第一章 カゴの中の竹千代 〜家康たんじょう。かなりサイアクなときに〜
徳川家康は、天文11年(1542年)、三河国(みかわのくに。愛知県の東のほう)の岡崎城というところで生まれます。
父は、松平広忠(まつだいらひろただ)。
母は、於大の方(おだいのかた)。
小さいころの名前は、竹千代(たけちよ)です。
「竹千代?? 家康じゃないの? お父さんは松平? 徳川じゃないの??」
と思ったかもしれませんが、むかしは、子どものころの名前と大人になったときの名前が、ちがうのがふつうなんです。
それに、家康さんはもともと『松平』という家の生まれです。
この時代の人は、上の名前も、下の名前も、コロコロとかわるのでご注意を(そういうもんなんです)。
竹千代(家康)は、広忠(パパ)と於大の方(ママ)にとって、はじめての子どもです。家臣のみなさんも
「殿に男の子が生まれたぞー! やったー!」
とはしゃいだでしょうが、そのあとすぐ、
「よろこんでばかりもいられねーか……」
となったはず。
なぜなら、松平のおうちが、とーーってもピンチだったから。
東と西にムッチャクチャ強い武将がいて、もう一回おなじこといいますが、とーーってもピンチだったんです。
東にいるのは……駿河国(するがのくに。静岡県のまんなかと東のほう)と遠江国(とおとうみのくに。静岡県の西のほう)をもっている大名、
「今川義元(いまがわよしもと)」。
西にいるのは……尾張国(おわりのくに。愛知県の西のほう)の大名の家臣の家臣だけど、実力は、大名とおなじくらいの、
「織田信秀(おだのぶひで)」。
東と西に、こんなモンスター武将がいたもんだから、松平家は、24時間大ピンチ。
しかも、今川と織田が、三河国をはさんでケンカをくり返すから、松平家はたまったもんじゃありません。
それでも、竹千代のおじいちゃん、松平清康(まつだいらきよやす)のころは、よかったんです。すっごく勇ましいおじいちゃんだったから、今川と織田にもギロリとにらみをきかせてた。
ところが、おじいちゃんが尾張国をせめようとしていた、そのとき!
シュピン! キラン! グサッ!!
おじいちゃん「ギャーーーーー!!」
なんと、家臣のひとりに殺されてしまったんです。
悲しいかな、家臣が主君(お殿さま)をうらぎったり、親子や兄弟でもあらそったりすることが、あたりまえのようにおこったのが戦国時代。
竹千代のおじいちゃんは、あっけなく死んでしまいます(おじいちゃんとは言ってますが、死んだときの年れいは25さいです)。
そうなると、あとをつぐのは竹千代パパの松平広忠……なんですが、広忠はこのときまだブッチギリの子ども。たったの10さいです。
そうすると、
「清康(竹千代のおじいちゃん)が殺された!? で、あとをついだのはまだ10歳のガキだとぉ!? へっへっへ……こりゃチャンスだ!!」
という、大人たちがでてくるんです。
そして、
「よーし! 広忠をおい出し、このオレが岡崎城をいただいてやる!」
と、考えたのが『松平』さんだったんですね。
ん? おなじ名字?
そうです。なんと、岡崎城を乗っ取ったのは、おなじ『松平』の一ぞく。
親せきのおじさんが、広忠をおい出したんです(さすが戦国時代)。
10さいというと、これを読んでくれてるみなさんとおなじくらいの年れいです。
ちょっと、そうぞうしてみてください。
自分を守ってくれた強いお父さんが、いきなり死んでしまった。
まわりには自分の家をねらう、武器をもった大人たち。
でも自分は、自分の家をまもらなきゃいけない……。
みなさんだったら、どうします?
広忠と、広忠をささえる家臣たちの出した答えは、
「メッチャクチャ強い武将に助けてもらおう!」
というものでした。
松平広忠「今川さーーーーーん!」
広忠たちは、駿河国と遠江国の大名で、海道一の弓取り(東海道って地いきで一番強い大名)といわれる、今川義元をたよったんです。
その後、広忠は、今川さんの力をかりたおかげで、岡崎城に帰ることができたのでした。
でも……。岡崎城にはもどれたけど……。
今川義元「またなんかあったら言ってきなさい。これからも、よろしくね(ニヤッ)」
広忠「(ゴクリ…)は、はい……」
なんだかやってしまいました(こんなやりとりはなかったでしょうが)。
今川をたよったから、大きなかりができてしまった……。
こんどから、今川のいうことを聞かなきゃダメかも……。
しかも、あいかわらず西のほうからは、織田がこちらをねらっている……。
ハッキリ言って松平家、サイアクのじょうたいです。
そんなときに竹千代がポン!
「殿に男の子が生まれたぞー! やったー! でも、よろこんでばかりもいられねーか……」
そう、家康(竹千代)は、松平のおうちがボロボロのタイミングで生まれてきたのでした。
さきに言っておきましょう。生まれたばかりの竹千代くんには、どんどんツラいことがおこっていくんです。
つづく。
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