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『かがみの孤城』を2589文字で推してみます 所要時間4分
※全編を網羅するネタバレではありませんが、ネタバレしてる部分もあります。ホントにまっさらな状態で読みたいって方はキケンです。ここでお帰りくださいませ。
『かがみの孤城』という本をご紹介したいと思います。
「お前が推さなくても売れまくってるよ」
なんですが。
それでも、「本? あー最後読んだのズッコケ三人組かな」という方を対象に、勝手に書かせていただきますね。
『かがみの孤城』の著者は辻村深月さん。
最近では小説だけでなく、2019年公開「ドラえもん のび太の月面探査機」の脚本も手掛けられてる、これを売れてると言わずしてどれを売れてると言うんだ、というくらい売れてる方でございます。
では、最初にザッとしたあらすじを言っとくと……
主人公は安西こころという中学1年生の女の子。
なんだけど、入学してすぐ”いじめ”のために不登校となります。
そのためフリースクールに通う予定だったんですが、それも当日になるとお腹が痛くなって行くことができない。
沈んだ気持ちで毎日をすごしていたあるとき、
部屋の鏡が光りだしたんです。
まばゆく光る姿見に「どゆこと?」と唖然とするんですが、鏡に手を伸ばした瞬間、その中に吸い込まれていっちゃう。
そのまま倒れてしまったこころは、自分を呼ぶ声に気づき顔を上げるんですが、そこにいたのは
狼
のお面をつけてる、かわいいドレスを着た小学校低学年くらいの女の子。
さらに、目の前に広がるのは西洋のどデカいお城。
なんだこの世界観…というか、世界…。
恐ろしくなったこころは、引き止める女の子を無視して、自分の部屋に戻ってしまいます。
でも気になる。
だから翌日、またいっちゃう。
すると、たどり着いたのはお城の中で、そこにいたのは、またもやの狼女子、、と、
自分と年齢の近そうな、男女6人の子どもたち。
まったく状況がつかめないこころと、同じく何も聞かされてない少年少女に、オオカミは説明を始めます。
・この城には"願いの部屋"がある。
・そこに入れるのは1人だけ。願いが叶うのも1人だけ。
・今日から3月30まで、部屋に入るための"鍵探し"をしてもらう。
・3月30日をすぎれば、城へは入れなくなる。誰かが鍵を見つけて願いの部屋を開けた場合は、3月30日を待たず城は閉じる。
・毎日城が開いてるのは、日本時間の朝9時から夕方5時まで。
説明を聞いても、何が何やらさっぱりだけど、こころには1つだけわかったことがあります。
朝9時から夕方5時にここに来れるということは、
自分を含めた全員が、学校に行ってないんだ——。
と、いうのがざっくりとした導入部分です(概要説明なので、多分に自分の言い回しで書いております)。
頭で言うべきことでしたが、この本、もうメッチャクチャにおもしろいです。
鏡の中に吸い込まれ、、という設定だけで
「ファンタジー小説?」
と思われた方もいるでしょう。
でもね、全然違います。
いや、鏡の中にお城ですから、全然違うこともないんですが、「ファンタジーに終始する」ってわけじゃないんですね。
「異世界だー! 新しい冒険の始まりだー!」と、現状抱えてる悩みはどこいったの? となるタイプのお話じゃありません。
お城の滞在時間は9時〜17時。
ってことは、それ以外の時間は普段の生活に戻るし、9〜17にしたって、城に来いと強制されてるわけじゃない。
こころの日常を描く気満々の設定なんですね。
なので、まずお伝えしたいポイントは
「入りはファンタジーだけど、子どものリアルな苦悩を描いてるんだよ」
ってとこと、
「その描写が秀逸すぎ」
ってとこ。
こころのまわりで起こってることは、現実の子どもたちが強いられてるリアルなシチュエーションです。
フィクションだけど…
リアルです。
読んでると、ぅ…っときます。腹も立ちます。
それに、こころの心理描写がうますぎるせいか、こころと同じ体験がなくとも、自分の思春期の一場面とリンクする瞬間もあったりするんですね。
あーあのときおんなじようなこと思ってたな……とか。
同じような悔しさ感じたことあるな……とか。。
文章にえぐみがあるわけじゃないのに、ところどころドスリとくるんです。
さらに、どうしようもない大人の描き方がとんでもなくうまい。
極小の物差しでしかすべての事柄を判断できない浅はかを爆発させたような大人が、本人的にはよかれと思ってなんだろうけど、見事なまでに表面的でペラすぎる発言を、こころに浴びせかける場面があるんですが……
とっても口悪く言っちゃいますけど、"本当の意味でのバカ"が子どもを傷つけるとこは、怒りと切なさ、赤と青の炎が同時についた感覚になりました。
こういうところでも感情が引っ張られるから、没入具合は水深…何mなんでしょう?
ここまでの紹介だと、少しダークな印象かもしれません。
が、決してそんなことありませんよ。
全体を通して、不思議とどこか柔らかさを感じる文章なので、安心して読み進めてください。
んで、10代の機微をしっかりと描きながら、そこにミステリーの要素が絡んでいくんですが、
これが爆発的におもしろい。
ファンタジーに終始しない、とは言いましたが、狼の面をかぶった女の子や西洋のお城が鏡の中に出現するという世界を用意したことには、もちろん当然当たり前だけど、意味があります。
ファンタジーだからこそ、いや、ファンタジーじゃなきゃ、ここまで心を揺さぶられなかった展開が、後半にかけて押し寄せてきます。
誰がお城を用意したのか?
なぜ願いを叶えてくれるのか?
3月30日という期限に意味はあるのか?
集められた7人は学校に行っていないが、はたして共通点はそれだけなのか?
疑問だらけの中、こころたち7人は少しずつ交流を重ねていきます。
それらのやり取りは……ここでは紹介しません。
でもね、
後半、
いわゆる"回収"と呼ばれる、謎が解明されていくパートに入ると、
そこからは怒涛です。
そうか、
そういうことか、
あれも、
これも、
え、あれもそうだったの?
え、あれがここで繋がるの!?
え、うそ!?
もう一度言います。
怒涛です。
こんなに激しいテンポで伏線を拾い上げる小説、滅多に出会えるもんじゃありません。
真実がわかるたびに感動が積み重なっていくストーリー、唯一無二です。
しつこいですが、言わせてください。
怒涛です。
子どものコミュニティは広くありません。
ですが、その子にとってはその"世界"がすべてです。
でも、世界は他にもあって、あなたのことを必死で支えてくれる人が必ずいる。ってことを伝えてくれる、本当に優しい物語。
『かがみの孤城』、ぜひご覧になってみてください。
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