織田信長と明智光秀
え! 光秀ってそんな感じだったの!?
では、『本能寺の変』の続き。
って感じなので、おさらいっぽいのやっときますか。
『本能寺の変』ってね、明智光秀の動機がわかってないの。
↓
てか、動機の前に、光秀と信長ってどんな人だったの?
↓
そこがわかんないと話進まないよね。
ということで、これまで伝えられてきた織田信長と明智光秀のイメージに、ガサッ! とスコップをつっこみ、なるべくリアルな2人をほじくり出してみましょう。
それじゃまず、明智光秀さんからいってみます。
光秀さんは、「生真面目で保守的」というイメージのほかに、
「上司(信長)を裏切った、ただただ悪ぃーやつ」
という”極悪人”のレッテルを、ここ何百年ずっとはられております(そう思ってる人もいるかな)。
だから、イメージとレッテルをドッキングさせると、
「真面目をこじらせパンクして、最後にはとんでもない罪を犯した大犯罪者」
てなことになるでしょうか。
謀反やっちゃったことは事実なんで、悪く言う人が多いのはうなずけます。
ただ、性格と罪だけを「めしあがってください」と言われても、
"光秀がどんな武将だったか"
の味がまったくしません。
なので、ここでは"彼の仕事っぷり"と"織田家でのポジション"だけをざっくりと説明しますので、ぜひ、彼のプロフィールと能力だけでもおぼえて帰ってください(帰ってください?)。
明智光秀。
彼を一言であらわすならば、とにかく
"謎"。
終了。
説明すると言っておきながらマジでごめんなさい。
でも、光秀の前半生はこの一言につきるんです。
どうやら美濃国(岐阜県)で生まれたってのはたしかなんだけど(最近では『近江国(滋賀県)で生まれたんじゃない?』って説も出てきましたが)、
生まれた年も両親の名前も諸説あり(亡くなったとき、55歳 or 67歳の説があります。幅がエグい)。
青年期のプロフィールも
「斎藤や朝倉といった大名に仕えた……たぶん」
といった感じで、経歴のほとんどに
「〜と考えられている」「〜と言われている」
という文章がつきまとうほど、不確定要素の詰め合わせパックなんです。
ただ、斎藤、朝倉のもとを渡り歩いた(とされる)光秀は、そのあと
足利義昭(【長篠の戦い】の回にチラッと登場)
に仕えるようになるんですが、彼の輪郭はこのあたりからハッキリとしてきます。
義昭さんは、室町第14代将軍・足利義輝って人の弟で、義輝お兄ちゃんが家臣に暗殺されるというハプニングがおこると、
「次の将軍にオレはなりたい!」
ってことを言い出し、
「誰か、この義昭に敵対するやつらを蹴散らし、オレのことを京都に連れて行ってくれ!」
と、自分のことを将軍に据えてくれる大名を探し始めたんですね。
で、なんやかんやあって、光秀の仕えている越前の朝倉さんのとこに身をよせーの、光秀は義昭に仕えるようになりーの、になるんですが、
この朝倉さんが「そうだ、京都行こう」と、なかなか言いません。
ヤキモキする義昭に光秀は、
「義景(朝倉)は頼りになりませんが、信長は頼りがいのある人です」
ってことを言うんですね(と、言われてます)。
これは、光秀が、信長の奥さん・濃姫(帰蝶)と従兄妹。もしくはなんらかの血のつながりがあった(可能性がある)ので、信長がどんな人間か知っていたから(と、言われてます)。
そこから、義昭と信長の間を取り持つことになった光秀は、そのまま信長にも仕えるようになり、義昭と信長、2人の上司を持つことになったんです(のちに、信長の専属家臣になります)。
信長に仕えるようになってからの光秀の働きはとんでもありません。
目を見張るものがありすぎてドライアイになりそうな活躍のオンパレード。
すでにご紹介したように、比叡山を攻めるときに活躍したり、
信長が京都に入れば、そこの行政や訴訟を任されたり、
丹波(京都や兵庫あたり)という、攻め落とすのが激ムズな国の攻略を担当したり……してる途中にも、本願寺や毛利といった敵と戦ったりと、
