あの日の西野亮廣『M-1の話』
昨日書いた文章が多くの人に読まれ、少し面食らってます。
15日に同期の作家・山口トンボと「あの日の西野亮廣」を語る配信をやるのですが、
「喋り忘れた!」ってことにならないよう、文章としても残しておこうと思い、西野さんとのエピソードを綴った次第です。
「泣いちゃいました」なんて感想もいただき、本当に書き手冥利に尽きます。
読んでいただき、喜んでいただき、本当にありがとうございました。
嬉しいです。すごく。
でもあの…
15日の配信が、"全部泣けるもの"だなんて、決して思わないでくださいね。
たぶん、そんな「泣かせてやるぞ」と意気込んだ構成では話しません。
というか、ウルウルの部分なんてあんのかな?
過度の期待を寄せられると、配信の冒頭からスラムダンクの名シーンを交互に語ることになりかねません。
怒られた話も、感銘を受けた話も、くだらない話も色々したいです。
何より、西野さんと接した時間を出来る限り鮮明に思い出し、過不足なくみなさんにお伝えするのが、今回の僕らの役割かなと思っています。
すでに半券を握りしめ、配信への応募を完了してくださったみなさん。
あらためて、本当にありがとうございます。
では。
本番でも話すかもしれませんが、
M-1の話をしたいと思います。
これじゃ、言葉が足りませんね。ここに書くのは、
「キングコングさんが決勝に進出した、2007年のM-1の話」
です。
西野さんが最近出版された著書「ゴミ人間」の最初の方でも、ほんの少し触れられています。
「漫才師としても全員を黙らせようと思って」
たしかに。
たしかにこの年のキングコングさんの漫才への熱の注ぎ方は異常だった。
「ゴミ人間」では、4、5行でM-1の話題を終わらせています。そりゃそうです、この本の主題はもっと別のとこにあるから。
でも、当時の西野さん。いや、今の西野さんでもいつの西野さんでもいいけど、文才溢れるあの人がその気になって、M-1に取り組んだ過程を書こうという気になったのなら、それだけでね、
一冊の本ができちゃう。
それくらい鬼気迫るものがあったんです、2007年には。
デビュー前から漫才の賞を取り、鮮烈な芸人人生をスタートさせたキングコング。
その勢いは衰えず、テレビの世界に飛び込んでも大躍進は止まりません。
そんな人たちがね。
はたから見れば、スターダムへ昇りきったような人たちがね、メッ……チャクチャに稽古するんですよ。
漫才の練習をするんです。
芸人はこれを、ネタ合わせって呼ぶんですけど、ネタ合わせの量がとにかくハンパない。
ルミネ(theよしもと)の出番の合間は、ずっとネタ合わせ。
本番よりネタ合わせの時間の方が何倍も長いネタ合わせ。
エレベーター前の空いたスペースでとにかくネタ合わせ。
あれ、キンコンさん、さっきネタ合わせしてたけど、今って……あ、まだネタ合わせだ。ってくらいネタ合わせ。
合わせて合わせて、2人で納得のいかないとこを直して、また合わせて。
これが、まだ売れてない僕らみたいな芸人がやるならギリわかるんです。
でも、キングコングですからね。もう売れてるんですよ。
それなのに、全芸人の中で一番ネタ合わせしてたのが、このときのキングコングさんです。
その姿に感動したペナルティのワッキーさんは、キンコンさんのネタ合わせの後ろ姿を写真に撮って、待ち受けにしてたくらい。
(これ言って良いのかな。ま、いっか。悪りぃことじゃねぇし。少し恥ずいのワッキーさんだけだし)
そんなキングコングさんですからね。予選から破竹の勢いで勝ち上がっていきましたよ。
一度だけ予選の日が被って、袖からキングコングさんの漫才を観たことがあったんですがね、
あ、こりゃ通ったな
開始数十秒でわかりました。
僕が慧眼の持ち主だからじゃありません。たぶん、漫才をやってる人なら全員わかる、、
うーん、
もっと言うと、その日会場にいた人なら、ほとんどの人がわかる、
「空気」ってのがあるんです。
技術やセンスが全て無力化する、空気ってのが。
とーっても言葉じゃ表現しづらいのですが、簡単に言えば、
"会場全体を根こそぎ巻き込んでしまう"
って感じでしょうかね(まだ曖昧ですが)。
そのコンビの色で空気を染める、というか、
2人の言葉、一挙手一投足が、お客さん全てをコントロールしちまう。
そんな"ゾーン"のようなものに入るときがあるんです、漫才師って。
で、このときのキングコングが、まさにそれだったんです。
ほんで、当然合格。
そんで、そのまま決勝。
順当も順当でした。
2007年、M-1の決勝。
テレビでご覧になって、覚えてるって方もおられるかもしれません。
僕はね、
決勝本番の会場にいたんです。
なぜなら、その日の前説を、僕らブロードキャスト!!(ってコンビ名なんです)が、担当していたから。
カメラやら、何かしらの機材の太いケーブルが、グネングネンしてるスタジオの隅っこ。
僕はそこで、キングコングの出番を、文字通り手に汗握りながら待ってたんです。
ドキドキがドキドキを誘ってくるもんだから、ドキドキがエンドレスにドキドキ。
あ、キンコンさんだ!
