
同期と過ごした恐ろしく無駄な時間
山口トンボという作家がいます。
キングコングさんのライブをはじめ、西野さんのイベント、カジサックさんのYouTube、様々なメディア……数々のコンテンツを担当し、あらゆる場所から引っ張りダコの大人気作家です。
そんなトンボくんは元々芸人で、彼と僕は名古屋吉本の同期。
トンボが20歳、房野が19歳の頃に出会ってるので、かれこれ20年の付き合いになります。
僕からの勝手な印象となりますが、トンボとは最初っから馬が合ったというか、ノリが近かったというか。
とにかくすぐ仲良くなり、何をするにでも一緒、という時間を過ごしてまいりました。
一緒に出演するライブ。
ユニットコントの稽古。
仕事以外のプライベートな時間。
ライブが終わって、次回のライブに向けた稽古をやって、それ終わりでグッティの、、
すみません、僕は昔からトンボちゃんのことをグッティと呼んでいるので、ここでもそう呼ばせてください。
稽古終わりでグッティの実家に遊びに行って、夜遅くまで喋って寝て、また劇場に向かう、というようなこともザラにありました。
今思えば、あの時間は本当にかけがえのない、そうですね、僕らの"青春"と言っていいものだったと思います。
なんだかここまでの文章だと、グッティの結婚式で友人代表としてスピーチするような内容ですが、安心してください。
ここから底無しにくだらなくなります。
「何をするにでも一緒」とは言いましたが、駆け出しの若手芸人。
そんなに仕事があるわけじゃなく、お金はないし、時間だけが有り余っているという状態です。
じゃあ一体なにすんの? って話ですが、本当にもうただただ
ミニコント
なんですね。
ミニコント、ってね、これをどう表現すればいいか難しいんですが、要は
「自分たちで勝手に設定を作って、その中でちょっとだけキャラを演じる」
というもの。
ざっくりと言えば、"ただの悪ふざけ"。
このミニコントをね、果てしなく繰り広げるんですが、その中でも定番というものがありまして。
何が定番だよって感じですが、何度もやるお決まりのものがあったりしたんです。
何の予定もなく、とりあえずグッティの実家に遊びに行った夜、その定番は発動されます。
グッティ(以下、グ)「何するー」
房野(以下、房)「何しよっかー」
グ「よし! こうなったらナンパだな」
房「おぉ、ナンパね」
グ「ナンパって言ったら…やっぱレジャランか!」
房「いや……だからレジャランは…」
グ「よし! 出かけるぞ!」
レジャランというのは、グッティの実家から少し離れたとこにあるデカめのゲームセンターのこと。
「レジャラン」としか呼んでなかったので、もはや正式名称は忘れましたが、おそらく「〇〇レジャーランド」とかなんとか、そんなところでしょう。
そこに意気揚々と出かける2人。いや、意気揚々なのはグッティだけです。
しばらくしてレジャランに到着。
一通り屋内を見渡して房野は言います。
房「だからここ人がいないんだって」
レジャランには人がいません。
房野が乗り気じゃない原因はこれです。
グッティの実家や実家近くは、田舎なんです。
愛知県というのは、都会の場所が限定されておりまして、名古屋や栄は確かに大都会なんですが、少し足を伸ばすと、田んぼや畑の広がるのどかな場所があちこちに出てくる。これが愛知県なんです。
岡山の田舎に育った房野が、グッティの実家に愛着を感じていた理由の1つに、ほどよい田舎感というものがあるんですが、、
夜遊びをするとなると、それはデメリットでしかありません。
房「何回これをやる! ナンパをしようにもレジャランには女の子がいない! てか人がいない! 覚えろ!」
グ「おかしいなぁ。今日は人がいないのか」
房「毎回なの! 人がいたことないの!」
この定番のミニコントは、まずわざわざレジャランに足を運ぶところからスタートします。
そこまで房野はツッコミを我慢します。