「あなたそれ、織田家の重要なプロジェクトには”ほぼ全部参加"してません?」
というミラクルハードワークを抱えこみ、「よく倒れなかったな…」という過密スケジュールをこなしていくんです(いや、実際は本願寺を攻めてるとき病気になって倒れてます。やぱオーバーワークだった)。
戦闘も内政もできちゃう光秀は、どうしても仕事量エグめになります。
会社でいったら、営業も総務も法務も経理もやれちゃう的な、
RPGでいったら、打撃も攻撃魔法も回復魔法もいけちゃう的な、
恋愛でいったら、美魔女に腐女子に港区女子、非モテ、こじらせ、リケジョに歴女、森ガール山ガール、海、川、大地、果てない草原…もう地球から愛されちゃってる的な、
とにかく光秀のオールマイティー感たらハンパありません。
あるとき信長がね(ちょっと聞いて)、古株の家臣の佐久間さんて人に、
「テメェは全然がんばってねーな……今まで何やってたんだ!!!!!」
と、史上最大のブチギレを手紙にこめて送りつけたことがあったんです(「佐久間信盛折檻状」っていって、積もりに積もった怒りを19ヶ条にわけて書いた、キレすぎて筆が止まらなかったお手紙)。
その中の一文に、
「丹波国での光秀の働きはすごかったぞ!! 世間の評判も上がりっぱなしだ! 秀吉だって数ヶ国にわたってなぁ…(なんたらかんたら)、池田も…(どうたらこうたら)」
と、佐久間さん以外の家臣を褒めたあと、
「おまえもコイツら見習って『よし、やるぞ!』ってなれよ! なれよ!!」
と、キレてるパートがあるんですが、お気づきになったでしょうか?
一発目に褒められてるの、光秀なんです。
信長の中で、
「ここ最近一番すごかったのは……」
と思い返してみて、一番印象にあったのが光秀だったってことですよね(マーベラス)。
で、これだけ縦横無尽な活躍を見せる光秀ですから、とうぜん出世のほうもすごい。
信長の家臣で"出世"といえば、10人中12人が「豊臣秀吉!」と答えるでしょうが、光秀も負けず劣らず劣らず負けずです。
トントントーン! と出世の階段を駆け上がり、やがて、近畿方面の支配を任されるまでになった光秀さん。
いつのまにやら、チーム織田の中でも数人しかいない重臣のポジションを獲得するんですね。
現代で言ったら、中途で入った社員が瞬く間に上り詰めて、近畿地方の支社長と本社の幹部役員になったって感じです(ものすごい)。
というわけで、まとめると……
重要な仕事をあれもこれも任されるほど信長からの信頼が超ぶ厚く、織田家(信長)にとってなくてはならないオールマイティーキャラ。それが、
明智光秀です。
いかがでしょう。
光秀になにか先入観を持ってた人は、少しイメージが変わったんじゃないでしょうか。
極悪とか保守的のベールに包まれてたその中身は、驚くほどの超優秀武将だったんですね。
では続きまして、ホントの織田信長さんを探っていきましょう。
え! 信長ってそんな感じだったんだ!?
はい、【織田信長と明智光秀】のパート2でございます。
カンタンにおさらいすると、
『本能寺の変』を知るには信長と光秀のこと知っとかなきゃ。
↓
光秀は、超優秀な武将。
↓
じゃ、信長は?
ということで、続いては織田信長のリアルを探ってみましょう。
とんでもない勢いでとんでもなく広い領地を獲得していった信長さん。
これはホントにすごいし、新しいことです(どの戦国大名もやったことないからね)。
だけど、「それが可能だったのは、信長が特別だったからだ!」と、半分"魔法使い"、まさに"魔王"のようなイメージに仕上がってるんですが……はたしてどうなんでしょ?
『独創的で天才的なアイデアをいっぱい出した、戦国時代の革命児!』
『逆らう者は皆殺しにする、残忍で凶暴な独裁者!』
『古い伝統や社会をぶっ壊し、武力で天下を統一しようとしたスーパーヒーロー!』
このイメージが、どのくらいあたっているのか?
