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約束の「さようなら」2

約束の「さようなら」より


片桐頼継は、がんで逝った。
片桐は、ぼくらに自分の病気の事を知らせなかった。
片桐の奥さんから、病名を聞かされた時には、もう、手遅れだった。
「水臭い奴め」と怒りもしたが、
ぼくに「親友の死に怯える時間」を与えたくなかったからか
とも、想った。
その結果、ぼくの中の片桐は、今でも若くて元気だ。

2015年6月、片桐の死から8年後、ぼくにもがんが発現。
5年生存率5%との診断だった。

ぼくの「5年致死率95%の病気」を大切な人に、知らせるか否か。

ぼくは、きちんと「さようなら」を伝えることを選んだ。
それは、片桐と「さようなら」できなかったことで、
死を受け入れることができなかった苦しみを知っていたからだった。
片桐の病気を隠し続けた、奥さんの悲嘆を知っていたからだった。

2ケ月の放射線治療と抗がん剤治療。
その後の12月の抗がん剤治療。
そして、死を受け入れるための、精神腫瘍科での治療。
死ぬ気まんまんのぼくは、自分が生きた証が欲しかった。
大切な人に、ぼくのことを憶えていて欲しかった。
いなくなったぼくを、思い出して欲しかった。

ぼくの願いは、作家稲垣麻由美によって結実する。
がんという病気が精神面に及ぼす影響と、
それを癒す精神腫瘍医の存在を世に知らしめる書籍。
「人生でほんとうに大切なこと 
 がん専門の精神科医清水研と患者たちの対話」

そして、この本を通じて出会った様々な人たちに、
ぼくは、片桐の話をした。

片桐の話をするたびに、
ぼくは片桐との約束を果たしたいと思った。
そして、約束を果たすまでは死ねないとも思った。
片桐との約束を果たすこと。
それが、ぼくの命を延ばしていたのかもしれない。 

  「春のカミサマ」
 作:千賀泰幸 演:飯島晶子


企画:片桐 頼継 作:千賀 泰幸 演:金井雄資
  「春のカミサマ」



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