだしてしまった。何だこの可愛い生き物は。そう思ったら笑いが止まらない。お腹がよじれるかと思った。涙まででてきた。楽しい。大男も、つられて笑いだした。特に面白いことが続いたわけでもないが、そのまま10分は笑い転げた。お互いの笑いにつられ、笑いが連鎖した。壁の薄い安い賃貸の一角で近所迷惑な笑い声が響いている。

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