さっそくドワァァーーっと見ていきましょう。
まずは、
『独創的で天才的なアイデアをいっぱい出した、戦国時代の革命児!』
ってやつですね。
これに関しては、すでに紹介してきたように、
「桶狭間は奇襲じゃなかった」
「長篠の三段撃ちはなかった」
ってところで、雲行きの怪しさ50%な感じですが、それでも信長には「革命児」を後押しするキラーワード、
『楽市楽座』
が残ってます。
教科書やテストでおなじみ、『楽市楽座』がどんなものだったかというと、
「商売が楽になったよー」
ってやつでしたね(ちゃんと説明します)。
『楽市楽座』の”市”と”座”。これはそれぞれ、
市=市場。
座=商工業者の組合(みたいなもん)。
のことです。
昔はね、”座”の人たちが貴族や寺社にお金をおさめるかわりに、市場の販売も利益も独占しちゃってたんで、商売の自由度が超絶低かったんです。
言ってみりゃ、新規参入ぜってー無理の状態。
それを信長は、
信長「そういうのさ……そういうのもうやめにしようよ! こんなんじゃ都市も経済も発展しないって! 座の特権とかナシにして、市場の税金なんかもとらない方向でいくべきだ! 誰もがフリーに商売できる場所……オレはそんな城下町を作りたい!!」
と言って(こんな熱かったかは知りませんけど)、今までのルールをぶっこわしたのが『楽市楽座』です。
これで、
自由な取り引き開始→人が集まる→経済活性化→街、繁栄。
となり、しかもこれは、
税がない→最初の利益はない→けど、おかげで街が発展→結果、信長に入る税が増えて「やったー!」
ということでもあったんですね(マネタイズのタイミングを遅らせて大成功って感じ)。
「これはどう考えても革命的じゃない!?」
という声が聞こえてきそうですが、おっしゃる通り。
これまでのルールを壊して、抜群の経済効果をもたらすなんて、革新的以外の何物でもないと思います。
が、
信長のオリジナルじゃありません。
信長よりずっと前に、六角(定頼)さんて大名が『楽市令』ってのを出してるんです。
つまり、
『楽市楽座』にはモデルがあって、信長が0から作り出したものではなかったんですね(ただ、六角さんのは詳細わかってないし、"楽市"の文字しか確認できてません。信長のは内容も詳しくわかってるし、安土やほかの場所でもやってるよ)。
もちろん、信長さんはいろんなアイデアを出した人だけど、全部が"新しい奇抜なアイデア!"ってわけじゃなかったのでした。
では続いて、
『逆らう者は皆殺しにする、残忍で凶暴な独裁者!』
ってやつです。
『逆らう者は皆殺し』、これはあたってます。
敵対した者に対しては、その一族(女性や子どもを含む)や家臣まで処刑したりしてるんで、そこはホントにおそろしい。
ただ、
ほかの戦国大名にも、そういった例はたくさんあるんで、「"信長だけ"が皆殺し担当」ってわけじゃありません(回数や人数の差はありますが)。
それに、信長はとにっ……かく、よく裏切られる人で、そのたびに「ホントに残忍で凶暴なのか?」というキャラを発揮してるんですね。
浅野や武田といった大名だけでなく、自分の"家臣"にまで何度も裏切られた信長さん(その締めくくりが明智光秀)ですが、裏切りがわかったときの彼のファーストリアクションは「あのヤロー!」とかの怒りではなく、カンタンに言うと
「え!!!!(驚)」
です。
いつも想定外。
場合によっちゃ、
信長「そんなはずがないよ! 〇〇が裏切るなんてこと、絶対ないよ!」
と、裏切られたことをなかなか信じようとしてません(浅野さんのときとか)。
よく言えば純粋(かわいい)。
もっとよく言えば、裏切りの予兆を一切感じとれない鈍感おまんじゅう野郎です(超かわいい)。
さらに、松永久秀や荒木村重といった家臣(どちらもかなり有名)が裏切ったときなんかは、引き止めっぷりがものすごい。
使者を何度も送ってこのセリフです。
信長「ねぇどんな事情があるの? なんの不満がある? なにを考えてるか教えてくれないかな……。そっちが望んでることを言って! 私はその通りにするから!」
ぜってぇーフラれます。
別れを切り出された彼氏・彼女のようなことを言って、結果やっぱりフラれてます(松永、荒木が裏切ったタイミングは別々ですが、信長おんなじようなこと言ってます)。
こうなってくると、信長のキャラ設定は、
『逆らう者は皆殺しに……するんだけど、途中まではどうにか思い直してくれとお願いする、天然で純粋でナヨナヨしたおじさん』
という感じに変更……してもいいですよね?
はい、というわけで、次回も信長のキャラ変に迫るんですが、次は
「え、なに、そこから違うわけ!?」
というお話です。
乞うご期待。
え! え! ホント? 信長ってそんな感じだったんだ!?