そして、グッティはレジャランに着いて初めて、人の少なさを不審がります。
で、次にグッティがとる行動は決まってるんです。
グ「あ! あれ房野の好きなやつじゃん」
グッティが指差すのは一台の体感型ゲームマシン。
コックピット感のあるイスに乗り込み、ゴーグルをつけ、お金を入れればゴーグルには任意で選択した映像が流れるというもの。
ゴーグルからはジェットコースターの映像なんかが流れ、その映像に合わせてイスが動くという、今で言えばVR的なマシーンです。
しかし、今から15年以上も前のそれです。
ゴーグルから流れる映像への没入感。0です。
ただただ2Dの映像が目の前で流れてるだけ。
音もそう。
遠近なんて関係なしに、ただただヘッドホンからジェットコースターの効果音が流れるだけ。
それに合わせてイスが、なんとなく動く。
そう、おもしろくないんです。
グ「房野の好きなやつあるよ」
房「オレ好きじゃねーって」
グ「いやー房野あれ好きだからな。待っててやるから乗っていいよ」
房「だから好きじゃねーって」
グ「オレ金出してやるから。乗っていいよ」
房「いやだから…」
抗えずマシーンに乗る房野。
動き出すマシーン。
流れ出す映像。
体感中、房野の口元はピクリとも動きません。
VRならば「うわー!」「ギャー!」などのリアクションがあって然るべきですが、房野の口は真一文字に結ばれたままです。
このとき、1番楽しそうなリアクションを取ってるのは、ジェットコースターを体感してる房野ではなく、それを見てる山口です。
やがて、時間が来て終了。
グッティの元に戻ってくる房野。
グ「どうだった?」
房「おもしろくねーよ」
グ「そんなわけないだろ。好きなのに。じゃあもう一回乗った方がいいな」
房「なんでだよ」
グ「乗った方がいいよ。好きなんだから」
房「好きじゃねーって」
グ「オレが金出してやるから」
抗えずマシーンに乗る房野。
動き出すマシーン。
流れ出す映像。
房野の口は真一文字に結ばれたまま。
笑う山口。
マシーン終了。
グ「どうだった?」
房「だからおもしろくねーよ」
グ「おかしいなぁ。好きなのに」
房「好きじゃないんだって。おもしろくないんだから」
グ「じゃあもう一回乗った方がいいな」
房「なんでだよ」
グ「いいよ、オレが金出すから」
抗えずマシーンに乗る房野。
動き出すマシーン。
流れ出す映像。
房野の口は真一文字に結ばれたまま。
笑う山口。
マシーン終了。
グ「どうだった?」
房「おもしろくねーよ」
グ「えぇ? おもしろいのに?」
房「おもしろくねーと言っている」
グ「好きなのに?」
房「好きじゃないんだって」
グ「おかしいなぁ。じゃあもう一回乗った方がいいな」
房「なんでだよ」
グ「いいよ、オレが金出してやるから」
房「出すなよ」
抗えずマシーンに乗る房野。
動き出すマシーン。
流れ出す映像。
房野の口は真一文字に結ばれたまま。
笑う山口。
マシーン終了。
グ「どうだった?」
房「おもしろくねーよ」
このやり取りが、調子の良いときはあと1、2回続きます。
それが調子が良いのか悪いのかもよくわかりません。
何が恐ろしいって、
お金のない若手が、なけなしの小銭を使い続けてるところ。
もう1人は、感情の一切動かないマシーンに、身を委ねるマシーンと化してしまってるところ。
そして1番恐ろしいのは、このやり取りを見てる観客が0というところです。そこには自分たちしかいない。
この文章を書きながら、スラムダンクの三井寿の言葉がよぎりました。
「なぜオレはあんなムダな時間を……」
しかし、そんな自分たちのことが全く嫌いになれません。
最後に。
愛すべきムダな時間を過ごしたグッティが、ファッションブランドを立ち上げました。
20年かかって素敵な時間の使い方を見つけたようです。
是非”山口トンボ”で検索してみてください。
めちゃカッコいいよ。
いいなと思ったら応援しよう!