始まった!
ミスらないでね。
落ち着いて。
自分を信じて!
そのときの心境はほぼ叔母。
甥っ子のピアノの発表会を見守る、母親でもなければ父親でも叔父でも伯父でもない、なんか叔母。そんな感じ。
後輩がこんな風に観てたなんて西野さんが知ったら、「なんで?」と呆れるでしょうが。
でもね、
僕の不安をかき消すように、
キングコングはウケました。
最後たたみかけて、大きな笑いをとって、「おおきに!」がバシっときまって、これ以上ない終わり方で漫才を締めくくって、
もう完璧。
おっもしろかった。爆発してた。たぶんこれまでのどのコンビよりウケてた。
そして、審査員の点数が発表されます。
「95! 97! 93!…」
「わ! わ!!!」
声が出ました。
得点が表示されるたび、司会の今田さんが数字をコールされるたび、その高得点に思わず声が出ました。
「合計得点は……!」
なんとここまでのコンビの中の最高得点。
「きた!! やった! やった!! きたぁぁぁ!!!!」
横にいた、西野さんとも仲の良い作家さん(トンボではない)と、手を叩きあって喜びました。
トップに躍り出たキングコング。
でも
ご覧になった方は結果を知ってると思いますが、キングコングは優勝できませんでした。
この年の優勝者は、サンドウィッチマンさんです。
史上初、敗者復活からの優勝。
この日の空気は、完全にサンドウィッチマンさんの色に染まったんです。
目の当たりにしたので、よく分かります。
敗者復活から勝ち上がったサンドウィッチマンさんが一本目のネタをやり始めて数十秒。
モゾモゾと会場が蠢く雰囲気が…。
そしてそこからの
ドンッ!!
本当に会場を巻き込んだ漫才師って、足元が地響きで揺れたような、「爆発」としか表現できないような笑いを生むんです。
その現象が、サンドウィッチマンさんには何度も起こっていました。
サンドウィッチマンさんの一本目のネタが終わり、ざわつきの剥がれない会場。濃度の濃すぎる余韻。
この日このとき、サンドウィッチマンさんがゾーンに入ったんですね。
やはり、そのまま、優勝はサンドウィッチマンさんでした。
本番終了後。
別のスタジオで、出演者、スタッフを含めた、軽い打ち上げがありました。
そのとき、西野さんに会って、何を喋ったかは、、ちょっと忘れました。
「お疲れ様でした」は言ったでしょうね。
たぶん西野さんは「ダメだったー!」とか「悔しいー!」とか、そんな風に明るく返してたんじゃないかな、たぶん。
打ち上げが宴もたけなわになった頃。
「あれ、西野は?」
たぶん前述の作家さんが言い出したんだと思います。
「あれ……いないっすね」
「え……。房野、探してきてや」
「わかりました」
僕は、いつの間にかいなくなってた西野さんを探しに、テレビ朝日の中を走ります。
どこにいったんだろう。まさか外には出てないよな。
そんな事を考えながらウロウロしていると、すぐに西野さんを見つけることができました。
その時間、使われてないスタジオ。
人気のない、広く、天井の高い、ガランとした空間に、
西野さん、1人でポツンと座ってたんです。
「西野さん」と声をかけようと思った瞬間、
僕は、その音を飲み込みました。
泣いてたから。
西野さんが声をあげて泣いてたから。
地べたに腰をおろして、膝を折り曲げて。
まるで、少年サッカーで負けた小学生みたいに。
全部を出し尽くして、出来ること全部やって、やってやって、やり倒して。
それでも負けたから。
だから、なんて声をかけていいのか分かんないし。
何を言ってあげれば正解なのかも、まるで出てこないし。
だから、声を、かけることができなくて。
座ったままの西野さんと、その場に立ち尽くした僕。その時間はどのくらいだったんだろう。
しばらくすると、西野さんが僕に気づき、涙を拭ってこちらに歩いてきます。
それでも、まだなんて声をかけていいか分からない僕が黙っていると、
「いや〜」
西野さんの方から声をかけてくれたんです。
「泣くかと思ったわ」
いや泣いてたろ!!!!!
渾身でツッコんでやりました。
そして、そのあともイジり倒してやりました。
このあと、テレビ局を後にしてトンボとも合流。
そのときトンボが西野さんに言った一言が、僕は大好きなんですが、
それは覚えてたら、配信で喋ります。
では、1月15日に。
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