パート3ですね。
おさらいというか、こんな話の途中でしたね。
『本能寺の変』を知るには信長と光秀のこと知っとかなきゃ。
↓
光秀は、超優秀な武将。
↓
じゃ、信長は?
↓
思ってた信長とだいぶ違う!
さて、あともう一つだけイメージを残していたので、さっそくいってみましょう。
最後のイメージは、
『古い伝統や社会をぶっ壊し、武力で天下を統一しようとしたスーパーヒーロー!』
というものでした。
これ、いきなり言うと、
全部違います。
「信長は神や仏をあがめず、日本にある宗教をぶっ壊そうとしたんだ! けど、キリスト教だけは保護した! それに、自分が天下を統一するためにも、ジャマな室町幕府をぶっ壊したんだ!」
と、いうのが全部違います。
まず最初、「神や仏…」に関してですが……「式年遷宮」のエピソードを聞いてもらうのがいいかもしれません。
「式年遷宮」っていうのは、伊勢神宮で行われる「神様のお引越し」のことです(20年に一度すべての社殿を新しくして、神様にそちらにうつっていただくというもの。最近の式年遷宮は2013年だったので、テレビなんかで観た人もいるかな)。
現代にいたるまで1300年以上の歴史を持つ式年遷宮ですが、戦国時代の約120年間は、この行事がストップしてたんですね(戦乱だよねー)。
そこで、当時の伊勢神宮の人は、信長にこんなことを頼んできたんです。
伊勢神宮の人「100年以上ストップしてる式年遷宮を復活させたいんです! 援助をお願いできませんか信長さん!」
信長「どんくらいの費用があればできんの?」
伊勢神宮の人「1000貫(1億〜1億5000万円かな)あれば! あとは、寄付でいけると思います!」
信長「ダメだ」
伊勢神宮の人「あ……」
信長「おととし石清水八幡宮を修築したときさ、当初300貫くらいじゃねーかって言ってたけど、結局1000貫以上かかった。だから、伊勢神宮は1000貫じゃ無理でしょ。庶民に『
寄付しろ』って迷惑かけてもダメだし。(家臣に向かって)おい! 伊勢神宮に"3000貫"を寄付するんだ! そのあとも必要とあれば寄付をするように!」
伊勢神宮の人「の……の……信長さーーーーーん!!!!」
もう、信長さーーん! です。
実は信長、
「基本的に神社(神道)もお寺(仏教)も保護するし、ときにはお金も援助するよ!」
というスタンスを取ってるんですね(庶民に迷惑かけちゃダメとかも言ってて優しい)。
だから、キリスト教(イエズス会)も保護してますが、"特にキリスト教だけ"をひいきしてたわけじゃありません。
じゃ、なんで延暦寺や本願寺のことはつぶしにかかったのか?
その答えはすごくシンプルで、"敵"になっちゃったからです。
延暦寺で言えば、信長と敵対した「浅井・朝倉軍」を比叡山にかくまったから、戦闘へGOです(「武器を持たないお坊さんを攻めるなんてひどい!」と思う人もいるでしょうが、延暦寺には「僧兵」っていう”武装したお坊さん”がいます)。
しかも、それにしたってすぐには攻撃せず、まず延暦寺の人たちを呼んで、
「A、信長に味方してくれたらさ、こっちにある延暦寺の領地返すよ。
B、どっちにもつけないって言うなら作戦のジャマだけはしないで。
C、この2つともが無理なら、山ごと焼き払うから」
と、どれがいいか選んでもらってるんですね(で、無視したんで焼き討ちです)。
というわけで信長、「神仏”だから”ぶっつぶす」といったことは一切なく、
「普通にしてりゃ護る。反抗するなら戦う」
という、メッチャクチャわかりやすい理論で動いてただけだったんです。
じゃあこのままさらに、信長のイメージの根本を足払いする話にいきたいと思うんですが、そもそも『武力で天下を統一しようと…』
してません。
「え! もうそこから!?」となる、大前提ひっくり返しパワーボムですが、これは、
「僕らが思ってる"天下統一"と、信長がやろうとしてた"天下統一"にはズレがあるよ」
って意味なんですね。
たしかに信長は、
『天下布武』=武力をもって天下を取る
というハンコを使ってました。
