見出し画像

約束の「さようなら」3

 約束の「さようなら」|「さようならの理」千賀泰幸 (note.com)
 約束の「さようなら」2|「さようならの理」千賀泰幸 (note.com) 
 
 2年前の2022年の夏。
 新しいがんが見つかったのは、肺がんの治療痕の痛みから
 国立がん研究センター中央病院に通院を続けているおかげだった。
 それは、休眠状態の肺がんの転移ではなく、新しいがん。
「やはり、がんで死ぬのか」
 そう思った。
 切除手術か、放射線治療か、あるいは、経過観察か。
 選択をする間もなく、突発性心筋梗塞が発症。
「やはり、胸の病気で死ぬのか」
 そう思いながら、
「自分にはあまり時間がない」
 と、がんの宣告を受けた時の決意を新たにした。
 いや、痛みと闘ううちに、後回しにしていたことを思い出した。

 そんな時、稲垣麻由美から連絡があった。
飯島晶子さんが、『神様になったクモ』を朗読したいと言ってます」
 飯島晶子は、がんで大切な人を亡くしていた。
 精神腫瘍医清水研の存在を知って救われた一人だった。
 
「神様になったクモ」は、ぼくが二十歳の時に自主出版した本のタイトル作だった。
 そう、表紙絵は、金井雄資が描いてくれた。
 稲垣麻由美は、この本を気に入ってくれて人に勧めてくれていた。
「朗読するには長すぎるから、リライトして欲しい」
 ぼくは、メンターの吉澤由紀の力を借りることにした。
 心筋梗塞で生死の境目を彷徨った後、ぼくを支えてくれた人だった。
 
 朗読用に書き直すうちに、還暦を鴫原ぼくは二十歳の時の「神様になったクモ」の続きを書きたくなった。
 書きあがった朗読用「春のカミサマ」(タイトルを変えた)を読んで
「絵本になったらもっと伝わる」
 と、二十歳の時からの読者の一人がいった。
 たくさんの人が、長い時間、この作品に関わってくれていた。

 とはいえ、ぼくには絵は描けない。
 今や、宝生流を、能楽界を代表する能楽師となった金井雄資師に
 絵を描く時間はない。
「もしも、片桐が居たら、片桐に描いてもらっただろう」
 けれども、片桐はいない。

 そんな時、やはり二十歳の頃からの読者である妻が言った。
「絵師さんを探せば良い」
 妻はネットで絵師さんを探し出して、絵本を創った。
「この絵本に朗読を付けた動画にすれば、世界に発信できる」
 
そんな時、片桐頼継の著書「レオナルド・ダ・ヴィンチ 伝説と実像と」が復刊された。
 
 ぼくたち3人は、いつもたくさんの人に伝えたいと願ってきた。

「この絵本で片桐との約束を果たすことにしよう」

 ローマで交わした約束は37年かかって、ようやく果たされた。
 約束の「さようなら」|「さようならの理」千賀泰幸 (note.com)
 約束の「さようなら」2|「さようならの理」千賀泰幸 (note.com)

 今日が、片桐頼継の命日だ。
 2006年10月15日片桐頼継死去。享年49歳。

 けれども、今でも、片桐は一緒にいる。

 企画:片桐 頼継 作:千賀 泰幸 演:金井 雄資 

 あなたの「春のカミサマ」|「さようならの理」千賀泰幸 (note.com)

 
  



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?