なので、「戦いまくって全国制覇!」ってのが目標だったと言われていたし、僕らもそう思ってたし、教科書にもそう書いてあったんですが…
この『天下布武』の意味が、ぜーんぜん違うみたい。
まず、戦国時代の"天下"という言葉は、"日本全国"のことじゃありません。
戦国時代の”天下”ってのは、
「京都を中心とした五畿内(山城国、大和国、河内国、和泉国、摂津国)」
のことで、今でいう"近畿地方あたり"のことです(現在の近畿地方全部じゃないよ)。
そして、このときは「天下を治める人=足利将軍」というのが当たり前なので、本当の『天下布武』っていうのは、
「足利将軍に、五畿内(近畿あたり)をしっかりと治めてもらう」
って意味なんです。
つまり、信長がやろうとしてたのは、
「足利義昭さんと一緒に、京都やその周辺の国に平和や秩序を取り戻すぞ!」
ということだったんですね(これまで説明されてきた『天下布武』とまるで違う)。
でもこの、将軍・義昭と信長の関係なんですけどね……
信長が義昭を将軍にしてあげた瞬間は、義昭が「マジ信長好きー! お父さんと呼ばせて!」と、気持ち悪いくらい良好なんですが、ソッコーで暗雲ムードに突入するんですよ。
なぜかというと、信長が義昭に"何もさせなかった"から。
なんの権力ももたせず、自分の操り人形(「傀儡将軍」て言うよ)にしちゃったから、義昭チリツモでブチギレて、信長に戦いを挑んじゃうんです(テレビとかでも大体こんなストーリー)。
だけど
あのね、義昭はね、
ちゃんっ…と権力を持ってたんだよ。
それであのね、信長はね、その義昭を軍事力でサポートしてたんだよ(子どもの頃の芦田愛菜さんの言い方で読んでください)。
そう、今まで義昭は、「最初っから操り人形」という設定で語られてきたんですけど、実はそんなことなかったんです。
本当の2人は、
信長「義昭さん、将軍のやるお仕事(大名のケンカを止めたり、京都の支配だったり)を僕に任せてもらってもいいですか?」
義昭「もちろん! 信長のやることは将軍のオレが認めるから!」
という感じで、信長には義昭の"権力"が与えられ、義昭は信長の"武力"が使えるという、ウィンウィンの関係だったんですね(あるときまでね)。
ま、その後なんやかんやあって義昭は信長にケンカを売るわけですが、信長から戦いをしかけてないってことや、途中までのウィンウィン具合を見てると、
"信長は、積極的に室町幕府を終わらせようとしたわけじゃない"
ってのがわかります。
それに、鞆の浦(広島県)ってとこに追放された義昭は、まだ将軍としての力を持っていたので、このときまだ室町幕府は滅んでいない……なんて説も最近濃厚。
じゃ、まとめてみましょう。
今までの信長は、
「全国制覇のために、どんどん領地を広げるぞ! そのためには戦いだ! 大名とも戦うし、古いシムテムもぶっ壊してやる! とにかく戦いだ!」
という、まさに魔王のようなイメージでしたが、本当は、
「室町幕府のもとで天下を平和にするぞ! そのためには神社仏閣も保護する! ただ、命令を聞かないやつや、歯向かってくるものはたたき潰す!」
という感じだったんです(ひと昔前、「世界の警察官」と言われたアメリカと、似てるところがあるかもしれません)。
で、義昭を追放したあとも、
「今度から天下を治めるのはこのオレがやらなきゃ! 平和と秩序のためにはあの大名とあの大名と……あの大名とも戦わないと!」
ってしてたら、領地増えちゃった……のかな。"天下"から"全国"へ、的な。
さ、というわけで、これまで見てきた信長のデータを集約すると……
昔から続く伝統やシステムを尊重しながら、自分が日本を安定させるんだと一生懸命頑張ってたら、やたらと敵が増えてしまった、保守的な裏切られ屋さん。それが、
織田信長です。
イメージ、変わりましたかね?
以上、信長と光秀の本当を丹念に調べてくださった歴史研究家の方々に心から感謝しながら、受け売りをコンパクトにしてお届けしてみました。
あ、そういえば『本能寺の変』には、ものすごい数の諸説があるんですが……
次回だな!
いつも真実が手に入ると思ったら大間違い
信長と光秀の姿、いかがだったでしょう?
ちょびとおさらい。
『本能寺の変』を知るには信長と光秀のこと知っとかなきゃ。
↓
光秀は、超優秀な武将。
↓
信長は、保守的な裏切られ屋さん。
さて、前回も言ったとおり『本能寺の変』(光秀が信長を裏切った理由)にはホントに諸説ありまして、
野望説、怨恨説、朝廷黒幕説、足利義昭黒幕説、羽柴秀吉黒幕説、徳川家康黒幕説……
などなど、説が列をなしてて、かなり楽しめます(細かいのを含めるとその数は40にも50にもなっちゃう)。
ただ、そのほとんどが、フィクションを前提に作られた説だったり、肝心な部分の説明が激ヨワだったり、そして何より、
"今回紹介したホントの信長と光秀をあてはめると成立しない説"
だったり。
とにかく「ファンタジーとしては楽しいお話」ばかりなんですね。
ここでは、その諸説にほぼふれませんので、気になったらいっぱい気にしてください。
そんな中、1つだけ紹介するとすれば、近年「これが一番しっくりくるなぁ…」と言われてる”四国説”。
これ、どういったものかと言うと……
〈四国の大名に長宗我部元親さんという人がいるんですが、あるとき信長は長宗我部さんと同盟を結びます。この交渉をガンバったのが、光秀とその家臣でした。
最初は、
信長「四国に関してはさ、長宗我部さんが戦って手に入れた領地は、長宗我部さんのものにしたらいいよ」
長宗我部「あざす」
という話、だったんですが……
しばらくすると、阿波国(徳島県)の北半分に勢力を持ってる三好さんという武将が織田に従ったんですね。
すると信長さん、
「三好がいるところ、つまり"四国の一部が織田のもの"になったんだから、四国全部を長宗我部の好き勝手にさせるの……嫌だな」
という考えになり、
「長宗我部さんの領地は『土佐(高知県)と阿波(徳島県)の半分だけ』ね! それだけは認めるよ!」
ということを長宗我部に言い出したんです。
これには、長宗我部さんもゲキギレ。
長宗我部「話がちげーだろ! 勝手に決めてんじゃねーよ! あんたにもらった土地じゃないんだから納得できるか!」
信長「あん? だったら長宗我部を攻めるしかねーな」
という展開になってしまったんです。
ここでポイントなのが、
「三好さんは"豊臣秀吉"と仲が良かった」
ってとこなんです。
つまりですよ……これまで信長は、四国のことを
明智光秀・長宗我部コンビ
にまかせていたけど、あるときから、
豊臣秀吉・三好コンビ
でいこうと、方向転換したわけなんですね。
言ってみれば、
「織田という会社の中で、明智部長と豊臣部長が、"四国をめぐるプロジェクト"で争った結果、明智部長が負けた」
という結果を招いてしまったんです。
しかも光秀は、本能寺の変のちょっと前、「中国を攻めてる秀吉のとこに行け!」という命令を出されてます。これは
「同僚を援助する脇役になれ!」
って意味なんで、出世コースから大きく外れてしまったということに……。
そして、光秀が"織田家にとって必要のない存在"になったということは、"明智家全体"がピンチにおちいったということです……。
こうして、未来を失った光秀は現状をぶち破るために、『本能寺の変』を起こしたのでした。〉
って説なんです(この説、もっと細かい話だけど、これくらいにしときます!)。
ただ、「ぽいなぁ…」というレベルが高い四国説も、光秀の動機になったという絶対的証拠があるわけじゃないんで、推測の域をでておりません。
「じゃ、どの説が正解なの?」
と、なってしまうかもしれませんが、今一度言っときます。
光秀の動機はわかってません。
「ホントの2人を知るのが動機の"核"になる」とは言いましたが、だからといって動機がわかるわけじゃありませんし、ここで解明するつもりもありません(ダマしたみたいでごめんなさい)。
しかし、まずは当事者がどんな人だったのかをチラッとだけでも知って、事件の原因を取捨選択してみる…って順番をたどるのが、ステキな楽しみ方なんじゃないでしょうか(自論です)。
ミステリー要素の強い部分だけに注目がいきがちな『本能寺の変』。
ですが、
"諸説のみ"を眺めて「正解はこれだよ」と言ってるだけじゃ、この事件を中身の激薄な四流ミステリーに落としこむことになりますよね。
上澄みだけすくいとって「本能寺の変ってミステリアスなんだよねー」なんて語った日には、安物のワイン飲まされてるのに「この芳醇な味わいは…」と真剣にしゃべり出すおもしろいやつとまったく一緒になってしまうので、ホント気をつけたいところです(それはそれで需要のある個性ですが)。
さてさて。
『本能寺の変』から現代人が受け取れるものってなんでしょう?
それは、武将の行動や思考からの学び……とはちょっと違うんですが、「ホントの信長と光秀を知る」ってとこからスライドして、
「決めつけるのって危ういよね」
ってことだと思います。
今回ご紹介した信長と光秀の姿は、"あくまで現時点でわかってるもの"ですから、この先の研究や発見で、また新たな人物像に塗り替えられていくと思います。
それでも、「むかし授業で聞いたのと違う」とか「テレビやネットで観たのと違う」なんて思った人もいたんじゃないでしょうか。
だからですね、疑うことが必要だと思うんです。
信長さんと光秀さんのキャラ違いを教訓にして、"誰かへの決めつけ"に待ったをかけてください。
「メディアの切り取り報道」「ネットリテラシー」なんてワードをよく耳にする現代、間違った情報を鵜呑みにしちゃう危険は誰にだってあります。
信長さんや光秀さんにネガティブなイメージを持ったとしても、とくに何も起こりません(故人の尊厳を傷付けることにはなりますが)。
しかし、同時代に生きる誰か(有名人でも周りの人でも)に対して間違ったイメージを持った場合、罪もない人を深く傷つけることになるかもしれないし、悪人を持ち上げることになるかもしれません。
大事なのは、人も、人が起こす行動も、自分が最初に触れるのは"全体の中の一つの側面"だということを認識すること。
その上で、全体を俯瞰で捉える努力をして、それでもなお、わかった気にならないことだと思います。
人の行動の真意を究極的に理解するのは無理です。さらに言うと、他人の心を把握してやろうという考えは、おこがましいことかもしれません。
それでも、特定の誰かに対して短絡的な決めつけは行わず、なるべくその思いに寄り添おうとする。
そこで初めて、この社会にとってとても大切な、"思いやり"だったり、"尊重"というものが生まれるんじゃないかと考える次第です(偉そうに言ってますが、自分に言い聞かせてる部分が大きい文章です)。
最後に。
信長さんと光秀さんのことを書きましたが、信長さんにいたっては、あれもこれもやってないということばかり書いたんで、少し否定的な文章に見えたかもしれません。
しかし、まったくもってその逆です。
とんでもなく肯定してます(偉そうにごめんなさい)。
フィクションで彩られ、スーパーマンかダークヒーローのように語られてきた信長より、自分の信じる正義にナルシシズムが入って、人に裏切られちゃう信長の方が、よっぽど魅力的です(褒めてます)。
一発のアイデアでその場を切り抜ける現実味のない英雄より、やるべきことを着実に進めて領地を広げた戦国大名の方が、はるかにすごい武将に決まってます(個人的にね)。
それに、信長という人は、戦国という時代に"何が最適かを考え抜いた人"なんじゃないか、と思うんです(個人的にね)。
本心か表面的かはさておいて、物事を円滑にすすめるため朝廷や幕府とうまくやっていく。
鉄砲に可能性を見出し、楽市楽座というシステムをアップデートして取り入れる。
自分の進む道のためなら”古いとか新しいとか関係ない”。そのとき何が"最善"かを選び続けたのが、織田信長という武将だったんじゃないでしょうか。
目的のためには偏った考えを捨て去り、いい意味で手段を選ばない……これは、”革新的”だと思います。
本能寺が敵に囲まれ、それが明智光秀とわかったとき、信長は、
「是非に及ばず」
ともらしました。
この言葉、
「是か非を議論する必要はない」
「しかたがない」
「やむを得ない」
「どうしようもない」
など、さまざまな訳し方ができるため、真意がわからず、信長が何を思って発したのかは謎のままです。
しかし、「信長という武将は常に最善を尽くしてきた」と思ってる身としては、単なる感想や諦めを口にしたわけじゃない。そう思うし願ってしまうんです。
ここからは単なる妄想です。
僕が思う「是非に及ばず」は、
「是か非を議論する必要はない」
という解釈を使わせていただいた上で、それを
「いいか悪いかを話しあう必要なんてない」
と変化させ、さらにそこに自分の勝手な言い回しを加え、いつも僕の頭の中ではこう再現されるんです。
謀反か。誰のしわざだ
明智軍と見受けます!!!
そうか。話し合ってる暇はないな。
戦うぞ——。
次回へ続きます。
いいなと思ったら応援しよう!
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